「正確に言えば、半魔族の魔人です」
ダーツが潜伏している場所は森の中にあった。
比較的大きな木の洞の中に手を突っ込むヘクター。
すると次の瞬間、その木の根が持ち上がり階段が現れた。
「この下だ」
その階段を降りていく。
周りに明かりはないが、下の方から光りが漏れていて見通しは悪くない。
階段を降り切った先はちょっとした広間になっていた。
中央には木製の円形テーブル。壁際にはいくつかの棚が設置してある。
その壁際に寄りかかりながらこっちを見ている男がいた。
元伐士養成所教官にして愚者のメンバー。ギュロッセ・ダーツだ。
「こうも早く再会できるとは思わなかったぞ、クリプトン」
黒豹を連想させる風貌に鋭い目つき。
その彼の視線が俺を捕らえている。
「それは俺も同じです。運が良かった」
「ほう」
教官は目を細める。こっちの出方に一応興味はあるようだ。
「それはなぜだ?」
「我々はきっと良き同志になれるからです」
「同志に?」
「ヲイドに反抗の意思を持つ者という意味です」
ダーツは俺の顔をじっと見つめる。
「改めて聞く。お前は……魔族か?」
「正確に言えば、半魔族の魔人です」
そう答えるとダーツは怪訝な顔をする。
「半魔族の魔人だと? なんだそれは?」
「言葉の通りですよ。俺の半分は魔族であり、もう半分は人間なのです」
「お前は何を言っているのだ?」
ダーツは表情を硬くして俺のことを睨み付けている。
「前にも見せたと思いますが、実際に見ていただいた方が早いですね」
俺は魔手羅を出してみせた。
「……」
ダーツは身構える。
そんな彼を手で制して敵意はないことを伝える。
「これで信じてもらえますね?」
俺はすぐに魔手羅を収めた。
「これは魔手羅という魔人専用の攻撃器官ってとこですかね」
「……やはりその腕は」
ダーツは放心した様子で俺のことを見ている。
そういや、前も魔手羅のことを知っているような反応だったな。
「あの、ダーツさん?」
「……つまりキサマら魔王軍に手を貸せということか?」
腕を組んで上を見上げるダーツ。
何やら思案しているようだ。
「いえ、正確に言えば魔王軍ではありません。俺は魔王軍とは敵対している組織に所属しています」
「は?」
ダーツは困惑しているようだ。
それも当然だろう。
だったらここはちゃんと説明することにしよう。
俺ははぐれ魔族たちについて詳しく話した。
「なるほど、お前たちの中にも我々のような存在がいるのだな……」
ダーツは考え込んでいる様子だ。
まぁ、そうすぐに結論が出る話でもないだろう。
「仮にそれが本当の話だとして、協力することでメリットがあることもわかる。だが、そこまでして欲しいメリットとは思えない。それにクリプトン、貴様を信用していいものか疑問だしな」
もっともだ。
だけど、納得してもらわなけりゃ先に進めない。
「はぐれ魔族と言えど、こちらには将軍クラスもいます。魔族側の情報を得られるだけでも十分魅力だと思います。それに奴ウ力にはない力というのは戦略の幅を大きくできると思います、ってのはどうでしょう?」
するとダーツは苦笑いを浮かべながら首を振った。
「どうやら、交渉力はまだまだのようだな。それでは納得させることはできないぞ?」
あらら、ダメだしされてらぁ。
「まぁ、俺は言葉よりも行動で示す派ですからね。ついでにもう一つアドバイスを頂きたいです。どうやったら俺のことを信用してくれますか?」
元教官殿は俺を指差す。
「貴様のこと、つまり魔人のことをもっと教えてもらおう」
「わかる範囲のことでしたら、えぇ、お答えしましょう」
質問によっては答えたくない、答えることができないことがあるからね。
「魔人はどのくらい人間側に潜入している?」
はい、いきなり答えられない質問がきましたよ。
「それは俺にもわかりません。魔人同士はお互いのことを知らないよう取り計らわれています」
「そうか、なら次にする質問も答えられないだろうな」
「どんな質問です?」
「貴様ら魔人はいつから潜入しているのか、だ」
いつから潜入しているか、ねぇ。
確かにわからない。
「だいぶ前からだとは思いますが、正確にいつからかはわかりませんね」
「……なるほど」
ダーツは物思いに耽るように上を見上げる。
「私はな、クリプトン。昔、魔人というモノに遭遇したことがあるのだ」
えっ!?
「あまり良い想い出ではなかったがな」
驚きを隠せない俺を他所にダーツは淡々と語り続ける。
「貴様が魔人の存在を教えてくれた時、驚きはしたが、同時に納得したのだ。あの忌々しい出来事は現実だったのだと。だからこそ、魔人だという貴様を簡単には信用できない」
ダーツは魔人と会ったことがあるだって?
それも忌々しい出来事って。
その魔人も俺のように人間社会に潜伏していたんだろうか?
そういや、ダーツは前に伐士の1人から『味方殺し』って言われていたな。
その辺が関係あるのだろうか?
「――とは言え、私1人で判断するわけにはいかないだろう」
考え込んでいら俺に向けてダーツは軽く笑みを向けてきた。
「我々のリーダーに会わせてやる、クリプトン」




