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「摩天楼群だな」

 王都キュロアは海のように巨大な湖を囲うように広がっている。

 この都市を一言で表すとしたら、


「摩天楼群だな」

「は? まて……なに?」


 隣のルシアン首を傾げている。

 面倒なんで答えてやらんけど。


 あぁ、で、王都のことなんだけど。俺たちは今、南の降車場にいる。都市の外縁を取り囲む馬車道。複数の車線が並走し、時に上下に、そして中心の湖の方に斜めに伸びる道もある。まるで都市高速だ。その道路を夥しい数の馬車が行ったり来たりしている。


 で、湖から放射状に広がっている建物群ってのがまんま高層ビルなんだよな。

 高度な土奴ウの技術を用いて建築されているのだろう。頑強さに関しちゃ信用していい。

 そもそも、一部を除いてこの世界の文明は俺が元いた世界と同等、若しくはそれ以上の発展を遂げている。

 その一部である交通に関しては、ヲイド教の上層が情報統制し易くする為に制限しているのは明らかだ。


 ヲイド教という枷が無かったらこの文明はどこまで進歩していたのだろう?


 ◆


 降車場から階段を登ったすぐの所に入都手続所があった。

 さすが王都、並んでいる人の数はべネルフィアやコルヴィアなどとは比較にならないほど多い。


「アンルチ、書類とペンダントはちゃんとあるか?」

「あぁ、失くすなんてそんなヘマはしねぇよ」


 そう答えてルシアンは自信満々にペンダントを掲げた。

 このペンダントの中には水が入っている。奴力を流し込めば個人情報が浮かび上がるし、入都、居住許可証もこのペンダントに書き込まれる。


 王都伐士隊から事前に貰っていた書類のお陰で手続き自体はすんなりと終わった。

 王都専用の水報板を買い、俺たちは外の広場に出た。中心には噴水がある。この造りはべネルフィアと同じだ。

 周りの高層な建物の間から都市中心の湖が見えた。

 湖の中程には島がある。そこにはヲイドの教会があり、尖塔のさらにその上に巨大な1つ目のオブジェが黄金の輝きを放っている。


 ヲイドの神眼だ。

 べネルフィアの中央広場にも同じようなモノがあったな。


 うーん、アレを今すぐぶっ壊してやりたい衝動に駆られる。まぁ、そんな血迷ったことはしないけど。

 でもいずれはあの1つ目を破壊して宣戦布告してやりたいなぁなんて。

 きっと王都中が大騒ぎになるだろう。


「えっと、王城の場所は……」


 ルシアンは水報板をタッチして王都の地図を呼び出していた。


「お、案外近くだぞ。これならすぐ着けるな」

「だな、さっさと終わらせてクリスちゃんに会いたいんだろ?」

「はぁ、違うし!」


 王城はこの南の地区にあり、俺たちの宿舎もその周辺にあった。

 今日は宿舎への手続さえ終わらせれば後は自由だ。なので、俺たちは手続を終わらせた後にクリスソフィアと会うことにしていた。


 クリスソフィア・ルイスはルシアンの幼馴染の女の子で、今は王都の職人養成所に通っている。主に首飾りや腕輪などの装飾品を作っているらしい。


「俺はただ早くこの王都に馴染む為にあいつに案内してもらいたいだけだ」


 口ではこう言っているが、本当は彼女に一刻も早く会いたいのだろう。

 わかりやすいヤツめ。


「もうプロポーズしちまえよ」

「はぁ!?」


 狼狽えるルシアンを置いて俺は自分の宿舎に向かった。


 ◆


 宿舎での手続きは事務員のおっさんによって滞りなく終わった。特に語るようなこともないので省略する。


 で、俺たちは再び先ほどの噴水広場に行き、そこでクリスを待っていた。


「大丈夫かな、あいつ。王都のヤツらと上手くやれてんのかな?」


 ソワソワした様子のルシアン。

 やっぱり彼女が心配で会いたくなってんじゃねぇか。


「ったく、お前がそんなんじゃクリスちゃんが逆に心配しちまうだろうが」


 そんなこんなやり取りを7回程繰り返したところでクリスはやって来た。


「あ、見ろアル。クリスが来たぞ!」


 ルシアンが示した先に、赤髪が特徴的な若い女性が俺たちの方に向かってやって来ていた。ゆったりとした服装が彼女の朗らかさにマッチしている。

 俺たちが見ていることに気づいたのか、ニコリとほほ笑んだ。

 うん、彼女は変わらずクリスだ。って、あれ? 彼女の後ろにいるのは――


「なぁアル、あの後ろにいるのってジーンキララじゃないか?」


 クリスのすぐ後ろ、白金色の髪を複雑に編み込んだ女性が歩いて来ている。

 ベネルフィア伐士養成所で俺たちと一緒だった女の子。トップクラスの成績だった彼女はルシアンと同じ王剣器隊に採用されている。


 しかし、その正体は魔人だ。

 色々と裏で工作しているらしい。


「よ、よぉクリス、元気そうだな?」


 ルシアンがちょっとぎこちない様子で言った。


「うん、勉強は大変だけど、楽しいよ。アルくんも久しぶりだね」

「おう、クリスちゃん元気そうで何よりだ。それとジーンちゃんも久しぶり」

「久しぶりアルゴン。それとルシアンも」


 ジーンキララはクリスの横に立った。


「この王都についてはジーンちゃんが色々教えてくれたんだよ」


 クリスは隣のジーンキララを見やりながら言った。


「なんだそうなのか、ありがとなジーン」

「いえいえ、私もクリスがいてくれたからこの一ヶ月退屈しなくて済んだんだよね」


 どうやら彼女たちはこの一月の王都生活で仲良くなったらしい。


「2人はこの一月どうしてたの?」


 クリスがルシアンと俺に尋ねてきた。


「俺はまぁ、ばあちゃんの手伝いとか訓練だな」

「俺は……」


 さて、どう答えたもんかね。


 まさか、


 魔族の大陸に戻り、美女将軍と巨大な亀に乗って砂漠を超え、セイレーンの街に行き、魔都の祭りに参加し、巨神獣古音虎と戦い、はぐれ魔族と遭遇して、出来損ないの世界で協力関係を結んだ


 などとは言えるわけない。


「ロマン溢れる旅に出ていたのさ」

「へぇ、旅行かぁ。良いな」


 ジーンキララが羨ましそうに言った。


「私は結構大変だったんだよルシアンくん?」

「ん、そうなのか?」


 キョトンとしているルシアンとクリスを見ながらニヤニヤ笑みを浮かべるジーンキララ。


「余計な虫が寄り付かないようちゃんと目を見張らせてたんだからね、クリスは可愛いから」

「はっ!?」

「ちょっとジーンちゃん!」


 おうおう、この俺は蚊帳の外ですか。


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