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「リリアンナちゃん、俺、混乱してるんだけど……」

 レーミア様の後について、俺は突き当たりにある階段を下りていた。

 これから魔王城に向かうという事だが、ここからどれくらい離れているのだろう?

 確か、リリアンナちゃんが久しぶりの魔都とか言っていたな。つまり、めったに寄る事ができないくらいには離れているのだろう。長旅になるのだろうか? 正直なところ、もう疲れた、休ませて欲しいぜ。


 階段を下りると、また回廊が続いていた。レーミア様はそこを歩いて行く。

 一体どこに向かっているんだ? 旅の準備なら最初の私室に戻る必要があるのではないだろうか? 俺はてっきり、リリアンナちゃんはそこで支度をして待っているのだと思っていたが……はてさて。


 回廊を中ほど進んだところに広い空間があった。その一番奥に今度は幅の広い螺旋階段がある。両脇には門番のように魔族が2体立っていた。レーミア様は構わずそこを下りていく。俺も続くと、その魔族は胡散臭げな目で俺の事を見てきた。

 螺旋階段を降りた先には古い木製の扉があった。こちらにも2体の魔族が立っている。どうやら重要なモノがここにあるらしい。


「ダーティ、今はまだ、この先にある物を見せるわけにはいかないの。だから、目隠しをさせてもらうわね?」


 レーミア様が扉に触れながら言った。

 俺は頷いた。ここは素直に従うしかあるまい。


 すると、古い扉がゆっくりとコチラ向きに開く。レーミア様は手を離し、一歩身を引いた。

 中から出てきたのはリリアンナであった。


「あ、レーミア様! トゥーレ将軍から聞きましたか? フェムート将軍とアーリルフ将軍はちょうどここを離れてしまったそうなんですぅ。トゥーレ将軍が、自分で伝えるからって仰られて……」

「えぇ、聞いたわ。それより、こっちの準備はもう終わったの?」

「はいっ! もうバッチリですぅ! いつでも出発できますよ?」


 何だか会話についていけない……。

 一体準備とは何の事だろうか? 俺が思案していると、リリアンナが俺に視線を向けた。


「ダーティさん、【巨人の指輪】は初めてですよね? 最初は頭がクラクラするけど――」

「リリー!!」


 リリアンナの言葉をレーミア様が慌てて遮る。


「ダーティをどうするか、まだ魔王様に確認していないのだから、迂闊に情報を与えてはダメよ」


 レーミア様の言葉にリリアンナは不満そうな顔をする。


「えー、だって他の魔人たちもそう言って、結局は魔王軍の一員になってるじゃないですかぁ? だったら、今知られてたって構わないじゃないですかぁ?」


 リリアンナの言い分にレーミア様は首を振る。


「たとえそうだとしても、手順は守らないといけないわ。それが魔族の安全に直接関わって来るのよ?」

「は~い」


 リリアンナは納得しかねる顔付きで返事をした。


「と言う事で、ダーティ、この布で目隠しをするわ」


 レーミア様はいつの間にか黒い布を取り出しており、それをヒラヒラさせた。


 俺がコクリと頷くと、レーミア様は布をリリアンナに手渡した。


「リリー、布を巻いてあげて」

「は~い」


 リリアンナが布を持って俺に近づく。


「ダーティさん、少ししゃがんでください……もうちょっと、あ、はい、それくらいで」


 俺は膝を曲げた格好になり、リリアンナが布を巻くのを待った。


「ちゃんと隠れてますかぁ? 正直に言ってくださいねぇ。もし、嘘吐いてたらレーミア様にお仕置きされますよー?」


 リリアンナは俺の視界が閉ざされるように調節した。


「きつくないですかぁ? ……はい、これでよし!」


 リリアンナの満足そうな声が聞こえる。視界は完璧に閉ざされていた。


「では、中に入るわよ? リリー、お願いね」


 そのレーミア様の声とともに、扉が開かれる音がする。


「じゃあ、ダーティさん。リリアンナがしっかり引っ張って行きますので、泥船に乗った気持ちでいて下さいっ!」


 リリアンナは俺の両手を握り、引っ張った。

 やわらかい手だなぁ。てか、泥船って、ダメじゃん。また、翻訳ミスだろうかね?


 目が見えないながらも、扉の先に入った事はすぐにわかった。なんだか、空気がヒンヤリしていたのだ。


「階段になってますので、気を付けてください」


 リリアンナの言葉に俺は気を引き締めた。

 目隠しをしたまま階段を下りるのは、なかなか怖い。


「右ぃ! 左ぃ! 右ぃ!」


 リリアンナが下ろす足を指示してくれた。

 まるで、立ち上がったばかりの子供に戻った気分だ。しかもその世話してくれているのが、15歳の女の子とは……何だか新たな道を開拓しそうだぞ。


 何とか階段を下りきり、数歩進んだところで俺たちは立ち止った。


「では、行ってくるわ」

「はい、レーミア将軍。お気をつけて」


 そんな会話が聞こえた。

 どうやら、中にも見張りの魔族がいるようだ。


「じゃあ、入って行きますよ?」


 リリアンナはそう言って、俺の手を引いた。

 

