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「必ず尻尾を掴んでみせる」

 時が経つのは早いもので、今日はなんと伐士養成所の修了式である。

 屋外訓練場にて何の面白みもない、儀礼的な式が進行していた。お偉いさんによる退屈な長話になど、当然耳を傾けることはない。

 俺は、初めてこのべネルフィアを訪れてからこれまでのことを振り返っていた。

 巨大馬車にてルシアンと出会った。ダルやクリスと知り合えた。

 養成所では真面目なアーロンや、その真反対のソーユー、ジューンと。

 そして……


 俺は視線を斜め前方に向けた。そこには白金色の長い髪を後ろでまとめた女の子の後ろ姿。

 ジーンキララ・ローリング……自分以外の魔人を発見した。


 長かったようであっという間、様々な出来事に巻き込まれたよなあ。

 しみじみと思い耽りながら、お経のような挨拶を聞き流し続けた。


 長ったらしい式が終わると、俺たち訓練生は養成所の教室に集められた。


「修了おめでとう……と言いたいところだが、気抜くなよお前ら。これからが本番なんだからな」


 教卓に立つドゥリ教官が真剣な顔つきで俺たちを見回す。


「各伐士隊の選考試験が順次開始されるんだからな。特に選抜メンバー、お前らはすぐに始まるんだからな」


 教官は俺たち王剣器隊選抜メンバーに対して特に釘を刺した。


 伐士養成所を修了した者は、次に各伐士隊の選考試験を受けることになる。

 時期的にはまず最初に王都伐士隊の選考が始まり、次に主要都市、街道や海上伐士隊と行われ、最後に中小の街の伐士隊の選考が行われるのだ。


 しかし、今年度からはその一番目に王剣器隊選抜試験が行われる。

 伐士採用期間のトップバッターが俺たちってわけ。


「みんな悔いのないように。俺たちも引き続きサポートするからな」


 ドゥリ教官は胸を張って言い切った。

 なんだか、どっかの塾講師みたいだな。

 ま、俺としては受かろうが受かるまいがどっちでも良い。ただ……


 俺のすぐ前に座るルシアンに視線を向けた。


 コイツは本気で目指しているんだよなぁ。

 応援したいってか気持ちも少なからずあるのだ。


 ◆


 養成所から解放された後は、修了祝いの食事会が開かれた。

 修了生や教官たち、受付嬢エステルらが集まって、賑やかなパーティーとなった。


 その後。

 俺は自宅のベッドの上に寝転がって、手中の法螺貝を何とはなしに見ていた。


「マスター、本当に彼女たちに話してしまって良かったのでしょうか?」

「あぁ、俺らだけじゃキツイだろうからな」


 ベッド横のサイドテーブルには小動物型プリマス分身体が乗っかっている。

 プリマスが言っているのは、シャーナとセリスに競技会と序数狩りの関係、それについての今後の行動予定をつい今しがた話した事についてだ。


「しかし――」

「もちろん彼女たちは怪しんださ。今までこの競技会と序数狩りの関係性について隠してきたわけだからな。それでも彼女たちの力を借りないと上手く事を運べないと思う」

「それはそうですが……彼女たちは納得されたのですか?」

「一応ね」


 俺は苦笑いした。


「詳しく説明しろと凄まれたけどさ、俺には今監視が付いているからそっちには行けないと言っといたよ」

「監視者様様ですね」

「それでまぁ、選考試験の時には彼女たちも隠れてついて来てくれる手筈になったわけよ」

 

 もちろん全ての事を彼女たちに話したわけじゃない。サイラス・セブンスやジーンキララなどについては隠したままだ。


「マスター、私が先行してコルヴィアに向かいましょうか?」

「ヨム博士を捜し出したいわけだな?」

「はい」


 監視者の男が言っていたヨム博士が競技会の陰謀に関わっているとしたら、必ずコルヴィアにやって来るはずだ。

 彼を見つければ、首謀者や企みについても判るかもしれない。


「わかった。ありったけの魔力と奴ウ力を入れてやる。本体ごとコルヴィア近辺まで移動しろ。それと、分身を一体残してくれ」

「試作機に取り付かせるのですね?」

「あぁ、試作機の動きを把握していれば、首謀者が何か工作した時にすぐにわかるからな」

「了解です」


 よし、取り敢えずここでの準備はこんなもんだろ。

 あとは現地コルヴィアの状況を見て考える。


 俺は上体を起こし、軽く窓の外を見やった。

 通り挟んだ建物の一角で、若い男が壁に背を預けている。髭面の男ではないが、あれが俺の監視者であることは判っている。


 彼らは俺だけでなく、他の選抜メンバーや教官にも監視をつけていると話していた。

 ルシアンたちならともかく、ジーンキララが気づいていないとは思えない。

 彼女はどう考えているのだろう?

