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「……まさかあなたが、『愚者』のリーダーだったとはね」

 近衛伐士の朝のミーティングが開かれていた。

 キリアン・ヴァルコを中心に隊員たちがその周りに座っている。それぞれがその手に水報板を持ち、ヴァルコの話に耳を傾けている。


 さて、彼らは水報板で何を見ているのかと言うと……


 まぁ、この俺なんだなぁ。


 正確に言えば、クロスアイの仮面を着けた俺なんだけどね。


「この者は進水式の際、破壊工作を目論んだ愚者たちを手助けしていた」


 ヴァルコは俺たちの前をゆっくりと歩きながら話し続ける。


「見ての通り、不敬にもヲイドの神聖なる眼を否定するマスクを着けている。間違いなくヲイド教に敵対する意思を持っているだろう」


 うん、ヴァルコの言っていることは正しいね。

 ただ、魔人であるお前が言うのかねって思うけど。


「警護に当たっていた伐士たちを倒す程の身体能力の高さから、奴ウ力の心得があるものと見て間違いないだろう」


 さらに、とヴァルコは俺たち一人一人の顔を見回す。


「このクロスアイがどうやって愚者たちを街から脱出させたのかも謎だ。別に協力者がいたのか、それとも未知なる力、技術を保持しているのか……いずれにしろ、我々は他の部隊と連携して情報収集、対策を立てていく方針である」


 確かに他の者にとっては謎だろうが、ヴァルコなら薄々感づいているだろう、このクロスアイが自分と同じ魔人であることを。

 問題はそれが俺だってことがバレているかどうかだ。


 ま、バレたからといって、魔王軍としての活動と思わしとけばいいし、さほど問題ではないと思うけどね。


 ヴァルコの話が終わったところで俺はプリマスとの視覚、聴覚の同調をやめた。

 そう、ミーティングに参加していたのは俺に変身したプリマスだ。

 本当の俺は今、巨大馬車に乗って窓の外に眼を向けているんだな。

 ただし、俺の姿は神経質そうな中年の男に変わっている。


 目的は一つ。

 反ヲイド組織『愚者』のリーダーに会う為だ。


 窓の外には見覚えのある街の景観が広がっている。


 俺はその目的を果たす為に学術都市カルスコラにやって来ていた。


 ◆


 街に入り、目的の場所に向けて足早に歩を進める。


 懐かしい。

 以前ここに来たのはセブンス嬢たちと共にお茶会に参加した時だったな。

 あの時に初めてルクスアウラ王女と会った。

 まさか今、彼女に仕える身になるとはな。


 川沿いの通りを歩いて行く。

 それは以前、セブンス嬢と共に歩んだ道だった。

 そして見憶えのある建物にたどり着く。


 俺が扉の前に立つと、向こうから扉が開けられた。

 そこには老人が立っている。


「やぁ、そろそろ来ると思っておったよ」


 老人は柔和な笑みを浮かべて俺を出迎える。


「こんにちは、バロー天才博士」

「さぁ、入りなされ」


 部屋の中も変わらない。

 大きな実験台には相変わらず使用方法が不明な実験器具が置かれ、そして壁際の戸棚には瓶詰が並んでいた。

 この老人はザッカリー・バロー天才博士。

 エヴァ・セブンス嬢の兄上様の教師であり、奴ウ力学者でもある。

 彼はあのアイザック・コシュケンバウアーの師でもあるのだ。きっと凄い経歴の持ち主なのだろうが、このカルスコラの端の土地で質素な暮らしをしている。

 何でなのか不思議だったが、やっとその謎が解けたぜ。


「茶でも飲むかね? 良いモノが採れたのじゃよ」


 バロー博士は中庭の方を指し示す。

 その中庭はドーム状の透明な屋根で覆われており、ちょっとした植物園になっているのだ。そこで彼は色んな種類の植物を栽培しているんだな。


「えぇ、いただきます」


 俺は部屋の中央に置かれているソファに腰かけた。

 しばらくして、バロー博士はティーカップをテーブルに置いてくれた。濃い緑色に新鮮な葉っぱの匂いがする。

 俺は一口飲んでバロー博士に眼を向けた。

 彼も俺の方に興味深げにその灰色の眼を向けている。


「しかし、その姿。中々ユニークな特技を持っておるのぉ……クリプトン君」


 博士はニコリと笑みを浮かべて言った。


「それが魔人とやらの力かの? いやぁ、只者ではないと思っておったが、まさか魔族の者だったとはの。実に驚きじゃ。長生きするもんじゃわい」


 俺の正体を知りながらも博士はまったく警戒心を抱いているようにはみえない。大した老人だ。


「驚いたのはこっちですよ、バロー博士……まさかあなたが、『愚者』のリーダーだったとはね」


 ◆


 ダーツからその名を聞かされた時、驚きと同時に妙に納得もしていた。


 エヴァ嬢と共に博士の元を訪れた際、彼には色んな話を聞かせてもらった。

 ルシアンが奪われた本名のこと、彼の両親であるグウィン夫妻が研究していたこと、その過程で発見した硬貨の秘密、そして夫妻がヲイド教の上層たちによって謀殺されたことなど、危険極まりない情報を教えてくれたのだ。


 まだ会ったばかりの俺にだぜ?

 彼はあの時直感で俺のことを信用できると言っていた。

 そして俺も、いずれ博士とはまた再会するだろうと確信していたっけな?


 ま、そんなわけで、今目の前にいるこのデンジャラスなじーさんこそが、俺が捜していた人物だったわけだ。


「それにしても、天才博士という割に『愚者』とはえらく謙遜されていますね?」

「ふふん、天才とは己の愚かさを自覚している者じゃよ」


 なるほど……いや、わからん。


「それに、ヲイドというこの世界そのモノに反逆しようというのじゃ、愚者以外の何者でもあるまいて」

「世界そのモノですか……」


 うーん、確かにな。

 それなら俺も愚者の1人ではある。まぁ、その前に邪神の僕なのだが。


「では、クリプトンくん。君の話を聞かせてもらおうかのう?」


 バロー博士はまるで世間話でもしているかのような調子で言った。

 だが、だからといって気を抜いてはならない。


 俺はダーツにしたのと同様の話を博士にした。









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