 最初の数歩は何とも無かった。だが突然、頭がクラクラしてきた。足下には固い地面の感触が無く、宙に浮いているような感覚だった。

 目隠しをしているので、周りは真っ暗だ。ンパ様と最初に遭遇した暗黒空間を思い出す。


 俺の頭はさらにグルグル回り出す。遠心力でバラバラに吹っ飛んでしまいそうだ。


 そして、最初の時と同じく突然、足に固い石の感触。


「お久しぶりですね、レーミア将軍!」

「あぁ、ご苦労様」


 そんな会話が聞こえた。


「さぁ、着きましたよ、ダーティさん」


 と、言われても何も見えない。


「それじゃ、また歩きますよ」


 そう言われ、リリアンナに導かれるまま歩く俺。

 今度は階段は無く、ひたすら真っ直ぐ歩いたところで、レーミア様に止まるよう命令された。


「もう目隠しは外してあげなさいな、リリー」


 レーミア様にそう言われ、リリアンナが目隠しを外してくれた。


 そこは中庭のような場所であった。四方を高い壁に囲まれている。俺たちの前には幅の広い階段があった。

 背後には1階建の建物がポツンと中庭に佇んでいる。木製の扉が1つあり、その両脇に見張りの魔族が2体立っていた。俺たちはこの建物から出てきたのだろう。

 その左手には壁に隣接して塔が立っている。

 上を見れば星空が広がっている。さて、ここはどこだ?

 リリアンナは着いたって言ってたな。何となくどういう事かわかった気がするけど、いや、まさかね。


「上に行きましょう」


 レーミア様がそう言って階段を上がり始めた。

 俺とリリアンナが従う。


「ねぇ、ねぇ、リリアンナちゃん。俺、混乱してるんだけど……」

「わかりますよー。教えてあげたいんですけどねぇ」


 リリアンナはチラッと前方のレーミア様を見やった。


「手順があるらしいので、無理ですぅ。ただ、魔王様との謁見が済めば、色々教えてあげられますぅ……まぁ、魔王様に気に入られず、処分される可能性もありますけどねっ!」


 サラッと笑顔で恐ろしい事を言いおったぞ、このお色気ぶりっこ娘。

 

 そんな会話を交わしながら、俺たちは階段を上りきった。階段の上は城壁上の通路に繋がっていた。と、言っても内側にお城はないのは確認済み。

 あるのは下にある1階建の建物だけだ。


 城壁の通路からは広大な大地が見渡せた。うん、やっぱり【巨神ガメの甲羅】ではないね。


 うーむ。これはマジで瞬間移動しちまってるようだぞ。

 問題は、どうやって移動したのか? どのくらいの距離を移動したのか? だな。

 リリアンナは【巨人の指輪】って言ってたけど、それが装置のようなモノなのだろうか? まぁ、魔王と会いさえすればいろいろ教えてもらえるだろう。

 それまでは棚上げしとくかな。


 城壁の通路を観察してみると、何匹の魔族が行ったり来たりしている。

 彼らはレーミア様と擦れ違う度に丁寧に挨拶していく。さすが将軍だな。

 レーミア様はその内の一体を捕まえ、用件を伝えた。


「私たちはなるべく早く魔王城に行きたい。ワイバーンにお願いしたいのだけと……」


 彼女がそう言うと、その魔族は内側にある高い塔に向かって口笛を吹いた。


 塔の屋根から何か巨大なモノが姿を表した。ソレは俺たちが立つ城壁に一直線に降りてきた。


 灰色の体に大きな翼を持った怪物。こいつがワイバーンだな、かっけぇ。


 ワイバーンはレーミア様に向けて、恭しく頭を下げた。


「魔王城に行きたい、お願いできるかしら?」


 ワイバーンは頷いた。


「よし、ではお願いするわね」


 ワイバーンは乗りやすいよう、しゃがみこんだ。

 その巨大な背中には複数の者が乗れるような鞍が装着されている。

 なるほど、ここはワイバーン空港ってわけか……違うか。


 まずはレーミア様が乗り込み、次はリリアンナを先に乗せる。レディファースト精神だ、俺は紳士だからな。


 俺が鞍に足を掛けるとワイバーンが胡散臭そうな顔でコチラを見ている。またか、まぁ、ボサボサの髪に髭面じゃ仕方ない。俺は爽やかな笑顔を翼竜に送った。


 全員が乗り込むのを確認すると、ワイバーンはゆっくりと羽ばたき始めた。

 そして、力強く城壁通路を蹴り上げ、一気に飛び立った。


≪翼竜の羽ばたき≫


 頭の中に言葉が浮かぶ。

 おい、マジか、肉体学習が発動したぞ! このワイバーンが空を飛ぶ行為も魔鬼理なのか……。

 つまり、俺は……空を飛べるって事!? すげぇ、まるで魔法のようだっ!


 振り向くと、どんどん城壁が小さくなっていく。

 こうやって上から見てみると、あの城壁は外からの脅威の為ではなく、中からの脅威を押さえつける為の物なんじゃないかと思えた。いや、確証はなくて、俺の直観なんだけどさ。

 

 城壁の後方、数キロメートル先を見て俺は驚いた。あれは海じゃねぇか! いや、海とは断定できないか。大きな湖の可能性もあるしな。今は夜で良く見えない。


 俺は後方から前方へと視線を戻した。

 真下には灯りがポツポツと点いている。村か町があるようだ。

 

「ねぇ、リリアンナちゃん、魔王城まではどのくらいなの?」

「……そうですねぇ、まだまだ遠いと思いますよ。だから、下の景色を楽しむなり、お休みになるのもいいと思いますよ?」


 リリアンナはそう言うが、正直なところ、ワイバーンの乗り心地はあまり良くない。揺れて休むどころではないぞ。こりゃ、クレームモノだぜ。


「なんだっら、リリアンナとお話ししますかぁ?」


 そんな俺を察してか、彼女はそんな提案をしてくれた。

 では、甘えさせてもらおうかな。

 

 ちなみに、前の前に座るレーミア様はチラッとコチラを見やっただけで、後はずっと前を向いたままだった。

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