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「その鈴音色の声も変わらない」

「本当に誇らしいわゴリプー!!」


 エヴァ嬢が目をキラキラさせながらテーブルから身を乗り出して来た。


「お嬢様! そんなはしたないことを!」


 世話係のマリアが慌ててエヴァ嬢を窘める。


「いやぁ、エヴァ様の先見の明ってヤツですかね? さすがです」


 突然の近衛伐士隊副隊長との出会いから十数日経ったある日の夜、俺はルシアンたち選抜メンバー(ジーンキララは除く)、そしてエヴァシェリン・セブンスらと共にフィア区にある料理店に来ていた。選抜試験の打ち上げってヤツだ。


 あ、そうそう。この料理店はさ、まだ街に来たばかりのころにルシアンたちといつかここで飯を食おうと話し合っていた店なんだよね。やっと叶ったわけだ。なんだか感慨深い。


「ホントにエヴァ様の言う通りだよ。近衛伐士隊に入隊なんてスゲーよなぁ」


 ルシアンが興奮した様子でバシバシと肩を叩いてくる。おかげで食べようとしていたヲリアルパスタを零してしまった。


「でも、本当に驚いたよ。王剣器隊もスゴイけど、近衛伐士だなんて」


 ルシアンにデコピンしている俺を見やりながらダルグレンが言った。


「あぁ、俺もびっくり仰天さ」


 まさか、その副隊長が魔人だったなんてね。

 王都にも魔人がいることはレーミア様から聞いていたけど、まさか王城にまで魔族の手は及んでいるとは思わなんだ。

 これじゃ王の暗殺も容易じゃないか。でも、ノーベンブルムの王よりもヲイド教の方が強大だから実行してもあんまり意味がない。たぶんそう考えているのだろう。


 うーん。

 ジーンキララが以前話していた魔人のボスってのはあのヴァルコ副隊長のことだったのだろうか?

 彼女の行動は彼の指示なのか?

 俺の正体を知っていてスカウトしに来たのか?

 だとしたら……


 やはり魔人どもは油断ならないヤツらだ。一体どのくらいこの国に潜入しているのか?


「とりあえず、入隊までに色々と準備しなきゃな」


 椅子の背に寄りかかりながらルシアンが言う。


「王都への引っ越しだけでも手続きが面倒だもんな」

「その為の2か月の猶予期間があるんだろ?」


 そう、俺とルシアンは2か月後、このべネルフィアから王都キュロアへと引っ越す。ちなみにクリスソフィアは先に王都に引っ越して行った。だからこの場にいないのだ。


「2人とも大変だ。僕たちは変わらずここにいられるから気が楽だよねアーロン?」

「そうだな」


 ダルグレンとアーロンはべネルフィア伐士隊に決まっていた。ソーユーとジューンは街道伐士隊に採用されている。つまり、俺以外の者たちは望んだ道に進めたわけだ。良かった良かった。


「アルは明日実家に帰るんだろ?」

「あぁ、一旦帰るよ」


 本当はジーンキララを監視していたかったのだが、彼女はとっとと王都に帰ってしまったし、レーミア様から砦に戻ってくるようにと連絡があったのだ。俺から直接報告を受けたいのと、それとは別に頼みたいことがあるらしい。だから、彼ら人間たちとまったり過ごすのは今日でひとまず終わりとなる。


「2か月もあるのだからもう少しこの街でゆっくりしていけばいいのに……」


 エヴァ嬢が頬を膨らませながら言った。


「えぇ、俺もそのつもりだったのですが、向こうからの急な呼び出しを受けましてね。色々と……まぁ、積る話でもあるんでしょう」

「そっかぁ、そうよね。親御さんからしたら、王都となるともっと会えなくなるんだものね」


 エヴァ嬢がうつむき加減に言う。


「ジーンキララもさっさと王都に帰っちまったもんな。まぁ、あいつらしいっちゃ、らしいけど」

「教官方も次の募集で忙しそうだった。俺たちも今はまだこうして集まる余裕があるが、いずれはそれもできなくなるな」


 ソーユーとアーロンも少し寂しげな顔つきだ。

 まったく、どいつもこいつも暗い顔しやがって、せっかくの打ち上げが台無しだ。


「別にこれが永遠のお別れってわけじゃないざましょ?」


 もぐもぐとヲリアルパスタをパクつきながら、俺を一同を見回した。

 ふっ、これから俺のありがたい説教を聞かせてやるぜ!!


