表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/249

「フェムート、トゥーレ、レーミア、アーリルフ……しりとり四将軍やな」

「【巨神ガメの甲羅】?」


 俺が問い返すと、リリアンナが俺の手を引いて立たせた。


「たぶん、見てもらった方が早いですぅ!」


 彼女はそう言って、ソファ右手にある窓辺へと俺を導く。

 両開きの窓を大きく開き、俺に見るよう促した。


「ささ、どうぞ! どうぞ!」


 俺は窓から外を眺めた。するとそこには、


「街? ……てか、ドーム?」


 眼前に広がる石造りの建物たち。そこからは暖かな光が漏れており、賑やかな雰囲気が漂っていた。時折、甲高い笑声も聞こえる。

 そして、上には暗い夜空はない、この街の上空はドーム状のモノで覆われていた。

 ベージュ色をしており、天井や壁には、良く見るといくつもの通路や梯子が設置されている。武装した魔族がその通路を行ったり来たりしていた。


「驚きましたぁ? この要塞はですねぇ、文字通り、巨神ガメの甲羅を利用して作られているんですよ! つまり、ここは甲羅の中って事ですぅ!」


 リリアンナが誇らしげに言う。腕を組んだりしてかわいいなぁ。

 てか、要塞と言うよりは街だよな? この甲羅どんだけデケぇんだ? 高さといい、広さといい、山くらいの大きさがあるぞ……。

 その感想をリリアンナに伝えると、


「はい! 今は絶滅してしまったらしい巨神ガメは、山程の大きさをしていたらしいですよ。一説によると、このサイズでも小さい方だとか……。ちなみにですねぇ。この要塞を外から見ると、平凡な山にしか見えないんですよ? すごい偽装ですよねぇ!」


 彼女は蒼い瞳を輝かせた。

 俺は天井や壁の通路について質問した。


「はい! あれはですねぇ、見張り台に続く通路ですよ。甲羅にはいくつもの穴が空いていて、空気の循環はもちろん、そこから外も見張っているのですぅ。そこから甲羅の外に出る事もできるんですよ」


 へー。甲羅の山の要塞かぁ……乙ですなぁ。

 それにしても、このリリアンナという娘は、こうも俺に要塞情報を教えたりして平気なのだろうか? 服装的には魔王軍の兵士ってわけじゃなさそうだが……。

 俺の興味は要塞から目の前の少女へと移った。


「ねぇ、リリアンナちゃん、君はレーミア様に仕えているの?」


 彼女はブンブンと首を縦に振る。


「はいっ! リリアンナはレーミア様の使用魔で、日々の生活のお世話をさせてもらってますぅ! えっと、15歳に成りたてのサキュバスですっ!」


 サ、サキュバス! あの"クイーン・オブ・エロ魔族"か!

 こんな、あどけなさの残る顔をしているのに、その実、数多くの男たちを鳴かせてきたのだろうか?

 そんな俺の下衆な考えを察したのか、彼女の方から答えてくれた。


「と、言っても、殿方とのお楽しみはまだ体験した事がないんですぅ。レーミア様に、まだ早いって言われてて……」


 まだ早いと言ったって、出るモノは出ているわけで……。

 俺はゴクリと生唾を飲み込んだ。


「でも、リリアンナも、そろそろ……」


 彼女はそう言って、俺を上目使いで見てくる。


 これはハニートラップか!? きっと、そうだ! ……だけど、だけどぉ!


「いつでも俺のベッドは空いてるぜ」

「きゃー!」


 俺のズレた台詞に、リリアンナははしゃいだ。


「……何をしているの、お前たち?」


 2人して振り向くと、部屋の扉を開けて、レーミア様が入ってきていた。


「きゃああああああ!!」


 ちなみに今の悲鳴は俺のものだ。


 レーミア様はそんな俺を無視して、リリアンナに近づいた。


「リリー、まだお前には早いって言ったでしょ?」


 レーミア様が驚く程優しげな声で囁いた。


「リリアンナはもう立派なレディですよ。自分が未経験だからって、それをこっちにも押し付けないで欲しいですぅ!」


 リリアンナが不平を漏らす。

 へぇ、レーミア様って……へぇ!


