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「ローウェイン、てめぇをぶっ飛ばす」

 俺は真っ先に森の中へと駆けこんだ。草原だとただの的になってしまうからね。

 木の根に隠れて腰に装着した伐士帯を点検する。


「急ぐのはわかるが、丸腰は不味いんじゃないか?」


 この伐士帯は駆けて行こうとする俺にイーザウの隣にいた隊員が投げ渡してくれたモノだ。ついでに連絡用の水報板も貰っているわけだが……


 使ってみるか?


 しかし、今さら連絡しても、かえって他のメンバーを混乱させるだけかもしれない。

 俺はただローウェインを倒すことだけが目的なのだ。


 とりあえずここから移動しなければならない。体を屈めたまま辺りを注意深く見回す。


 おや?


 視界の端に何やら動きを察知した。

 斜め右前方の木の根の間が妙にざわついている。


 ……罠だな。ここはスルーして行こう。


 ところが、その木の根の間から呼ぶ声がした。


「おいアルゴン!」


 この乱暴な口調はソーユーだ。


「どこにいるんだ?」


 周りを見回すがその姿は見えない。

 立ち上がり、木の間を慎重に歩く。


「あ! 気をつけろ!」


 再びソーユーの声。

 一体何に気をつけろというのか?


「おい、どこにいるのかわかんないぞジム――」


 上を見上げて俺は思わず言葉を失った。

 なぜなら、ソーユーは木の枝の牢獄に囚われていたのだ。

 蛇のような枝に絡みつかれて動けないでいる。周りには他の候補生たちもいた。


「樹縛だ。近づくとお前もやられるぞ!」


 ソーユーが叫ぶ。

 俺は後ろに飛びのいた。


 樹縛とは、土奴ウの技の1つだ。樹に奴力を流し込んで自由自在に操る。今のように絡めとって捕縛することもできるし、そのまま絞め殺すこともできる恐ろしい技なのだ。これは主に中距離型ルジェンが好んで使う。少し離れたところに操者がいるはずだ。


「アルゴン下だ!」


 足下に振動を感じる。何かがせり上がって来る。


 根か!


 足に奴力を込めて地を蹴るのと同時に、木の根が勢いよく飛び出してきた。

 根は足に絡みつこうと伸びてくる。俺は近くの幹を蹴ってさらに上へと逃れた。

 緑の海から飛び上がってみると、厚い曇り空が広がっていた。

 東の方角、森を抜けた荒野の辺りの雲がやけに黒い。時々放電も起こっている。雷雲のようだ。それにしてもあまりに局所的すぎる。あれも奴ウ力によるモノだろう。


 ん?


 突然、視界の端に眩い光が映った。


「やべっ!」


 すぐ側を光の塊が通り過ぎていく。

 それは天奴ウ≪光槍カンデ・ランス≫だった。いや、遥かに威力が強い。まるでパルスレーザー的な何かだ。


俺は再び緑の海に潜った。


「この忌々しい枝を切ってくれ」


 ソーユーたちが叫ぶ

 枝の上に立つと、彼らを拘束している枝に向かって風の刃を放った。

 腕一本さえ自由にしてやれば後は自分たちで脱出できる。ほら、言ってる側からソーユーが隣の枝に飛び移って来た。


「ゴーレムはどうした?」

「破壊された。けど、俺たちのは偽物だ」

「そりゃ幸いだ。で、今の事だけどよ、遠距離型ソリスもいるぞ。ソイツは俺がやる」


 そう言いおいて、ソリスがいるであろう場所に向かって走った。

 木という障害物が多いので光槍は使えまい。樹縛で上に追いやったところを狙い撃ちするのが連中の攻め方なのだろう。

 そうとわかれば怖くない。


 と、思ったところで光の波が木々のを抜けて襲ってきた。それを避けていると下の根が再び牙を剥いてきた。後ろのソーユーが援護の火奴ウを放って焼き払ってくれた。


 さっきの攻撃で遠距離型がどこら辺にいるか検討がついた。

 木々を掻き分けながら走っていると前方の木から男が1人飛び立った。さっき、光の槍を放った野郎だ。俺が近距離型ガンフと知って距離を取ろうとしているのだろう。

 そうはいくか。ここで倒しておかないと。


 ≪樹縛≫!!


