表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
174/249

「クロスアイ……?」

 進水式当日。

 俺はダーナムの街の屋根からこっそり周囲の様子を伺っていた。

 新型戦艦の破壊にはある特殊な遠距離武器が使われるとのことだった。

 だから、俺がもし破壊工作員だとしたらこの辺だろうなってところに分身プリマスとちょっとしたトラップを残しておいた。


 あのヒョロ男ことヘクターが言うには今回の戦艦破壊作戦を実行しようとしているのは5名らしい。

 とりあえずその5名を助けることができれば、俺はダーツ元教官殿に会える約束になっていた。


 さて、こっちはこっちで良いとして、プリマスの方はどうだろうな。

 俺の身代わりになっているプリマス分身体に視覚と聴覚を同調させる。


「さぁ、アルゴン召し上がれ」


 いきなりルクスアウラの声が聞こえてきたかと思えば、目の前にケーキがある。

 プリマスは遠慮がちにそのケーキを食べた。残念ながら味覚の同調はできないので、それがどんな味かわからない。

 まぁ、しかし、あっちはいつも通りで問題はなさそうだな。


 感覚同調をやめて俺は別の屋根に飛び移った。

 式の開始までまだ時間はある。できる限りのことはやっときたい。


 ◆


 ちょっと離れたところから拡声された愛想の良い男の声が聞こえてきた。

 進水式が始まったのだ。


 俺は分身体プリマスと連絡を取り合いながら屋根の上を飛び越していく。


「――みなさま、本日は王族の方々がお出でになっております」


 これは進水式会場にいる本体プリマスからの声だ。

 ってことはそろそろ愚者たちも仕掛ける準備をしていそうなもんだけど。


 その時、分身体の何体かとの繋がりが弱くなった。


 ゴーレム阻害装置だ!


