「なぜゴブリン王は頼まれた偵察だけじゃなく街を襲撃したのか?」
「そうだ……僕だよ」
……ヒョ?
そうだ……僕だよ……?
え、あっさり認めちゃったよ、この優男。
はぁ? マジで!?
それじゃ最初から今まで深刻な顔して考え続けてきた我々がアホみたいですよ。
例えば初めて会った時……そう、魔王城の会議の時にさ、
「初めてましてチョー、ファントムさん。おいらアルティメット。ところでさ、あんたがゴブリン王をけしかけたん?」
「そうだ……僕だよ」
「なるほどチョー」
みたいな?
ま、今はそういうことは置いておこう。
「どんな事情があってゴブリン王に街を襲わせたんです?」
そう問い掛けるとファントムはゆっくりとかぶりを振った。
「僕は街を襲撃するよう指示していないんだ」
「どういうことです?」
「フェムートだよ」
ファントムは山の下にある街を眺めまわした。
「彼が近いうちにあの人間の街を襲撃するという情報を手に入れたんだ」
「フェムートが?」
街から俺へと視線を戻し、彼は頷いた。
「その理由はわからないが、確かにフェムートは部隊をノーベンブルムに送り込んでいた。僕は彼が何をしようとしているのか調べたかったんだ」
「それでゴブリン王たちをあの街に?」
ファントムは苦い顔つきで再び頷いた。
「あぁ、僕や部下たちが動けば目に付くと思ったんだ。そこでゴブリン王に頼んだ。彼なら信用できると思ったからだ。もちろん、街の様子を見てくるだけで良かった。なのに――」
「ゴブリン王たちは街を占拠してしまっていた」
なぜゴブリン王は頼まれた偵察だけじゃなく街を襲撃したのか?
「僕もそこがわからない……ホント、セトグールには申し訳ないと思っている」
セトグール――
クラムギールの息子で現ゴブリン王だ。彼とは一緒にゴブリンの暴動を食い止めたことがある。今もきっとゴブリン族の為に頑張っているだろうぜ。
「魔王城での会議の時にレーミア様が言ってましたよね? ゴブリンには奴ウ力製の壁を突破できないって」
あの時はただのコンクリ壁かと思っていたが、今ならわかる。あれは土奴ウの技で造られたモノだ。そう簡単に破壊できない。
「あぁ、そうだったね。だが、それも僕らにはわからないことだよ」
謎の協力者についてはわからないままか。
どうやら、そいつがゴブリン王が行動を変えた原因なのかもしれない。
いずれにしろ、この話はここまでだな。
「では、巨神祭の時にセイレーンの街にいた理由をお聞きしても?」
「サキュバスの娘が誘拐されそうになった時だね?」
「はい」
あの時は暴走しかかったレーミア様をファントムが抑えてくれた。
「それについてもクラムギールが関係してくるな」
「というと?」
「僕がクラムギールに偵察を頼んだの場所はあの街だった。それ以来は僕らは会っていない。情報を知られたとしたらそこしかない」
「だからそれを調べにセイレーンの街に?」
「あぁ、少しでも手掛かりがないかと思ってね」
「なるほど。しかし、あなた自らが動く必要はあったのでしょうか?」
将軍が動けばそりゃ目立つだろうし。
「あの時は、別の誰かを使う事に躊躇いがあったんだ……」
まぁ、ゴブリン王が故意ではないといえ死んでしまったわけだからな。後ろめたいものがあるのだろう。それはまぁいいとして、レーミア様の話とも合う。それと街で会ったセイレーンの娘の情報とも……
セイレーンの娘、今こうして考えると怪しさ満点の娘だった。あの時は不思議と疑う気持ちがなかったが……
「それでは別の質問です。静寂の森で俺やシャーナちゃんたちに何者かが短剣を放ったことがあるんです。それについて何か知っていますか?」
俺がアルゴン・クリプトンとして人間社会に入る前の話だ。
その短剣のせいで俺とダークエルフ姉妹は伐士隊と戦うことになり、静寂の森を今の緊張状態にしてしまった。たった数本の短剣でな。
「いや、知らないな」
ま、そうだろうとは思ったが。
「それでは次の質問なんですが、スーラン座で話されていた魔族の女性は何者です?」
「そういえば、君に見られていたんだったね」
ファントムは苦笑いを浮かべた。
「すまない、それはあの女性の安全に関わることなんだ。言うことはできない」
うむ、無理強いはできんな。
「ファントムさん、あなたはなぜはぐれ魔族の味方をするのですか?」
今更だけど根本的な話だ。
「すまない、それも言う気はないよ」
「そうですか」
しかし、ここでファントムはチラリと視線を街の方に向けたのを見逃さなかったぞ。
そういや、このはぐれ魔族の集団になぜか高魔族であるはずの吸血鬼の女性がいるんだよな。たしか名前はミラだったか? ファントムは例外としても、なぜ彼女がここにいるのか。
ファントムがはぐれ魔族に味方する理由はそこかもしれないな。
あとは何を尋ねようかな。
あ、そうだ。
「あなた方はどうやってこの土地を見つけたんですか?」
「見つけた、というより教えられたという表現の方が正しいのかな」
「へぇ、それは一体誰に?」
「大海の主、とされている」
大海の主!?
「そもそもはぐれ魔族がこの地に逃れる手助けをしてくれたのは大海の主なんだ。中央大陸の海岸沿いに追い詰められた彼らを水龍たちがその背に乗せて運んでくれたんだ」
え、あの凶暴な水龍がはぐれ魔族たちを救ったのかよ。
「あれはまだレーミアが幼かった時のことだね」
え、レーミア様の子供の頃……
どんななのか全然想像がつかないな。きっと絶世の美少女だったに違いない。ふふふ……あ、いかんいかん。
「そ、それで大海の主が教えたってのは?」
主がどんな姿なのかも俺は知らない。魔王ですら恐れるような怪物。グレート・ワン……
「はぐれ魔族の長が言うには、水龍の背に乗って海を渡っていると彼の頭の中にこの出来損ないの世界のイメージが流れ込んできたらしい」
「イメージが?」
「あぁ、あの底なし沼からここまで来る映像のようなモノがね。長はそのイメージ通りに他の者たちを導いたらしい」
「そんなことが……」
大海の主はテレパシーのようなモノまで使えるのか……
そういや、俺も夜海の水龍といた時イメージというかビジョンが頭の中に流れ込んできたよな。それとその前にレーミア様と一緒にいるときにも。
あれは大海の主からの何らかのメッセージだったのだろうか?
今回から章をより細かく区切っていこうと思います。