 奴力を幹から枝、土中の根から根へと伝え、幾本かの木を自由自在に操る。さっきのお返しだ。

 枝が男を拘束しようと伸びる。男は風の刃を飛ばして枝を切断した。しかし、その陰に隠れて俺が接近していたことには気づいていなかったらしい。がら空きの腹に衝手を喰らわせてやった。


 気を失った男の伐士帯を点検する。

 雷銃があるべき場所に別の武器が装備されている。雷銃と同じで大き目な拳銃の形をしている。ただし、後部に集光器のようなモノが付いている。なるほどこれで光をより強力に集めていたんだな。この曇り空でよくあれだけの光エネルギーを放てるなと思ってたんだよ。


 あのパルスレーザー的な力を発揮する仕組みは内部構造を見なければわからないようだ。

 ま、これはありがたく頂戴しておこう。何かの役に立つかもしれん。


「そっちも終わったみたいだな」


 木々を通り抜けてソーユーたちがやって来た。安堵の表情を浮かべているところを見るに、無事に敵を倒したらしい。


「おい、アルゴン! トイレにしちゃあんまりにも長くねぇか?」


 いきなりソーユーは肩を組んできた。


「話はルシアンから聞いたぞ。そのクリスって娘を助けられたのか?」


 彼は小声でそう言った。


「おう、お陰ですっきりしたぜ」


 そう答えるとソーユーは満足げに頷いた。


「それで、本物の要人ゴーレムは誰のところにあるんだ?」

「ルシアンだよ。さっき連絡が入ってな。無事に――」


 そのとき、ソーユーが持つ水報板が震え出した。


「おいマジかよ!」


 画面を覗き込んだソーユーは呻くような声を上げた。


「マズいぞアルゴン。ルシアンたちのところにローウェイン・シックスが現れやがった。あいつはやべぇぞ。態度だけじゃなく、実力もとんでもねぇんだ」


 狼狽えるソーユーの腕を掴む。


「ルシアンたちはどこにいる?」

「あ? あぁ、東の方角、この森を抜けた先の荒野だ。目標地点がその荒野のさらに先の岩山にある洞穴なんだよ」


 東の方角……

 さっき見た黒い雲の辺りだな。アレはローウェインの仕業だったのだ。ご丁寧にも俺の苦手な雷奴ウを使ってやがる。


「ヤツ以外の敵は何人ぐらい?」

「わからねぇ。けど、まだ大分残っていると思う」

「よし、お前らはその岩山に向かってくれ。予め敵を排除するんだ。ローウェインの野郎は俺が相手をする」

「1人でか?」

「その為に来た」


 ソーユーは頷くと、ニヤリと笑みを浮かべた。


「負けんなよ」



 森を抜けた先には地獄が広がっていた。

 例の黒雲から荒野一面に雷が落ちまくってやがる。

 ギリシャ神話のゼウスが怒り狂ったらこんな風になるのだろう。光って、轟いて、衝撃が走る。こんな中に飛び込む物好きはいないと思うじゃん? だけどね、いるんですよ。黒雲の真下に浮かんでいるヤツが。


 ソイツは雷が周りを飛び交っているのにまるで平然と浮かんでいる。てか、雷がソイツの周りを避けて落ちているようだ。おそらく、あれが操者だ。そしてもちろん、ローウェイン・シックスである。

 

 ローウェインはある方向を眺めていた。

 ソチラを見やると、ルシアンたちが逃げまどっていた。今はまだ雷撃は喰らっていないようだが、いつ当たっても不思議じゃない。

 ローウェインのヤツ、楽しんでやがるな。


 俺は腰に装着している集光銃(勝手に名付けた)に目をやった。

 まだこれは使わない。だから、今は!


 ありったけの奴力を両手に込めて地面に叩きつけた。


覇威土ハイド≫!!


 地面が波打ちルシアンたちの元へと突き進む。

 波立った土はやがて巨大な手のひらとなり、ルシアンたちを雷撃から守る楯となる。


 俺は雷地獄へと駆けだした。大丈夫、まだ震えも吐き気も来ない。怒りで紛れている。


「ルシアン! 早く行け!」


 そう叫ぶとルシアンは安堵の顔を向けてきた。


「アル! ソーユーから聞いたよ。本当に――」

「いいからさっさと行け!」

「わ、わかった」


 ルシアンは他の受験生たちの方を向いた。


「みんな、ここはアルに任せよう。俺が先頭を行くからケビン、スーラ、君たちは後ろを守ってくれ。残りは要人ゴーレムに付き添ってくれ」


 そう指示すると、みながその通りに動いた。

 へぇ、しばらくみないうちに頼もしくなってんじゃん。


「もう君に受験の資格はないはずだろう? 何をしに来たんだい?」


 上からローウェインの冷ややかな声が響いた。

 そういや、いつの間にか雷撃が弱まっている。こいつがコントロールしているって事だろうか?


「……クリスソフィアを誘拐させたな?」

「おい、僕の質問に答えろよ」

「誘拐を指示したのはお前だな?」

「質問に答えろッ!!」


 お互いに頭に血が上っているらしい。まるで会話になっていない。よし、いいだろう。ここだけは譲歩してやる。


「何をしに来たか教えてやるよ」


 上空にいるローウェインに指を突き付ける。


「ローウェイン、てめぇをぶっ飛ばす」


 








 



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