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「まるで金属の巨人が船の模型を組み立てているようだ」

 工業都市ダーナムはノーベンブルムの北東にある港街だ。この街では船、馬車、そして伐士帯などあらゆるモノが製造されている。


 俺たちは出発してから翌日の昼時にダーナムに到着した。

 街に降り立った瞬間潮の香りに混じって機械油や煙の臭いが鼻についた。


 VIP専用の入街手続き所に入った。すると、そこには高級な服で着飾った者たちがにこやかな笑顔を浮かべて待っていた。このダーナムを取り仕切っている序数持ちフィフス家の面々だ。


「皆様、ようこそおいでくださいました」


 フィフス家の当主が言った。浅黒い肌に灰色の髪、そして大柄な体格。いかにも海の男って感じだ。


「進水式に先立って皆様には新型戦艦をご覧いただきたい。オーブを用意してあります、こちらへどうぞ」


 フィフス氏の付き人たちが外へと通じる扉を開けている。

 扉の先は駅のプラットホームのようになっていた。

 ただ、列車の代わりに巨大な球体が何列も並んでいる。

 その球体はスライム状の物質で表面を覆われている。半透明でイマイチ中の様子が見えない。

 どうやらこの球体群がオーブらしい。


「お乗りください」


 フィフス氏の声を合図に次々とオーブの側面が開いていく。

 中にはスライム状の素材でできた椅子が4つ並んでいる。1個の球体で4人まで乗ることができるようだ。


 俺が乗り込んだ球体には他にルクスアウラ王女、ヴァルコ、それともう1人近衛伐士が乗っている。


 全員が乗り終えると球体の外側表面が流動しだす。中にいる俺たちの側は動いていない。回転しているのは外側だけのようだ。その回転する力によって球体は前進し始めた。


 外から見れば半透明だった球体も、中からだとはっきり外の景色が見える。なので、360°あらゆる方向の街の景色を楽しむことができた。


 大きな配管が複雑に折れ曲がって伸びている所があれば、蒸気が常に噴き出している所もある。


 先に進むうちに港が見えてきた。そこにはとても大きな船が止められていた。ベネルフィアのモノとは比べ物にならないくらい大きい。


 通り過ぎるモノすべてに目を奪われていると、肩に何かが乗っかる感触と柑橘系の匂いが鼻についた。


「キキッ!」


 見ると、俺の肩に子猿のような動物が乗っかっていた。


「アルゴンは本当にクルメに懐かれているのねぇ」


 ルクスアウラが俺と小動物を見比べながら微笑む。

 そう、この猿もどきクルメは王女のペットだ。以前お茶会の時も連れていたな。

 この前の教会の時は姿が見えなかったけど、それには訳がある。ヲイド教の教会は基本的に人間以外の生物の立ち入りを禁止している。理由はわからん。ただ、一国のお姫様でも例外なく守らなくてはならないということは、相当な理由があるんだろうな。


 クルメは美味しそうに果物を食べている。匂いはその果物の所為らしい。おかげで俺の体にも柑橘系の匂いがうつってしまう。


「そろそろ着くようですな」


 ヴァルコが外を眺めながら言った。

 彼につられて外を見ると巨大なドーム状の建物が何列も連なっていた。


「造船ブロックだ。あそこで進水式が行われる」


 ヴァルコが俺に教えてくれた。

 あのドームの中の1つに新型戦艦があるらしい。


 オーブは減速しながらドーム付近の停車場に入っていく。


 フィフス氏としては新型戦艦だけでなく、ダーナムの技術力も見せたいらしい。まずは他の船の建造現場を見学することになった。


 ドームの中では巨大な船が今まさに造られている最中であった。俺たちは端にある通路からその様子を眺めている。


「ここで造られているのは商船です。これより先は危険ですのであまり近づきすぎませぬようお願いします」


 フィフス氏が通路と作業場を仕切っている柵を示して言った。

 柵にできるだけ近寄り、船の組み立て作業を眺める。


 金属でできた巨大な腕が何本も動いて作業している。土奴ウを使っているのだろう。まるで金属の巨人が船の模型を組み立てているようだ。


「ダーナムでは特に土奴ウの技術力アップに力を入れています」


 フィフス氏は金属の腕を示して説明する。


「あのメタルアームは人の手指と同等の動きができます。それによって精密な動作が可能になっているのです」


 ふーん、確かに器用に動いている。動きも滑らかだし。

 ここまでできるようにする為には相当なレベルが必要となるはずだ。


「あのオーブという乗り物は水奴ウを利用しているのか?」


 フォースがフィフス氏に尋ねた。


「えぇ、そうです。ここだけの話なのですが、あの乗り物は魔族のスライムの動きを参考にしているのです」


 フィフス氏は近くに立つコシュケンバウアーを示した。


「どちらもコシュケンバウアー博士の協力あって実現できたものであります」


 するとコシュケンバウアーは首を振って否定する。


「いえいえ、このダーナムの技術力の高さがあったからですよ」


 はいはい、お互い褒め合ってろよ。


「まぁ、それは置いておきましょう。博士の一番の功績は新型戦艦の装甲で発揮されています」


 フィフス氏はニッコリ笑顔を浮かべて一行を見回した。


「ではみなさん、我らがダーナムの集大成をいち早くご覧いただきましょう」







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