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「やっぱり事情を知るには当人に聞くのが一番だよな」

 伐士養成所2階の教室では相変わらずドゥリ教官の粗野な声が響き渡っていた。


「伐士の戦闘における型ってヤツは3つある」


 教官は背後の巨大水報板に手を触れた。

 板の中で伐士と魔族とが一定の距離をおいて向かい合っている。


「まずは基本的な型である【ルジェン】。これは敵と一定の距離を置いて戦闘を仕掛ける型だ。雷奴ウ、土奴ウを中心に行使する。一般的な伐士はこの型を使っている。これが最も身を守れるからだ。ここでもルジェンを教えてきたつもりだ」


 水報板の中で伐士が攻撃を仕掛けている。魔族には接近せず、常にある程度の距離を保っている。ルジェンは中距離防御型なのだ。


「次は【ガンフ】だ」


 映像が切り替わる。

 今度は伐士が魔族に接近して攻撃を仕掛けている。


「これは敵に接近戦を仕掛ける型だ。無奴ウ、火奴ウを中心に行使する。攻撃力はあるが、その分自身を危険に晒す。腕に自信がある者でなければ扱えないだろう。フォース様が好んで用いる型でもある」


 不意に教官がコチラに目を向けてきた。


「これまで見たところ、ローリングとクリプトンもこの型が好きなようだな」


 皮肉の籠った台詞に曖昧な微笑を返す。ジーンキララも同様の反応だった。


「最後は【ソリス】」


 水報板の映像が再び切り替わる。

 今度は大勢の魔族を見下ろす形で伐士が浮いている。


「この型は遠距離から敵を殲滅するのに特化している。天奴ウ、風奴ウを中心に行使する。3つの中では最も扱いが難しいが、その分多勢に対して効果的だ。尤者ファースト様が得意とする型でもある」


 板の中の伐士は無数の光槍を下の魔族たちに浴びせかけていた。

 ゴブリン王が占拠した町のことが思い返される。あの町を滅ぼした張本人であるファーストは責められることもなく、英雄視され続けている。 それだけヲイド教の情報統制が強固なモノなのだろう。


「今後、お前たちは伐士としてこの国に尽くすことになるわけだが、その過程でこの3つの型のことも頭に入れて置いてくれ。状況に応じて使い分ける事が大切だからな。それじゃ――」


 ドゥリ教官の声は途中で掻き消されてしまった。その代りに機械的な声が頭に響く。


『マスター、保管庫へと侵入しました』


 それはプリマスの声だった。

 聴覚を同調させているので、離れた所にいるプリマスの声を聞くことができるのだ。

 そして左目を同調させているので、今プリマスが見ている光景が左側の視界に投影されている。そこには造り付けの棚に収納された膨大な数の水報板が映っていた。

 俺が訓練を受けている間にこの魔奴ウゴーレムを街道伐士隊の建物に侵入させた。目的は序数狩りの被害の実情を知ることだ。


『整理整頓という概念が無いのでしょうかね? 分類もバラバラです。探すのに苦労しそうですね』


 プリマスは愚痴を溢しながら水報板の情報を確認している。その視界に映っている彼の手は小動物のソレだった。

 これもプリマスの能力の1つ。彼は自分の小さな分身体を創り出す事ができるのだ。今、保管所に潜入しているのも小動物の姿を模した分身体だ。本体は今でも岬の隠れ家にいる。


『マスター、分身体の活動時間には限界があります。今回で全てを調べきる事は不可能。何日かに分けて潜入する事になります』


 プリマスはそう言いながら淡々と板の中身を確認していく。

 彼の目を通して俺もその中身を確認していった。


 ◆


 数日後、岬の隠れ家にて俺とプリマスは知り得た情報を整理した。


「――被害を受けている者はやはり序数持ちが多いですね」

「だが、彼ら以外にも被害を受けている者たちもいる。関連要因はデカイ荷馬車ってことか。積み荷に特別なモノがあったとか?」


 俺とプリマスは洞穴内に造った石製の椅子に腰かけている。ってか、その椅子と松明くらいしか置いていない殺風景な隠れ家なんだよね。俺としては魔族の拠点ぐらい居心地の良い空間にしたいのだけど、プリマスは別にいいって言うんだよね。つまらんヤツだ。


「その点はよくわかりませんね。報告書には積み荷が荒らされたという記述がありましたが……あとは、到着地の関連性でしょうか?」


 プリマスの言葉に俺は肯定した。

 報告書を見ていくと、【学術都市カルスコラ】と【工業都市ダーナム】の2都市発、若しくは着の馬車が多く襲撃されているのだよ。この事実は見過ごせない。


「いかにも何かありそうな都市だよな。何が運ばれていたのやら……」

「さすがにそこまではわかりません」


 俺たちの知らない何かが行われているのだろうか?