「いいかい――」

「そうだよみんな! これで終わりってわけじゃない。街道伐士隊もべネルフィア伐士隊も近衛も剣器もみんなどこかで必ず繋がっている。だからさ、ジーンともアルとも、それに教官たちとだってきっと再会できるさ! だからみんな! そんな辛気臭い顔止めようぜ!!」


 ニカッと白い歯を見せて爽やかな笑みを振りまくルシアン、を引っ叩く俺。

 俺が言おうとした事は大体ルシアンが今言った通りの事だ。ルクスアウラ王女の護衛に追加で王剣器隊が入ったり、街道で襲撃があった場合には剣器と街道討士隊が連携することもある。だから、決してバラバラになったままってわけじゃないんだな。

 ま、俺の場合だと敵として再会する可能性もあるわけだけど。


「そうね、ルチノスケの言う通りだわ! それに、案外すぐにまた会えると思うわよ」

「というのは、どういうこっです?」


 エヴァ嬢の含みのある言い方が気になったので尋ねる。


「あらぁ、ゴリプー合同演習会のこと知らないの?」


 合同演習会?

 そんなのあんの?


「それって?」

「はぇー、ダメじゃないゴリプー。それじゃルクスアウラ王女に愛想尽かされるわよ。まぁ、そのときはまたワタクシの従者してあげてもいいわ!」

「申し訳ありません、申し訳ありません。この哀れなゴリプーめにその詳細を教えてくださいまし」

「仕方ないわね」


 エヴァ嬢はピンと人差し指を立てた。


「あっ、お嬢様、それは」

「へへん、実はこのノーベンブルム王国に他の3国の伐士団がやって来て合同の演習を行うのよ!!」


 胸を仰け反らせてエヴァ嬢が言う。


 他国の伐士団がこのノーベンブルムにやって来るのか……


「……」


 おいおいおい!

 それが答えやないか!!


 そうだ、そうだよ。【静寂の森包囲作戦】で大海の主に戦いの意思を気取られることなく伐士団を輸送する方法がコレだったんだ!

 運ばれる伐士たちには本来の目的は伏せて、あくまで訓練の一環と言ってしまえばいい。敵を騙すならまずは味方からってヤツだ。そこに殺意は発生しない。だから、大海の主が介入してくることはない。

 

 しかし、いざやって来た他の国の伐士団がノーベンブルムの作戦でいきなり戦えと言われて素直に従うだろうか?


