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「目を瞑っていた方がいいかもね」

「プリマス! あの男どもは塔に戻って来たか?」


 街の下層を駆けながらシックスの塔に潜入させたプリマスに問う。


「いいえ、まだです。他の分身体を街に放ちますか?」


 この街で人を隠すとしたら、絶対に他者が詮索してこないだろうシックスの屋敷だと思う。だけど、確実とは言えないからな。


「あぁ、頼――」

「待ってください……来ました。彼らです。フードを被せられていて顔はわかりませんが、クリスさんらしき人を連れています」

「クリスはどこに連れて行かれている?」

「上です。奴ウ力エレベーターを使って上に向かっています」


 奴ウ力エレベーターってのは文字通り奴ウ力で動くエレベーターだ。あんだけ高い塔だからね。いちいち螺旋階段で登るのも馬鹿らしいもんな。


「わかった。もうすぐこっちも着く。伐士隊本部に潜入させたお前は、俺と合流しろ」

「わかりました」


 お行儀良く上層下層なんて言っている場合ではない。奴ウ力を使って一気に上へと飛び上がる。

 シックス家の塔付近の建物の影で伐士隊本部に潜入させていたプリマス(そうだな、わかりやすくプリマスaとでもしておこう)と合流した。

 そして、塔内にいるプリマス(こちらはプリマスbとしておこう)に呼びかける。


「クリスはどうなった?」

『彼女は最上階まで運ばれました。今のところ危害は加えられていません』


 最上階か。なんとまぁ面倒な場所だ。しかし、逃げられる心配がないのも確かだ。


「一気に飛んで窓を叩き割って入れるかな?」

『それは厳しいですね。この建物は外からの衝撃に強い設計がなされています。それがたとえ奴ウ力による攻撃だとしてもです』


 プリマスbが淡々と答える。


「じゃあ、正面玄関から、ごめんくださいしなきゃならんのか」

『ただし、誰かが開いた時です。扉も頑丈ですので』

「そんな悠長な――」

「マスター、アレを」


 俺の言葉を遮ってプリマスaが注意を促す。

 彼が示した先には紙袋を抱えた大柄な男が1人、シックスの塔に向かっていた。

 男が正面扉の前で何やら言葉を発すると、扉が開き始めた。


 このチャンスを逃すわけにはいかない。

 俺は扉に向かって駆け出した。


「プリマスb、お前は引き続きクリスの様子を見ていてくれ。プリマスa、お前は第三の目として俺のサポートを頼む!」

『了解』

「了解」


 大柄な男の背中が扉の内へと入っていく。

 俺は勢いそのままにジャンプし、男の広い背中に向かって飛び膝蹴りを喰らわした。

 俺と男はエントランス内に倒れこみ、正面に置いてあった高価そうな壺を押しつぶしてしまった。


「マスター、左右に2人です」


 プリマスaの警告通り男たちが挟み撃ちに攻めてきていた。

 しゃがんだまま、左の男に足払いする。ソイツは派手な音を立てて床に倒れた。

 一方、右の男に対しては、突き出した肘を下からヤツの顎に向けて叩き込んでやった。鈍い呻き声を上げて仰向けに倒れる。

 立ち上がろうとしていた左の男の顔面を思いっきり踏みつけてノックアウトさせれば一丁上がりだ。


 俺はエントランス内を見回した。

 左側には細かい掘り込みがなされた扉と鉄製の格子扉がある。格子扉の先は広い煙突のように吹き抜けになっていた。


「これが奴ウ力エレベーターか」


 乗り台は今使っている最中らしく空っぽだった。


 右側には同じく豪華な造りの扉と螺旋階段が上へと続いている。そこからバタバタと誰かが駆けてくる音がしている。


「侵入がバレたようですね」

「だな」


 障害はなるべく避けないとな。それに階段からなんて面倒だ。


「ここから行こう」


 俺は鉄格子を開いて吹き抜けから上へと飛び上がった。

 これなら一気に最上階まで進むことができる。


 ところが、建物の中間辺りに差し掛かったところで上から炎が襲ってきた。

 慌てて近くの鉄格子から飛び出す。


「そう上手くは行きませんね」


 それでも半分程は登ることができた。このまま最上階まで駆け上がるぞ。


「敵は?」


 プリマスaが周辺を見回す。


「近くにはいません……あ」


 あ?


 上に続く階段のすぐ隣の扉が開かれており、そこからひょろ長い男が1人出てきたところであった。

 お互いに眼を丸くする。


 運悪く出てきた自分を呪いなってことで俺はソイツに殴り掛かった。

 拳が男の顎にめり込むはずだったのだが、軽く片手で払いのけられてしまった。


 およ?


 さらに攻撃を繰り出すが、それも全て躱されてしまう。

 どうやらこの男は他の連中とは違うようだ。


 にしても、何でコイツは反撃してこないのだろう?