 序数狩りの生き残りがいれば聞き出せるんだがなぁ。生憎、全員死んでしまっている。


「なぁ、セブンスの馬車は俺たちが乗っていたの以外にも襲撃されているよな?」

「えぇ、カルスコラからダーナム行きのモノが襲撃されています」

「ふむふむ」


 やっぱり事情を知るには当人に聞くのが一番だよな。


「よし、ここは物知りおじさんに聞いてみよう。そう、サ――」

「サイラス・セブンスですね。良い考えです」

「……」


 そこは俺に言わせろや。


 ◆


『……なんだ?』


 耳許の水報板からサイラス・セブンスの不機嫌な声が響く。

 こうして彼に連絡を取るのは久し振りだ。相も変わらず彼の態度は横柄だ。


「セブンスさん、お久しぶりです。お元気でしたか?私は最近嫌味な相棒ができましてねぇ。こういうのなんて言う――」

『いいからさっさと用件を言え!』


 水報板の向こうでサイラスが苛立ちの声を上げた。


「私は良き友人であろうとしているのに、そんなに邪険に扱われるとは心外です。まぁ、いいでしょう」


 俺は例の荷馬車の件を尋ねた。


「どうにも、私の知らない何かが行われているようです。セブンスさん、あなたなら何か知っているんじゃないかと思いましてね」

『それは……』


 サイラスは何か言い淀んだ。やっぱり何か知っているようだね。


『お前、その情報をどうやって手に入れたんだ?』

「お気になさらないで。まずは私の質問に答えて下さいよ」

『機密なんだ……』

「機密大好き。さぁ、教えて下さい」


 彼は躊躇っていたが、やがて話し始めた。こっちが弱味を握っているからね。


『王剣器隊選抜試験に併せて、伐士帯改良の競技会が秘密裏に行われるのだ』

「伐士帯の改良、ですか?」


 おうむ返しに聞き返す。予想外の答えだったからね。


『そうだ。我々序数持ちが参加する。この競技会で優秀だと認められれば正式な伐士帯として生産されるのだ。例の荷馬車には我がセブンスの改良案の設計図並びに、その試作機が積まれていた』

「それが奪われたのですか?」

『いや、奪われたのは貴金属類だった。愚かな魔族どもにはその重要性が理解できなかったのだろうな』


 嘲るような調子でサイラスは言った。

 しかし、本当にそうなのだろうか?

 序数狩りの背後には人間がいる。ソイツの目的はその試作機ではなかったのか?


「他の序数持ちの方々も同じく試作機造りを行っていたのでしょうか?」

『お前はシックスとも繋がりがあるのだろう? だったら直接聞けばいいだろうが』


 意地の悪い返答だ。


「まぁ、色々とあるのです。ところで選抜試験と併せてというのはどういう事です?」

『どうって、選抜候補生にこの試作機を使用させるのだよ。むろん、その事は秘密裏に行われる』


 候補生って俺たちじゃん。


「あの、それって公平さに欠けませんか?使用する伐士帯が違ったら発揮できる力も違ってくる」

『ふん、所詮は茶番という事さ。血筋が良いモノが選ばれる。兄もその事を十分に理解していると思っていたがな……』


 あ、出た、ブラコン発言だ。

 コイツ隙あらば兄、兄、兄だもんな。


「血筋と言いましたけど、当の王剣器隊のフォース様の事をお忘れではありませんか?」

『……』


 あ、黙り込んだ。

 にしても、ルシアンには聞かせられない話だな。これじゃ頑張っているアイツが馬鹿みたいだ。あのフォースはこの事を把握しているのだろうか?


「大体わかりました。ありがとうございます」

『ま、待て!』


 通話を終えようとするとサイラスは慌てて声を上げる。


「どうしました?」

『お前は何をするつもりなんだ?』


 今度の彼の声は恐れを帯びている。


「さぁ、自分でもわかりません。ただ、あなた方にとって嬉しい結果をもたらす事ができるかもしれない。それでは」


 サイラスが声を上げる前に俺は通話を切った。





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