「とんでもねぇ火薬庫だな、ここは」
「本当に君1人で行くのかい?」
出来損ないの世界の砂漠地帯をファントムと共に歩いていた。
「えぇ、今後の動き方を考える上でこの出来損ないの世界を調べることは重要だと思います。俺は再び人間社会に潜入することになるので、今の内にやっておかないと」
俺の説明にファントムは納得したように頷いた。
「なるほどね。自由に空を飛び回れるのは君くらいだからね。他の者が付いて行くのは却って足手まといになってしまうな」
俺は同意を示した。
「正直に言ってしまえばそうです」
「わかった。君の好きなようにしてくれ」
ファントムはふと首を傾げた。
「にしても出来損ないの世界か……」
「あっ、すんません。俺が勝手にそう呼んでいるだけなんで」
「いや、いいと思うよ。この世界を表現するのにぴったりだ」
笑みを浮かべるファントム。
不思議なもんだ。ついこの間までは俺は彼を一連の黒幕だと思っていたのに、いまじゃこうして一緒に行動している。
だが、彼に関しては謎なことが多い。それはハッキリさせないと。
「ファントムさん」
「何だい?」
改まった俺の様子にファントムも表情を引き締めた。
「取り敢えずひと段落ついたら、改めてお尋ねしたいことがいくつかあります」
「わかった。僕も話したいことがあるんだ」
よし、これでまた前へ進める。
俺はそう確信した。
◆
頭上に広がるオレンジ色の雲の下を俺はひたすら飛び続けた。(たまに上が砂漠、下が雲になる)
飛び続けていると特徴的な形の岩石群や大樹の根っこが浮いていた。
そういうのを見つける度に俺はプリマス分身体をその場所に残した。
果たしてどれ程飛び続けたのだろうか?
ここにいると時間の感覚がおかしくなっちまう。
巨神ガメの甲羅にいるプリマス本体と感覚を共有してみると、大体2時間程は飛んでいたらしい。
魔力の消耗を抑えるために砂漠地帯を歩くことにした。
歩くと言っても、俺の足で直接歩くわけではない。太い2本の魔手羅を足代わりにして俺自身は足を組んでのんびりよ。魔鬼理を使っているわけではないから魔力の消費も少なくて済むし、飛ぶ程じゃないにしろそれなりに速いペースで進める。
砂漠地帯を爆走し始めてから1時間後。
俺は奇妙な木を発見した。
それは全く葉をつけていない、枝と幹だけであった。その代わりに、ある枝では火が燃え上がり、別の枝では水が滴り落ちている。枝と枝の間で放電している箇所もある。光を放つ枝もあれば、闇のように黒い枝もある。常に風に揺られている枝もあった。
「なんだこいつは…まるで」
『まるで"源数の木"ですね』
俺の懐から現れたプリマス分身体が言った。
うん、彼の言う通りだ。火、水、雷、風、光陽、闇月を連想させる枝。そしてこの木は軟動を現しているな。
あとは聖魂と硬静だが……
俺は木に近づいてよく見てみた。
「これは……」
思わず声を上げる。
木の表面は砂でできていた。こいつは木の形をした砂の塊なのだ。
となると、この砂ってのが硬静をあらわしている?
残るは人の魂の源数である聖魂だが……
それだけはどこにも見当たらなかった。
にしてもこの砂は何なんだ?
俺は足下の砂をすくい取って、現数力で調べてみた。
"8" "5" "2" "4" "5" 5"
"3" "4" "7" "9" "1" "3" "8" "1" "7" "9""8" "5" "2" "4" "5" 5"
"3" "4" "7" "9" "1" "3" "8" "1" "7" "9"
"3" "4" "7" "9" "1""8" "5" "2" "4" "5" "8" "5" "2" "4" "5" 5"
"3" "4" "7" "9" "1" "3" "8" "1" "7" "9"
"3" "4" "7" "9" "1" "4" "5" "7" "9" "1""8" "5" "2" "4" "5" 5"
"3" "8" "7" "9" "1" "3" "8" "1" "7" "9"
"3" "4" "5" "1" "1""8" "5"
"4" "4" "7" "9" "1""8" "5" "2" "4" "5" 5" "8" "5" "2" "4" "5" 5"
"3" "4" "7" "9" "1" "3" "8" "1" "7" "9"
"3" "4" "7" "9" "1" "3" "8" "1" "7" "9""8" "5" "2" "4" "5" 5"
"3" "4" "7" "9" "1" "3" "8" "1" "7" "9"
"3" "8" "1" "7" "9""8" "5" "2" "4" "5" 5"
"3" "4" "7" "9" "1" "3" "8" "1" "7" "9""8" "5" "2" "4" "5" 5"
"3" "4" "7" "9" "1" "3" "8" "1" "7" "9"
"3" "4" "7" "9" "1" "8" "5" "2" "4" "5"
"3" "4" "7" "9" "1""4" "5" "7" "9" "1"
"3" "4" "7" "9" "1""8" "5" "2" "4" "5" "3" "4" "7" "9" "1 "3" "8" "1" "7" "9"
「うわっ!」
目の前一杯に青い数字が広がっている。
その物質の詳細ではなくただ数字が現れているだけ。
この砂は表示されている数字が全てなわけだ。
そんなモノは1つしかありえない。
この砂は、源数そのものなのだ。
「待て。もしそうだとすると……」
俺は周囲に広がる砂漠地帯を眺めた。
これ全てが源数だってのか……
「もしこの源数の砂漠に大量の奴力が流し込まれたら、途方もないエネルギーが生じることになりますね」
プリマスの言葉に俺は頷いた。
この出来損ないの世界は吹き飛ぶだろう。いや、それどころか上の世界まで破壊されかねない。
「とんでもねぇ火薬庫だな、ここは」
◆
さらに先に進むと源数の木が疎らに生えた地帯に出くわした。
その背後には、巨大な山脈程もある源数の木が君臨していた。
「世界樹ってヤツかな?」
俺は翼竜の翼を展開し、巨大な源数の木に向かって飛び立った。
この木も例の砂でできているようだ。
ふと水が滴る巨大な枝の先を見ると、近くに島が浮いていた。
緑生い茂る山がある。巨大樹のせいで小さく見えるが、その島もなかなかの規模だ。
俺はその島に降り立ってみた。
木々には美味しそうな木の実がなっている。
他にも食えそうなモノがいくつかあるようだ。
さすがにこの島をはぐれ魔族の拠点に持っていくことはできない。移住するのも大変だ。
そんなことを考えながら歩いていると、突然島が大きく揺れ始めた。
「な、なんだぁ!?」
地震か?
いやいや、こんな宙に浮いた島でそんなこと……
俺は木々の間を駆け抜けた。
開けた場所に出ると、飛び出した崖が見える。
よし、あそこから下の様子を見てみよう。
飛び出した崖に足を踏み入れると、なぜか少し弾力があった。
「んん? 何か変だぞ」
突然、崖がひと際大きく跳ね上がった。
尻もちを突いた俺の視線の先に、大きな目玉が二つ崖に埋め込まれている形で存在していた。
なんてこった。
俺が飛び出した崖だと思っていたものは、巨大な生き物の頭だったのだ。
「巨大なカメですね」
プリマス分身体が島を眺めながら言った。
ただのカメじゃねぇ。
これほど大きなモノとなると、知っている存在は1つだ。
「……巨神ガメ」