「リリー、私は将軍よ。そんな事で浮かれるわけにはいかないのよ」


 レーミア様が困ったように言う。

 浮かれるわけにはいかないって、じゃあ、俺に対するあの行為は何なんですかね? アレも特殊性癖の1つだと俺は思うのですよ。もちろん、本人には言えないけどね。


「えへへ、わかってますぅ。冗談ですよ、冗談!」


 あ、冗談だったんだ。地味に傷つくな。


 レーミア様がため息を吐きながら、俺の方を見た。


「目を覚ましたようね? じゃあ、行くわよ」


 え、もう魔王の所に行くの? ちょっと、心の準備が……。


「リリー、他の将軍たちに"ジャインの間"に来るよう伝えてくれる? それと、魔王城に向かうから、支度しておいて……」


 レーミア様の言葉にリリアンナは喜んだ。


「やったっ! 久しぶりの魔都ですねぇ!」

「わかったから、早く伝えて来てちょうだい」

「は~い」


 リリアンナは扉へ走り寄る。と、そこで立ち止り、俺の方を見た。


「また後で会いましょうねぇ、ダーティさん!」


 彼女は手を振り、外へと飛び出していった。


「ダーティ、魔王様に会ってもらう前に、他の将軍たちにお前の事を報告する」


 レーミア様も扉へ向かう。

 俺は開けられた窓を閉めて、レーミア様の後に続いた。


 部屋の外は、左右に長く広がる回廊となっていた。

 柱の1本1本に謎の光の球が漂っている。


 俺たちは部屋の右手側に進んだ。

 しばらく進んだ所の扉の前でレーミア様は止まった。


 俺は促され、部屋の中に入った。

 部屋の天井には白い光の球が浮かんでおり、室内を明るくしている。


 そこまで広くない。

 部屋の真ん中には円形のテーブルが置かれ、その周りにはゼリー状の物体が4つ囲んでいる。何だか、スライムを思い出すなぁ。


 レーミア様は躊躇いなく、そのゼリー状の物質に座り込んだ。


 ムニョン、という音と共に、レーミア様に合わせた形に変化するゼリー。

 ちゃんと背もたれの部分もあり、なかなか快適そうだ。

 レーミア様はくつろぐように足を組んだ。戦華服からその白い足が覗く。


 俺の視線に気づいたのか、レーミア様は悪戯っぽく笑みを浮かべた。


「また見惚れているのかしら?」


 その問いに俺は曖昧に笑った。


「そう言えば、セリスさんとシャーナさんはどこに?」


 俺は気になっていた事を尋ねた。


「彼女たちは次の任務に向かった……言っとくけど、ダーティ、まだお前の処遇は決まっていないのだから、これ以上の質問に答えるつもりもない。お前も控える事ね」


 次に俺は眠らされてからの事を尋ねようとしていたので、落胆した。


 しばらくの沈黙ののち、背後の扉が開いた。

 俺は振り返り、ギョッとした。


 そこには2メートル半を越える赤髪の巨人が立っていた。

 彼は筋骨隆々な体を窮屈そうに屈めて部屋に入ってきた。

 その体は金属の鎧で覆われており、まさしく戦いの神とは彼の事に違いないと思った。


 彼は俺を一瞥し、それから座り込んでいるレーミア様に視線を向けた。


「よう、レーミア!!」

「……トゥーレ」


 レーミア様が立ち上がる。


「聞いたぜ。ゴブリン王が死んで、魔人が現れたらしいな。そいつか?」


 レーミア様が肯定する。


 トゥーレと呼ばれた大男は俺の事をしげしげと観察する。

 俺も負けじと現数力を使った。


「ポ、ポウッ」

「何だそれ?」


 トゥーレが愉快そうに問う。


「こいつの故郷の挨拶らしいわ」

「へぇ。変わってんな」


 レーミア様の答えに彼はますます愉快そうだ。

 そんな彼から、いつものごとく青い文字が浮かぶ。


----------------------------------------------

北方四将軍 トゥーレ 120歳 男 レベル:880

種族:オーガ


【基礎体力】

生命力:900 魔力:850


攻撃力:900  防御力:880(+120)  速力:680 


【魔鬼理】

・鬼流 消費魔力:20

・閃鬼連弾 消費魔力:40

・破鬼怪道 消費魔力:150

・獄王の滅叫 消費魔力:300

 他……

【装備】

・炎鋼の鎧 攻撃力(+70)防御力(+120)


----------------------------------------------


 うん……もはや何も言うまい。

 リアクション取るのも疲れちゃった。



「今から魔王様の所に連れて行くのだけど、フェムートとアーリルフはどうしたの? 魔人案件は四将全員が把握しておくべきだわ」


 レーミア様の問いに、トゥーレが頭を振った。


「フェムートはウェスタリア、アーリルフはロトイースだ。しばらく戻らないってさ」


 ウェスタリア? ロトイース? 何だそりゃ?

 トゥーレの答えにレーミア様は指を唇に当て、思案した。


「ふむ。それなら仕方ないわね。彼らを待ってはいられない。早急に魔王様のお目に掛けなければいけないわ」

「あぁ、そうだな」


 トゥーレが相槌を打つ。


 このトゥーレというオーガと、フェムート、アーリルフ、そしてレーミア様で四将か……。

 待てよ。

 フェムート、トゥーレ、レーミア、アーリルフ……しりとり四将軍やな。


「と言うことでだ、トゥーレ。この要塞はお前に任せたわ」

「お安い御用だぜ。魔王様によろしくな?」


 トゥーレはそう言うと、部屋の外に出た。


「今から、部下どもの稽古をつけにゃならん。約束してたからな……と、そうだ! その魔人の名は?」


 トゥーレが俺を顎で示す。

 失礼な奴だな。


「ダサオ・アルティメット。私たちはダーティと呼んでいるわ」

「ふぅん、ダーティね」


 トゥーレは俺の名を復唱した。

 あぁ、間違った名が広がっていく。


「正確に言えばですね、オ・サ――」


 レーミア様の鋭い視線を感じて口を閉じる。


「ハハ、何かおもしれぇヤツだな。また後で会おうぜ、ダーティ!」


 トゥーレはそう言うと、右回廊に消えて行った。


「レーミア様、ウェスタリアとロトイースってのは地名ですか?」


 俺は質問して、ハッと口を塞ぐ。質問しちゃダメだったな。


「……誰が質問していいと言ったかしら?」


 レーミア様は冷ややかな目で俺に視線を向ける。


「す、すみません」


 ふん、と鼻を鳴らすと、レーミアさんはさっさ部屋から出て行った。

 そんな彼女の冷徹な言動に俺は……俺は……興奮した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