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「戦血姫と書いて"ヴァンキューレ"と読む……なんかカッコいい……と思う」

「……それじゃ、お前はゴブリン王に命令した者が誰であったかは聞いていないのね?」

「はい、そうです、レーミア女王陛下」

「私は女王ではない、将軍よ?」


 レーミア様が冷ややかに言う。


「えぇ、すみません! 言葉の綾です。尊敬の念から出た言葉です!」


 俺は慌てて弁明する。俺の前には逆さまに立つレーミア様が……と言うか、俺が木の上から逆さまに吊るされているのだ。


 俺が頭突きをされてから、この吊される状況まで約15分間。


 この短時間で、俺の中では、レーミア様=女王様という等式が出来上がっていた。

 具体的に何をされたのか? ここで、その一部を見てみよう。


「痛ってぇー! レーミア様、やめてくだせぇ!」

「そんなはしたない格好をしておいて、滑稽だわ。 お尻丸出しじゃない。恥ずかしくないの?」

「こ、これは、セリスさんが作った……痛ったー!!」

「言い訳は嫌いよ、変態っ!」

「いぃやあああぁぁぁ!!」


 と、まぁ、こんな感じだ。

 これ以上は不快に思われる人もいるだろうから、省略させてもらうわ。

 まさか、このサディスティックな行為を事細かに知りたい紳士あるいは淑女はおるまいな。


 俺は、ゴブリンに捕まった事、王と話した事、尤者が襲撃した事など、ありのままを喋った。

 もちろん、ンパ様や転生した事は話していない。レーミア様は女王様かもしれないが、俺の主はンパ様だ。そこだけは譲れん。


 その事で厳しい追求を受けると思ったのだが、あっさり受け流された。


「魔人はいつもそうだ。自分の出自については曖昧な事しか言わないわ。お前もそうなんでしょ?」


 俺は逆さ吊りから解放され、地面にへたり込んでいた。


「えぇ、まぁ……」


 言われた通り曖昧な返事をする俺。


「そこはもう、魔王様も気にしていない。ただ、名前くらいは教えなさい。お前の名は何? ブタ? それはブタに失礼だったわね……」


 やだ、ひどい……。


「お、オサダ・アルティメットです、レーミアじょ……レーミア様」


 あぁ、本名言っちゃった。だから、どうしたって話だけど。偽名使った方が工作員らしいよね。


「ダサオ……アルティメット?」


 そう……違う。


「いえ、レーミア様。ダサオじゃありません、オサダです」


 レーミア様は首を傾げた。


「だから、ダサオって言ってるじゃない?」


 彼女は他の魔族から同意を得るように見回した。彼らは頷き、肯定する。

 何か噛み合ってないぞ。


「いえ、オ・サ・ダ、オサダです」

「だから、ダサオでしょ?」

「いえ、似てますがね……」


 参ったな。翻訳が上手く行ってないみたいだぞ。よりによって俺の名前で、しかもダサオって。まったく、しっかりしてくれよンパ様……いや、嘘ですよ。


「ごちゃごちゃと、私をからかっているのかしら?」


 レーミア様が俺の肩に手を置く、ニッコリと笑って。


「ひっ!」


 条件反射で震え上がる。


「お前は、ダサオ・アルティメット、そうね?」


 俺は何度も頷く。


 レーミア様は満足下に頷くと、俺の肩から手を離し、唇に指を当てて思案しだした。あぁ、その姿もお美しい、見た目に関しては、だけど。


「ダサオ・アルティメットかぁ……長いわ。そうねぇ……ダーティ、うん。今日からお前はダーティ」


 ハリーかな?

 ンパ様からはアーティでレーミア様からはダーティか。まぁ、別にいいけど。


「みんな! 今日からこの魔人はダーティよ」


 もう好き放題だな。

 だが、こっちもやられっぱなしじゃないぜ。


 俺は鼻を抓み、焦点をレーミア様に合わせる。


「ポウッ!」


 俺の奇声にレーミア様がまじまじと見つめてくる。


「な、何?」

「俺の故郷の神聖な挨拶です」


 呆れ顔のレーミア様から、例の青い文字が浮かぶ。


----------------------------------------------

北方四将軍 レーミア 21歳 女 レベル:800

種族:戦血姫ヴァンキューレ


【基礎体力】

生命力:800 魔力:750


攻撃力:880(+80)  防御力:850(+150)  速力:700 


【魔鬼理】

・血界 消費魔力:5

・血界呪縛 消費魔力:30

・朱華の花弁 消費魔力:70

・朱色の満月 消費魔力:200

 他……

【装備】

・リフタリアの戦華服 攻撃力(+70)防御力(+150)

・ファイロスの革鞭 攻撃力(+10)


----------------------------------------------


 ダークエルフのシャーナのステータスでも驚いたのに、何だこれは!?

