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「嫌な街だ」

「やっと着いたかー!」


 ソーユーが猫のように伸びをしながら言った。

 巨大馬車室内の窓から外を見れば、以前見た時と同様な光景が広がっていた。円周の通路が何列も並び、そこをいくつもの馬車が行き来している。


 内周の方の壁にも門がいくつかあり、そこから街の中へと入って行ける。

 俺たちは円周の道路の上を走る歩道橋から街へと通じる内壁に向かった。

 橋を渡っている間、その下を何台もの巨大馬車が通り過ぎ、結構な揺れを感じた。


 内壁側の門を通ると、そこには役所が広がっていた。

 べネルフィアの時と同じ手順で滞在許可証を貰い、さらに奥の門へと進む。


「おや?」


 俺は目の前の光景に首を傾げた。

 門の先の空間にはさらに2つの門が設置してあるのだ。

 多くの人々は左の門に入っていくが、何人かの明らかに身分の高い者たちは右の門に進んでいる。


「私たちはこっちだよ」


 先頭を行くセブンス氏は右側の門を指示した。

 どう考えてもVIP対応だなぁ。あの先には何があるのだろうか。


 セブンス氏の後をゾロゾロとついていくと、門の側には役人らしき人物が立っている。

 セブンス氏が二言三言何かを話し、許可証のようなモノを見せると、役人はお辞儀して脇にどいた。


 門の先には豪華な造りの階段があった。手摺には綺麗な細工が施されている。

 階段を登り切った先は小広間となっていた。右の壁際には巨大な水報板が設置してあり、街やその周辺の情報をリアルタイムで更新している。

 正面には外へと通じるひと際大きい門が、その先には空中回廊らしきモノが広がっていた。


「シックス家や有力者専用の通路さ。その他の者は下の狭い通路を歩め、ということらしいね」


 セブンス氏は面白くもなさそうに言った。

 薄い雲越しに太陽の光が降り注いでいる。その下にはビルのように屹立する建物群。その間を縫うように空中回廊が広がっている。

 その回廊の手摺から下を覗き込んだ時、セブンス氏が言った意味がわかった。

 空中回廊の下には石畳の通りがあり、そこを大勢の人々が行き交っている。アレがこの街の一般の人々なのだろう。そして、この上の空中回廊を歩く人々は、序数持ちや有力者専用の道なのだ。


「ここは良いけどよ、下だと最悪だな。息が詰まりそうだ」


 ルシアンが小声で囁く。

 俺も同感だった。ベネルフィアもセブンス区なるモノがあるわけだが、ここではより上下が意識されている。

 回廊の下は狭くて薄暗い。街をぐるりと取り囲む壁や背の高い建物の所為だ。ルシアンの言う通り、息が詰まりそうだ。ベネルフィアの開放的な港町とは正反対の街だぜ、ここ。

嫌な街だ。


「王都もこんな感じなのか?」


 ソーユーの問いにジーンキララは首を振った。


「いいえ、ここよりも大きくて清潔で開放的な都よ」


 ふん、とソーユーは鼻を鳴らした。


「どうせなら王都で試験だったら良かったのになぁ」

「こら! 滅多な事を言うんじゃない!」


 聞き咎めたドゥリ教官が周りを気にしながら注意した。


「少しは場を弁えんか!」


 それを聞いていたらしいセブンス氏が笑い声を上げた。


「まぁ、そう思うのも無理はないさ。私もこの街は好きじゃないよ」


 そう言うセブンス氏に向かってドゥリ教官は曖昧な笑顔を向けた。そんな彼の様子を見た俺たちは密かに笑いあった。


 ◆


 街の中心寄りにある宿泊所で手続きを終えた後、各自自由時間となった。

 俺は街の中を1人で歩いていた。肩には羽虫型プリマスが乗っている。


「どうだったプリマス?」


 声を潜めて尋ねた。


「試作機はこの街の伐士隊本部に運ばれました。そこで保管しているようですね」


 それじゃ手を加える事はできなさそうだな。

 でも、きっと何らかの不正が行われるはずだ。


「ヨム博士に関する情報は?」

「今は何とも言えません」

「なら、シックス家は?」

「それならば案内出来ますよ」


 プリマスの指示に従いながら、俺はシックス家の屋敷へ向かった。

 街中を歩いていると、よりこの街の異様さが際立って見えた。

 しばらく歩き続け、やっと目的地へとたどり着いた。

 シックス家はほぼ中央に位置しているようだ。彼らの屋敷は家と言うより塔だ。街の中で飛び抜けて高い建造物だった。10階以上はありそうだぞ。てか、ここに住むのは不便じゃね?