 先程からこっちの攻撃を受け流すばかりだ。


 後の為に温存しておくつもりだったが、やむを得ない。奴ウ力を使おう。


「――!?」


 まるでこっちの思考を読んだかのように男は後ろに飛びのくと、一気に鉄格子の扉まで駆け寄り、そこから下へと飛び降りてしまった。


「どうします?」


 プリマスaが即座に問い掛ける。


 あの野郎、何かに気になるな……


 男が出てきた部屋を覗いてみれば、そこは多く水報板が保管されている書斎であった。


「……追え、ヤツが何者なのか知りたい。こっちは自力で何とかするよ」

「了解」


 プリマスaは男を追って鉄格子の向こう側へと消えて行った。


 あの男はなんだか、シックスとは別の存在に思える。まずはクリスを助けてその後あの男のことについて考えよう。


 俺は螺旋階段を駆け上がった。

 途中、何人かの男たちと出くわしたが、さっきの男よりも全然手ごたえはなかった。


 最上階の扉の前に立つ。


「プリマスb、中はどうなっている?」

「マズいですね。部屋の中には男が2人、1人はクリスさんに短剣を突き付けています。つまり人質に取られています」

「俺が彼女を助けにきたと知っているわけか?」

「はい。助けに来ることを見越していたようです。隣の伐士隊本部からそろそろ駆けつけるらしいですよ」

「はん! じゃあ、俺は勝手に他所の家に乗り込んだ悪者か」

「でしょうね」


 クリスは餌に使われたわけだ。俺かルシアンを伐士に捕えさせる為に。そういや、給仕係とか一切見なかった。最初からこの屋敷を捕縛場所にするつもりだったんだ。

 こりゃ、俺の想像以上にシックス家とこの街の伐士は深いつながりがありそうだな。


「この扉から見て連中はどこに立っている?」

「ちょうど真正面です」


 ふむ……

 時間がないからな。成功するかわからんが、試してみるか。


 俺は扉を蹴り開けた。

 短剣を突き付けられて怯えているクリスが眼に入る。だが、今は彼女に視線は向けない。

 俺は彼女に短剣を当てている男の目に視線を合わせた。明確な敵意を持って……


「おいお前! この小娘がどうなっ――」


 これまで何回か体験した感覚。精神世界で男と対峙する。俺はヤツの顎を一発殴った。


 ≪PSY――≫


 そこですぐに男の目から視線を外す。


「ふぐおぁ!?」


 男は見えない拳で殴られたように後ろにのけ反り倒れた。クリスに当てられていた短剣が落ちる。


 もう1人の男は呆然とその様子を眺めていた。その隙に間合いを詰めると、ソイツの顔面に膝蹴りを喰らわせてやった。


「クリスちゃん大丈夫かい?」


 敵が無力化されたところで誘拐されていた少女の元に駆け寄る。


「ア、アル君……」


 クリスは今にも泣きだしそうな顔だ。


「ルシアンは……?」

「あいつは大丈夫だよ。君を助けたがっていたけど、俺が試験に向かうように言ったんだ。それよりクリスちゃんは大丈夫? 何もされてない?」

「うん。私は特に何も――って! アル君試験は!?」


 クリスが驚いた顔をしている。


「あぁ、俺は別にそこまで王剣器隊に興味はなかったからね。しかし、クリスちゃんが無事でよかった。とにかくここから出よう。話はその後で」


 っと、その前に1つだけ確認しなければ。


 俺はクリスを人質に取っていた男を見おろした。両耳からやけに毛が生えている男だ。その胸が上下に動いている。とりあえず生きてはいるな。

 その頬を何度か引っ叩く。

 男は呻き声を上げながら目を覚ました。その眼に光が宿っている。良かった。狂数症は発症していない。すぐに眼を逸らせば重症にはならないようだな。


「おいこの野郎」


 俺は男の右耳の毛を思いっきり毟り取った。


「ぎゃあああああ!」


 男が悲鳴を上げながら暴れる。

 それを押さえつけて男に囁く。


「お前たちに彼女を誘拐するように命じたのはローウェインのくそ野郎だな?」


 男はただ喘ぐばかりである。


「おい、答えないってのなら、もう片方の耳毛も毟り取るぞ。お前が答えるまで尻の毛1本残さず毟り取ってやるからな」


 そう言ってもう一方の耳毛の束を掴む。


「ま、待て! そうだ、ローウェイン・シックスに命じられたんだよ!」

「うむ、ありがとう」


 俺は耳毛を毟り取った。


 悶える男は放っておいて窓に近寄った。とても大きな窓だ。外には暗い曇り空が広がっている。また雨が降りそうだ。


『マスター、奴ウ力エレベーターがここに向かって上がってきています。おそらく伐士でしょう』


 部屋の外を見に行っていたプリマスbが注意してきた。もちろん今の声はクリスに聞こえていない。

 

 出口は1つだな。

 俺は両開きの窓を開け放った。生ぬるい風が頬を撫でる。


「クリスちゃん、高い所から落ちるのは平気かい?」

「え? いや、平気じゃないよ」

「じゃあ、我慢してくれ」


 クリスの体をひょいっと担ぐと、俺は窓の淵に飛び乗った。


「え! ウソ、アル君!?」

「目を瞑っていた方がいいかもね」


 動揺するクリスごと俺は窓の外へと飛び降りた。


 










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