 それとも夜海の一件のように、今回も彼女が裏で糸を引いているのか?


 どっちにしても、油断ならない娘だ。

 しっかりと肝に命じておかないと。


 ◆


 そして数日後、いよいよコルヴィアへの出発の日がやってきた。

 以前、カルスコラへ向かった時と同様の型の馬車に荷物を詰め込む。ただ、前回とは違って今回は見送りにたくさんの人々が集まった。養成所同期生や選抜メンバーの家族などだ。むろん、俺とジーンキララにはそんな家族はいない。


「見送りの家族がここにいないのは、ちょっと寂しいね」


 とジーンキララが言った。彼女の視線の先には家族と雑談している他のメンバーたちの姿。


「王都の家族に会いたくなった?」


 そう尋ねると彼女は軽く頷いた。


「うーん、ちょっぴりね」


 魔人の父親と話しているところは夜海の時にバッチリ聞いたからな。

 仮に彼女の話が本当なら、王都の伐士隊の中に魔人がいる、ってことになる。

 そして彼、もしくは彼らは俺のことも既に把握しているのだ。

 俺はチラリと隣の美少女を盗み見た。

 いつか彼女と戦う日も来るのだろうか?



「よっ!さすがのお気楽人間も緊張しているのかい?」


 快活な女性の声に呼び掛けられた。

 声のした方を見れば、舟頭のソニエとダルグレン、そして養成所受付のエステルがコチラに向かって来ていた。


「あいや困ったなぁ。これでも僕は繊細な心の持ち主なんです。エステルさん、この哀れなアルゴンを励まして下さい!」

「その分だと心配なさそうね」


 苦笑するエステル。


「あっちの方に分けてあげて欲しいわ」


 彼女が示した先にはルシアン、それにクリスとルミばあさんがいた。それで彼女が言った意味がわかった。ルシアンの顔がムンクの『叫び』のようになっていたのだ。


「まったく、しっかりしなよルシアン。それじゃ受かるものも受からないよ」

「!?」


 ルシアンの顔が蒼白になる。


「う、受からない?」


 ヤツは頭を抱えて悶え出した。

 面倒くさいなぁ。

 とりあえずルシアンは放っておいて、俺はクリスに向き直った。


「聞いたよ。王都行き、決めたんだってね」


 すると彼女ははにかみながら頷いた。


「やっぱり私も私の可能性を試してみようって思ったの。でないと、夢に近づけないからね」


 夢……。

 そういや以前話してくれたっけな、 自分の装飾品の加護でみんな(特にルシアン)を守りたいって。


「後から私たちも応援しに行くからね」


 とルミばあさんが言った。

 まぁ、試験の様子を他者が観れるわけではない。それでも応援に来てくれるわけだからありがたい話だ。


 それからしばらく雑談タイムを過ごしたところで、この街のボスであるセブンス一家がやって来た。

 当主のセブンス氏の背後にはエヴァ嬢がいる。

 彼女は俺の姿を認めると駆け出してきた。


「いよいよね、ゴリプー。ワタクシの家来なんだからきっと受かるわよ。ルチノスケは……うん」


 エヴァ嬢はルシアンの腑抜け顔を見なかったことにしたらしい。気にせず話を続けた。


「あのローウェインのヤツに見せつけやって」

「もちろんです」


 エヴァ嬢は不意にクイクイと指を曲げて俺の顔を近づけさせた。そして耳許で、


「ワタクシも夢の為に頑張るつもりだから、ね」


 馬車の近くに立っていたセブンス氏が声を上げた。


「では、選抜メンバー諸君!そろそろ出発しようじゃないか」


 すると、俺の服の袖に隠れていた羽虫型プリマスが飛び立った。

 馬車内で試作機に取り付いてくれるだろう。

 必ず尻尾を掴んでみせる。


 俺たちは再びこの大型馬車に乗り込んだ。今度の行き先はシックスの街コルヴィアだ。


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