「錬数術……?」
俺たちはフィフス氏に案内されるがまま造船ブロックを進み続けた。
「この先に新型戦艦があります」
彼は頑丈な扉の前で俺たちの方に向き直る。
「では、みなさん、どうぞお入りください」
扉が勝手に開いていき、光が差し込んでくる。
俺たちは次々に扉を潜って中へと入った。そして、みな息を呑んでその光景に目を見開く。
目の前に、白銀に輝く巨大な戦艦が悠然と佇んでいた。
「美しいわ……」
ルクスアウラ王女はうっとりと戦艦に見惚れている。彼女の言葉には俺も共感した。
それは戦艦にしてはあまりにも芸術的デザインというか、何か神々しささえ感じてしまう。
滑らかな船尾に比べて船首は研ぎ澄まされた鋭さがある。
これが太陽を背に海を航行している姿はさぞかし見栄えが良いことだろう。
「皆様、どうやら気に入っていただけたようですね。ただ、凄いところは見た目だけではありませんよ。この戦艦の注目すべきところはその装甲であります」
フィフス氏は白銀の装甲を指し示して話を続ける。
「先程も言いましたが、この装甲はコシュケンバウアー博士の発明によって生み出されたものです。えぇ、それはもう歴史に残る程の偉業ですよ。なんせ、これまで存在しなかった新たな物質を創造したのです。その名もバウアニウム!」
新たな物質の創造。
その一言で周囲に騒めいた。フィフス氏はその反応に満足したらしい。笑顔でコシュケンバウアーに手を向ける。
「正直、詳しい理論などは私もわかりません。なのでここは博士から説明してもらいましょう!」
話を振られたコシュケンバウアーは苦笑を浮かべながらもフィフス氏の横に立った。
「では、我が頼もしき相棒の要望に応えるとしましょう。先程彼が言ったように私は新たな物質の創造に成功したのです」
彼は戦艦の装甲を振り仰いだ。
「このバウアニウムを造り出す為に編み出した手法。それを我々研究グループは錬数術と名付けました」
錬数術……?
何となく俺の現数力と似た響きだな。
「錬数術は、異なる源数同士を掛け合わせる手法です。我々は掛け合わせる種類、数量を何度も試行しました。その結果、この万能金属バウアニウムの創造に成功したのです」
掛け合わせる種類と数量ねぇ。
まるで俺の魔奴ウじゃないか。
「バウアニウムは戦艦の装甲以外にも応用できると考えています」
コシュケンバウアーはフォースに視線を向ける。
「これまでの伐士団の装備は機動力を活かす為に軽装で防御に関しては不安な面が多かったでしょう。しかし、このバウアニウムを利用すれば機動力を損なうことのないアーマーを造りだすことができると我々は考えています」
周囲に驚きの声が広がる。
確かに伐士の戦闘スタイルは機動力を活かした中距離型が主流で近距離型は一部の者だけが使用していた。
だが、このコシュケンバウアーの言うことが本当なら近距離でも魔族と渡り合える者が多くなるだろう。戦い方のバリエーションが広がる。
シャーナとセリスよ、これは魔王軍にとって結構ヤバい話になりそうだぜ。
俺はチラリとヴァルコに視線を向けた。
この魔人野郎は知らなかったのだろうか? それとも知ってて何も情報を流さなかったのか?
その表情からは何も読み取れなかった。
「この戦艦にはまだ特徴があります」
フィフス氏はそう言って現場責任者らしき男を呼び止めて何やら囁いている。
責任者は他の作業員たちに指示を出している。
そして、警報音のようなモノがドーム内に響き渡った。
「この戦艦のメイン武装をご紹介しましょう」
船尾の部分が翼のようなモノを展開していく。そして船首の上の方から砲台が伸びてくる。
俺はそれが何なのかわかった。
だって、俺、この武装を使ったことがあるもん。
「この武装は陽光閃振幅砲と言います。天奴ウの光の力を増大させる機能があります」
フィフス氏の言っていることは確かだ。
この武装は俺が選抜試験の時に使った試作機だ。あれのお陰でローウェインの野郎をボコボコにできたからな。
伐士帯用の小型でも結構な威力だった。この戦艦用だとどうなるのか……考えたくもないね。
「これが我々が造り上げた最高傑作です。明日はきっと良き進水式を迎えることができるでしょう」
フィフス氏はそう締めくくった。
他の者たちも深く頷いている。
「ところで、艦名はどのお方の名を?」
フォースがそう尋ねた。
そういや、戦艦にはユグベリタスみたいに歴代の尤者の名がつけられている。この艦の名もそうなるのだろう。
「えぇ、これは特別な艦でありますからね。異例中の異例となりますが、歴代最強にあやかって現ファースト様の名を頂いております」
それはつまり……
「ゼムリアス。それがこの戦艦の名であります」