 答えはYESだ。

 尤者ファーストが命じれば誰だって従う。

 彼さえ事前にこの国にいればよいのだ。


「エヴァ様、それはいつ行われるのですか?」

「んんとね、確か5ヶ月後だったと思うわ。でも、その前に会場お披露目会があるからそこで――」

「お嬢様ッ!!」


 世話係のマリアが割って入る。


「それは他の人たちに喋ってはならないとセブンス様が!」

「えー、だってもうすぐ全国に発表されるんでしょ? 一般観覧もできるらしいし」

「ですがっ!」


 まぁ、マリアには同情するけれど、こっちとしてはありがたい。


「ワタクシもつい先日お父様から教えられたんだから」

「そうだったんですか……」


 はぁ、どれだけ探ろうとも見つけられなかった事がこの幼いセブンスに教えられるとはな。

 こいつは思わぬお土産を手に入れた。まずはシャーナたちに、そして砦に帰ってからレーミア様に直接話さなければ。


 そして翌日。

 ベネルフィアの馬車停留所にルシアンたちが見送りに来てくれた。


「とりあえずのお別れだなアル」

「おう、言ってもたかだか2ヶ月程度だ。嫌でもすぐに経っちまうぜ」

「まぁな。そうだ、くれぐれも身体には気をつけろよ」

「てめーは俺の母ちゃんか」


 馬車に乗り込み、窓越しに手を振っているルシアンたちを眺める。

 思えば、初めてこのベネルフィアにやって来てから今日まで長いようでいて短い……ようでいてやっぱり長かった。


『これからどう動くつもりですか?』


 不意にプリマスの声が聞こえた。彼は本体ごと移動している最中だ。


「とりあえずはレーミア様の頼みってのを聞いてから考える」


 これから再び舞台は魔族側に移る。

 そっちはそっちで何やら不穏な動きがあるみたいだからな。何事もなく過ぎることはないだろう。


 馬車が動き始める。

 俺はルシアンたちに手を振り返した。

 人間社会ともしばらくお別れだ。あぁ、それとアルゴン・クリプトンともな。


 ◆


 その日の夜。

 南方のとある森でダークエルフ姉妹と合流した。


「随分と警戒しているんだね?」


 周囲に注意を向ける2人に問いかける。


「当然でしょ? ここら辺も伐士隊が監視しているかもしれないんだから」


 シャーナが呆れたように言う。

 彼女とはフォース戦以来どことなく気まずさを感じていた。どうにも今までのようにはいかない。


「まぁ、そうか。ところでここからどうするの?」

「砦から迎えが来るわ」


 セリスが振り向く事なく答える。


「私たちはここまで。後は迎えの者たちがあんたを砦に連れて行く」

「えっ、セリスちゃんたちは来ないの?」

「そう」


 てっきり彼女らも一緒に来るのかと思っていた。

 なんだかんだ言ってここまでずっと一緒にいたのは彼女たちだもんな。


「何よ、寂しいの?」


 シャーナがニヤニヤしながら問いかけてきた。


「うん、寂しい……」

「バッ、バッカじゃないの!!」


 自分から聞いといて何でこんなに動揺しているのだろうね。


「どうせ砦に戻ったらレーミア様にデレデレするんでしょ?」

「するねぇ……」

「あ、あんたねぇ!」


 キリキリと拳を固めていたシャーナだったが、急に脱力して真顔になった。


「あのさダーティ、この前の戦いのことなんだけど……」

「うん……」

「あのときは、痛くて……怖くて……」

「……」

「私は……私は……プフッ」


 プフッ?


 突然シャーナが吹き出した。懸命に笑いを堪えている。一体何なの?頭おかしくなったの? もう、ダーティわかんない。


「なんて顔してんのよ。言っとくけど、あれくらいで心が折れる程私は弱くないし。舐めんな」

「あ、お、おう」

「だからそんな気まずい顔しないでよね、そっちのが鬱陶しいから」

「う、うむ。シャーナちゃんありがとう優しいんだね。くれぐれも身体には気をつけてね」

「お前は私の母さまか」


「2人とも、ここがどこだかわかっている?」


 セリスが冷めた視線を向けてきたので俺たちは押し黙った。


 それからしばらくして砦から迎えの者たちがやって来た。先頭に立っているのは顔が青白い男だ。どっかで見た覚えがあるぞ。


「以前お会いしましたね」


 男は愛想良く俺に話しかけてきた。


「あぁ、君は確か砦から出る時に俺の血を吸った吸血鬼くんだね。ってことはやっぱり?」

「えぇ、今回も血を頂きます」


 吸血鬼くんは俺の方に手を翳した。


「静かに」


 セリスが俺たちの動きを制した。


「どうしたのお姉さま?」


 シャーナが周囲に目を配りながら尋ねる。


「さっき人の気配がしたような気がしたの」


 え?

 いや、そんなはずはない。この森の周囲はプリマスにも見張らせているのだ。人が入ってきたらすぐ俺に報せてくるはずだ。


「でも、もう感じない。一応、用心すべきだね。ここは私たちに任せて」


 セリスの指示に吸血鬼くんは頷く。

 彼は俺に手を翳す。すると、俺の足下が赤く染まる。血界だ。


 薄れゆく意識の中、木々の間へ分け入って行くシャーナたちの後ろ姿が目に入った。

 2人とも、気をつけてくれ。


 ◆


 顔に吐息が掛かっている。とてもくすぐったい。

 恐る恐る目を開けてみると、目の前に青い目が2つ。さらに長い艶やかな黒髪が俺の頬に掛かるか掛からないかくらいをフラフラ揺れている。


 なるほど、仰向けに寝ている俺を女の子が真上から見おろしていたのだ。


「ダーティさん、目覚めたですぅ?」


 あぁ、このぶりっ娘口調がとても懐かしい。

 そうだ。初めてここに来たときもちょうど彼女がこんな風に俺の事を見おろしていたのだ。


「久しぶりだねリリアンナちゃん、また会えて嬉しいよ」


 サキュバス娘リリアンナはニッコリと笑みを浮かべている。


「リリアンナも会えて嬉しいですぅ」


 起き上がり、辺りを見回す。この部屋にも見覚えがある。


「ここはレーミア様のお部屋かい?」

「そうですよぉ。あ、ほらちょうどいらっしゃいましたぁ!」


 その言葉と共に部屋の外から1人の女性が入って来た。

 暗めの紺色の髪に人形を思わせる白い肌。前に見た時の印象と何ら変わらない。ルクスアウラ王女とはまた違ったベクトルの美しさだ。恐ろしさすら感じてしまう程の美貌。


「久しぶりね、ダーティ」


 その鈴音色の声も変わらない。


 北方四将軍レーミア様との再会だ。









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