「随分と体力がつきそうな家だな。エレベーター装置でもあるのかしらん?」

「奴ウ力で似たようなモノが備え付けられていそうですがね。まだ中には入っていませんので」


 褐色の壁の所々に長方形の窓がある。

 隙間が無いくらいピッチリとしてやがる。


「窓から侵入ってのはキツそうだな。扉の方はどうだろう?」


 すると羽虫型プリマスは首を振った。


「扉も同様に隙間がありません。侵入するのは難しいですね」

「そうだな……」


 誰かが入る時にプリマスを忍ばせるか。


「ところで伐士隊本部はどこにあんだ?」

「それなら、そこですよ」


 プリマスが顔を向けている方を見る。

 そこはシックスの塔屋敷からほんの数メートル離れた場所だった。ベネルフィアにある本部とほぼ同じ造りらしい。にしても……


「近っ!ほとんど隣近所みたいなもんじゃねぇか!」

「ですねぇ」


 この伐士隊本部にも分身プリマスを送り込もう。それにはまず、本体に魔力を補給させないとな。


「よし、ひとまずお前の本体と合流しよう」


 それで踵を返して立ち去ろうとしたのだが、あぁ、なんと間の悪いこと。


「これはこれは誰かと思えばクリプトン君じゃないか」


 どこか人を小馬鹿にしたような聞き覚えのある声。振り返れば、案の定ローウェイン・シックスとその取り巻き連中が塔屋敷から出てきたところだった。


「人の屋敷の前で一体何をしていたんだい? あまりに不審だったので伐士を呼ぼうかと思っていたよ」


 ローウェインの口調は一見ただの嫌味なモノに思えるが、良くヤツを見てみると、その眼に敵意が宿っていることは明確だ。


「いえ、俺はただ、すごく立派な建物があるなぁと驚いていただけですよ」

「そうなのかい? ペリフォの時のように、君がまたライバル潰しをしようと企んでいるのかと思ったよ」

「……」


 あぁ、そう言えば俺のPSYの力でコイツの仲間をぶっ飛ばしたんだったな。もっとも、アレは俺の意思に関係なく発動したんだけど。


「ペリフォは隔離施設送りになったんだ。治ることはないそうだ」

「それはお気の毒に」


 としか言えない。


「言っておくが、君がどうやってあんなことをやったにせよ。絶対にタダでは済まさないぞ」


 ローウェインは一歩詰め寄って囁いた。

 身長は俺の方がデカイのでヤツが見上げる体勢なわけだが、中々どうして迫力がある。


「あなたが何を言っているのかさっぱりわかりません」

「貴様っ――」


 ローウェインが俺の胸倉を掴もうとした時、中年の男の声がヤツの名を呼んだ。

 その男はローウェインと同じく塔屋敷の扉から出てきたところであった。その背後に何人かの男たちを引き連れている。


「何をしているんだ? 早く来なさい」

「はい、父上」


 父上……ってことはあの男がローウェインの父親、シックス氏か。

 その容姿を説明しよう。

 小太りの成金オジサン……以上!


 ってくらいに見たまんまの姿なのだ。いかにも高価そうな衣服と装飾品、抜け目のない目つき。あぁ、ヤダヤダ、俺はこんな男が大嫌いなのだ。というか興味がない。


「いいか、さっき言ったことを忘れないことだ」


 そう捨て台詞を吐いてヤツは父親の元へと向かった。

 シックス氏たちはは塔屋敷からゾロゾロと歩き去っていく。


「はぁ、タイミング悪すぎだよなぁ。とにかく今はここから離れて――」

「マスター」


 プリマスの声に俺はハッとした。

 彼が見ている人物に見覚えがあったからだ。その人物はシックス氏のすぐ後ろを歩いている。


「あれは……ヨム博士だよな?」


 ヨム博士は初老を超えた白髪の老人だった。背が小さく顔は皺だらけ、見れば一目でわかる。


「間違いないでしょう」


 プリマスが同意を示した。

 シックス氏たちは既に曲がり角に差し掛かっており、その姿は見えなくなっている。


「やっと繋がりが見えてきたぜ」


 まぁ、前々から怪しいとは思っていたけど。

 これで敵の正体はシックスの可能性が高まった。






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