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「巨神戦争ね。なんかカッコイイ」

 おさらいしてみよう。

 巨人の指輪とは、【巨神ガメの甲羅】のもっとも底辺部に設置されている半円形型の石のオブジェクトだ。

 しかし、これはただの飾りではない。実は大陸間転移装置なのだ。

 人間が支配する四方の大陸にそれぞれ1つずつ、そして魔族が支配する中央大陸に対となる指輪が4つ存在している。

 この指輪を使えば短時間で四方の大陸と中央大陸を行き来できるのだ。

 スターゲ◯トみたいだね。あっちは異世界に通じていたのだけど。


 えー、なんでそんなおさらいをしているかと言うと、ちょうど今、俺は巨人の指輪を潜っている最中だからさ!


 この指輪を潜るのはこれで3度目なんだけど、全然慣れない。

 周りでは光がハエみたいに飛び交うわ、嫌がらせのように火花が目の前で飛び散るわ、あげくコマみたいにクルクル回るのだ。


 足に硬い確かな地面を感じた。

 光が消え去り、辺りは薄暗くなる。それに肌寒い。前に来たときと同じ部屋だ。見張りの魔族兵がレーミア様に会釈している。


「ダーティさん、大丈夫ですかぁ?」


 リリアンナが上目遣いで覗き込んでくる。

 あぁ、なんて優しい娘なんだろう。まるで天使だ。


「わぁ、目がクルクル回っているですぅ!気持ち悪ーい」


 前言撤回だ。


「行くわよ」


 レーミア様はスタスタと部屋の外へと出て行った。

 俺とリリアンナも後に続く。

 外は中庭になっている。周りの高い城壁の間から朝日がうっすらと差している。

 正面には城壁へと続く階段。そして少し離れたところに塔が建っている。ワイバーンが住んでいる塔だ。

 ここも前に来たときとなんら変わりない。


「レーミア様」


 階段を登っていると、上から銀色の短髪に褐色の豊かな体格の男が降りて来た。

 シャーナとセリスの兄、ダークエルフのロイだ。


「お待ちしておりました」


 ロイはレーミア様に向かって頭を下げると、俺の方を向く。


「よう、久しぶりだなロイ」

「うん、久しぶりだねダーティ、また会えて嬉しいよ……と、言いたいところだけど、正直君よりもシャーナとセリスに会いたかった……」


 正直すぎるぞシスコン野郎。


「それで、準備は整っている?」

「はい、一番速く飛ぶワイバーンを確保しました」


 レーミア様は頷くと、俺の方に顔を向けた。


「ダーティ、私たちがこれから向かうセイレーンの街は大陸の東の端にあるの。途中まではワイバーンでいけるのだけどね。東に広がる "荒ぶる砂"エフュサンドス砂漠はワイバーンで超えることはできない。別の者に乗って行くわ」


 エフュサンドス砂漠は常にどこかで砂嵐が吹き荒れているらしい。だからワイバーンで飛んで行くことは危険ってわけだ。

 ロイが同行するのも、ダークエルフ特有の風を読む力が必要だからなんだと。


「じゃあ行きましょうか」

「あ、レーミア様。実はフェムート様から言伝を預かっておりまして……」


 恐る恐る語りかけるロイに明らかに不機嫌な眼差しを向けるレーミア様。


「フェムートはなんて言ってきたの?」

「スーラン座の演劇会にはレーミア様も参加してくれとのことでした」


 レーミア様は呆れたように首を振った。


「北方の動きが活発化しているというのにお祭りの演劇会だなんて……」

「フェムート様が、各砦から2名の将軍が必ず参加しなければならないと」


 ロイの声はその見た目の割に随分とか細いモノになっていた。なんか、見ていて可哀想になってくる。


「まぁ、今はとにかく出発しましょう。そのことは帰ってきてから考える」


 そう言ってレーミア様はワイバーンが待つ城壁の上へと登って行った。


 ◆


 ワイバーンに乗って東へ向かって出発した。

 このワイバーンってヤツは乗り心地は良くないし、スピードも自分で飛べる今となっちゃ遅く感じる。だからすぐに退屈になる。

 うむ、こういう時はリリアンナとおしゃべりしよう。


「ねぇねぇリリアンナちゃん、お祭りって何のこと?」


 隣に座るリリアンナはパッと顔を輝かせた。


「巨神祭のことですねぇ!いいですよぉ」


 祭の名前は巨神祭か。


「えっとですね、巨神祭っていうのは、大昔の巨神戦争で初代魔王様たちがヲイド軍の侵攻を抑えたことに感謝を捧げるお祭りなのですぅ」


 巨神戦争ね。なんかカッコイイ。


「初代魔王様はノーベンブルムで初代尤者と相討ちされたそうなのですぅ」


 当時のことは知らないが、あの尤者を相討ちとはいえ倒してしまうなんて、やっぱさすがに魔王を名乗っているだけはあるな。現魔王のビゾルテも相当な力の持ち主なのだろう。


「それでここが大事なところなのですが、この巨神戦争で魔王様に付き従った巨神獣と呼ばれる太古の獣たちがいるのです」


 リリアンナは話を続ける。


「巨神獣は、巨神ガメ、水龍、流星鳥、そして古音虎の四種類がいたのですぅ」


 ほう、巨神ガメと水龍は知っているが、他の二種は知らんな。

 古音虎とか、なんか可愛らしい名前じゃないですか。


「ちなみに、リリアンナたちの砦【巨神ガメの甲羅】も、巨神戦争でヲイド軍と戦った巨神ガメのモノなのですよぉ」


 へぇ、大昔にヲイド軍と戦って、今でも砦として魔族たちを守っているのか。なんかオイラ、目柱が熱くなってきたぞ。


「だから、祭の間至る所に巨神獣の像が飾ってあるのですぅ。とっても見応えがあるんですよぉ」


 ほうほう祭の目的は大体わかった。


「じゃあ、スーラン座ってのは?」

「ダーティさん、前にリリアンナが魔都を案内してあげたことを覚えていますかぁ?」

「もちろんさ」

「じゃあ、そこに円柱の塔があったことを覚えてませんかぁ?」


 あぁ、そういやアレは演劇場で、年に一回の大きな祭の時に演劇会があるとかなんとか言っていたな。


「なるほど、あの円柱の劇場がスーラン座だったのか」

「その通りですぅ。お祭りは7日間あって、スーラン座劇場の演劇会は最終日にあるのですぅ」


 リリアンナはレーミア様の方をチラリと見て、


「リ、リリアンナ、またスーラン座の演劇を観たいなぁ。ダーティさんも観てみたいですよねぇ?」

「おぉ、おおう」


 わざわざレーミア様に聞こえるくらいの声で言った。

 レーミア様は肩を竦めただけで、何も言わなかった。


 ◆


 やがて前方に山が見えてきた。


「あの山を越えればエフュサンドス砂漠よ」


 レーミア様が言った。

 確かに、風に混じって砂が舞い飛んでいるようだ。

 山の頂上を越えると一面に砂漠が広がっていた。奇妙なことにところどころが黒っぽく変色していてまだら模様を形成している。あれは何だろう?


「降りるわよ」


 ワイバーンは降下し始めた。

 そこには小さな街が広がっている。さらにその先には……


「ピラミッド!?」


 かと思ったが、それは正確に言えばピラミッド型の甲羅を持つ巨大な亀だった。








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