 レベルも基礎体力も高すぎぃ! 勝てる気がせん……。


 それと、レーミア様の種族……。

 戦血姫? 何だそれ? そんな種族聞いた事もないぞ。戦血姫と書いて"ヴァンキューレ"ねぇ……カッコいい……。


 えーと、装備もなかなか上等やな。

 リフタリアの戦華服は、あの鎧のようなドレスのような服だな。

 ファイロスの革鞭は……数分前の事を思い出してしまった、背筋がゾクゾクする。


「私の顔を見て、何をボッーとしているのかしら?」


 レーミア様が怪訝な顔をしている。


「……見惚れておりました」

 

 と、誤魔化しの為に言ってみる。他の魔族どもが茶化してきた。

 彼女は一瞬目を見開き、


「……ほう」


 悪戯っぽく笑みを浮かべる。

 あ、これはちょっと不味かったかな。


「いえ、あの、冗談です!」

「……ほーう!」


 あ、逆に怒らせちゃった、テヘッ。


「今のお前の戯言は聞かなかった事にするわ。それより、お前を魔王様の下に連れて行く、いいわね?」

「え、あ、はい」


 魔王の下へ?

 これはまた急展開だな。


「よし、みなの者! 砦へ戻るぞっ!!」


 レーミア様から命令が発せられると、他の魔族は大急ぎで行動を開始した。

 ある者は松明を片づけ、ある者たちは数十頭のバイコーンを連れてきた。

 見張りのダークエルフたちも戻って来る。


 その間、俺はレーミア様に質問した。


「あの、レーミア様、俺は今後どうなるのでしょう?」


 まさか、魔王の餌になるとかないよな?


「誰が質問していいと言ったかしら、ダーティ?」

「ひっ!」


 レーミア様から、冷たい眼差しを向けられた。でも、なんか……。


「準備が整いました。いつでも出発できます」


 セリスとシャーナがレーミア様に報告する。


「ありがとう、セリス。そして、シャーナ、すまないけど、またダーティを一緒に乗せてあげて」


 シャーナは一瞬、渋い顔をしたが、レーミア様の前という事ですぐに表情を戻した。

 顔に出やすい娘だなぁ、傷つくわ~。


「はい、承知しました」


 シャーナの返事に頷くと、レーミアは3本角の魔獣(後でセリスに訊いたところ、この魔獣はトリコーンと言うらしい)に跨った。


「またよろしくね、ダーティ?」


 シャーナが露骨に嫌な顔をして言う。


「こちらこそよろしくっす、シャーナさん!」


 彼女はフンと鼻を鳴らすと、自分のバイコーンに跨った。

 俺も乗ろうとするのだが、どうすりゃいいか、さっぱりだ。そんな俺を彼女はニヤニヤしながら見ている。


「もう怪我は治ったんだから、自力で乗れるでしょ?」


 狼狽える俺に言う。


 むぅ、意地悪だなぁ。

 あ、そうだ。魔手羅を使おう。確か1本焼き尽くされたけど……。


≪出ろ≫!!


 黒い腕が肩甲骨の辺りから飛び出す。しかもちゃんと2本。

 魔手羅って再生するんだなぁ。


 よし、魔手羅をバイコーンの背に乗せて……トウッ!!


 俺は勢い良く飛び乗った。


「……それって、便利ねぇ」


 シャーナが関心したように言う。

 でしょ? 通販でバカ売れするぜ、万能第3の腕ってことで。


 俺がシャーナにヒラヒラと魔手羅を見せつけていると、レーミアさんが近づいて来た。


「準備はいい、シャーナ?」


 シャーナが返事をする。


「よし、なら出発しましょう……だけど、その前に1ついい、ダーティ?」

「はい、何でしょう?」


 改まってどうしたんだろう?


「魔人には砦の場所を把握させない。これは決められたルールなの、ダーティ。だから、眠ってもらうわね?」

「え?」


 どゆ事? と思っていると、レーミア様が手をかざす。

 俺たちが乗るバイコーンの足下が赤く輝く。


≪血界≫


 その言葉が頭に浮かんだかと思えば、俺の意識は遠のいていった。


―――――――――――――――――――――

―――――――――――

――――――

――


「ドビュッシー!!」


 奇声を上げながら、俺は目覚めた。

 すると、見たこともない10代くらいの女の子が屈んで俺を見下ろしていた。

 

 大きな蒼い瞳が印象的だ。

 レーミア様程ではないが、色白の肌。ストレートの黒髪。メイド服のような物を身に着けている。


「ちみ……何奴じゃ?」


 俺の問いに彼女はニッコリと微笑む。


「リリアンナはリリアンナですよぉ!」


 偏見だとは思うが、自分の事を自分の名前で呼ぶ奴はブリっ子が多いと思うのだ。

 ちょっと、ムカつくよね。だってさ、俺が「アルティメットは、サバシラス丼が大好きなんだよっ!!」とか言ったら殺意を覚える人が多いと思うの。

 しかし、この目の前の娘は許そう。だって、かわいいから!!


「うん。リリアンナ、ちゃん? ここはどこだろうか?」


 周りを見回すと、何やら王宮めいた部屋にいる事がわかった。豪華な家具やら何やらが置かれている。

 ちなみに俺は、見るからに高価そうなソファに横たわっていた。

 服装も変わっている。こげ茶色のローブを身に着けていた。中を覗くと、下半身を覆う黒い布……良かった、葉っパンツじゃない!


 そんな俺を好奇心旺盛な目で見つめてくる少女。


「ここはですねぇ。レーミア様の私室の1つですよぉ」


 目覚めたばかりの俺にはよく意味がわからない。


「あ、この部屋というか、この土地自体がわからないんですよね?」


 俺はコクリと頷く。


「ここはですねぇ、北大陸の魔王軍の砦、通称【巨神ガメの甲羅】ですっ!!」







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