 俺は一番近い分身体のところに向かった。

 屋根の上にひっそりと蹲っている男の姿が見えた。

 彼は何やら武器らしきモノを操作している。


 そんな彼の前に俺は降り立った。


「やっ! って、待った待った! 俺は敵じゃねぇ」


 逃げ出そうとする男の首根っこを後ろから掴む。


「俺はヘクターからの頼みでこうしてあんたらに会いに来たんだ」

「ヘクターだと?」


 男は困惑した声で尋ねてきた。


「お前は何者だ?」

「とりあえずこの仮面を見てくれれば俺がどんなヤツかはわかってくれると思うぜ?」


 そう言って男を掴んでいた手を離す。

 男は恐る恐るこちらの方を振り向いた。


「お前! その仮面はっ!?」


 俺の仮面を見るなり驚きの声を上げる男。


「正気か?」

「あんたら程イカれちゃいねぇさ。本気で新型戦艦を破壊するつもりなんだろ?」


 男は武器を構え直した。


「あぁ、そうだ。ヘクターに言われて止めに来たのか?」

「いんや、邪魔する気はねぇよ。やりたきゃやればいい」


 ただ、そう上手くはいかないらしい。

 不意に背後から気配を感じた。


「伏せろっ!」


 俺は男をその場にしゃがませた。

 電撃を帯びたワイヤーが目の前を通り過ぎる。雷銃だ。

 そちらを見れば3人の伐士たちが俺たちに迫っていた。

 愚者たちの襲撃が予期されていたらしい。


 袖の内側から魔手羅を出し、三本のワイヤーを掴む。

 そしてそのまま自分の方へ引っ張った。

 不意を突かれた伐士たちは抵抗することなく屋根の上に叩きつけられる。呻いている彼らに蹴りを入れて気絶させてやった。


「プリマス、伐士たちが来た」

「こちらも確認しています。トラップを発動させますか?」

「あぁ、頼む」


 他の場所には予めスライムトラップを設置してあった。伐士たちが来れば分身プリマスがそれを発動させる手筈になっていた。

 屋根に設置していたスライムトラップが発動する。黒い液状の物体が迫っていた伐士たちの体に纏わりつく。彼らは屋根の上でのたうち回っている。

 俺はその光景を分身体の目を通して見ていた。

 上手くいっているようだ。時間を稼いでいる間に愚者たちを逃す。


「あんたらにゃ一時的に人間をやめてもらうぜ」

「は?」


 困惑している男に手をかざす。

 すると、男の姿形がみるみる変化していき、その姿は鳥に変わっていた。

 シェイプシフターの完全変態を使ったわけだが、この魔鬼理は魔力の消耗が激しい。あと4人も施さなきゃならないから、極力戦闘では温存せねば。


「とりあえず街の外、南の森まで飛んで行け――え、何? 飛び方がわからない? 大丈夫だ。ジャンプしてバッサバッサしてりゃそのうち飛べるって!」


 俺は鳥になった愚者メンバーを残して他の者たちの所に向かった。

 2人目では、伐士たちは運良く全員スライムトラップの餌食になっていた。

 3人目、4人目に関しても順調に助け出すことができた。

 さて、残る1人だが。

 そいつは昨日ヘクターと話し合っていた男だった。


 彼がいたのは造船所の屋根の上だった。

 3人の伐士たちに今まさに取り押さえられそうになっている。

 俺はそんな彼らの側に降り立った。


「なんだ貴様は!!」


 伐士の1人が鋭い視線を投げかけてくる。しかし、俺が着けている仮面を見るや、その目は大きく見開かれていく。


「そ、その仮面は!?」


 上擦った声を上げる伐士。

 ふふーん、それはそうだろうな。


 ここで俺の仮面のデザインを説明しておこう。

 白地に大きく1つ目を描いているんだけど、その目に大きな赤いバツ印を刻みつけているんだ。


 1つ目はヲイドの象徴。

 そこにバツ印を刻む。

 つまり、反ヲイドを表しているのだっ!


「ク、クロスアイだと! 貴様、我らが主を愚弄しているのか!?」


 クロスアイ……?

 あー、まぁ見ようによってはそう見えるのか。

 え、でもちょっとダサい。

 クロスアイ……うーん。


「こいつも処理する!」


 クロスアイという謎ワードに翻弄されている間に険しい表情で襲い掛かってくる伐士たち。

 俺は愚者の男の腕を掴んで屋根の端まで駆け出した。そして下を覗き込むと1つだけ空いている窓があった。

 俺は男を担いで空いている窓から造船所の中に飛び込んだ。

 3人くらいなら倒せそうだけど、魔力があまり使えないうえ、愚者の男を守らなきゃならないからな。

 逃げるのみよ。

 

 中では今まさに船が作られている最中らしく、あのロボットアームのようなモノがせわしなく行ったり来たりしていた。


「とりあえずあいつらから逃げ切らないとな」

「お前は一体誰なんだ?」


 愚者の男が困惑した様子で問いかけてくる。


「それは後だ。今はとにかくここから逃げ切ることだけを考えな」


 背後から伐士たちが追ってくる。


「よし、ちょいと無茶するぞ」


 俺は愚者の男をロボットアームに向けて放り投げた。そして俺もアームに飛び移った。

 それまで規則的に動いていたアームは、俺たちという異分子の出現によって不規則な動きをし始めた。


 まるで絶叫マシーンに乗っている気分だ。

 縦横無尽な動きによって弾き飛ばされそうになる。


 追手の伐士たちはさすがに飛び移ることには躊躇っている。


「あっちに飛ばすぞ!」


 隣にいる愚者の男に呼びかけて、彼を対角の位置にある別のアームに放り投げた。

 そうやってアームを次々と渡り、外へと飛び出す。

 誰も追ってきていないことを確認すると、愚者の男を変態させる。そして自分も鳥に変身し、ダーナムの街から高らかに飛び立った。


 街から程ない所にある森に俺たちは降り立った。

 少し開けた所に他の鳥たちもいる。

 俺は全員の変身を解いてやった。


 戸惑いの表情を浮かべている面々。

 そこに1人の男が木々の向こうからやってきた。


「まさか本当に全員助け出すとはな」


 声の主はヘクターだ。俺と取引を交わした男。


「こいつは一体何者なんだ?」


 愚者の1人が尋ねる。

 するとヘクターは肩を竦める。


「それはこっちが知りたいね」


 そして俺の方に向き直り、


「約束通りダーツさんのところに案内しよう」


 俺はコクリと頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