表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
106/249

「あぁ、リリアンナ、その頑丈さが仇になったよ」

「助かったぁ!」


 ソーユーの安堵の声。

 他の伐士たちもホッとしているようだ。だが、気は抜けない。

 セブンス家の者たちは森の中に避難し終えたようだ。

 俺たちもその後に続こうとした。


「トロールだっ!」


 そう叫んだのはアーロンだ。

 彼の指差す方を見れば、トロールとレギドラたちが土壁を破壊して森へと向かっている。狙いはやはりセブンスか?


 数人の伐士たちが仕留めに向かった。

 雷銃で足止めしようとするも、トロールは気にせず突き進む。

 そしてレギドラたちが連携して反撃してくる。

 ヤツらも敵の増援とあってなりふり構っていられないようだ。


「森に入られたら終わりだ」


 俺たち養成所メンバーも加勢した。

 ルシアンやアーロンが中距離から援護し、俺とジーンキララが接近して仕留める。こっちだって連携は負けていない。


「おいっ!トロールがそっちに行ったぞ!」


 そんな怒声と共に軽い地響きが起こった。

 トロールの巨体が俺たちを見下ろしていた。

 灰色の太い両腕にはこれまた大きい戦斧が握られている。

 その小さな目に怒りを宿し、俺たちを睨み据えていた。


 狙いをつけられたようだ。ならば、こちらから仕掛けてやる。


「ルシアン、斧を頼む!」

「お、おう!」


 傍のルシアンにそう指示すると、俺はトロールに向かって駆け出した。

 ヤツは一瞬目を丸くしたが、すぐに敵意を取り戻し、戦斧を斜め上に振り上げて薙ぎ払うような斬撃を放った。

 俺は後ろに飛んで避ける。斧は空ぶって地面に突き刺さった。

 トロールはもう一度振り上げようとした。しかし、斧には土の塊が吸着していて引き抜く事ができない。ルシアンが土奴ウで戦斧を拘束したのだ。


 ヤツは困惑の表情を浮かべていた。

 俺はその隙を逃さない。

 固定された斧の柄を踏み台にして跳躍。

 トロールの眼前まで飛び上がると、オーバーヘッドの要領でヤツの首元に足を振り落とす。


 《鎌・蹴》!!


「ぐおぅっ!」


 短い呻き声を上げてトロールはその巨体を地面に崩れ落とした。

 俺はそのトロールの背に立ち、下で呆然としているルシアンに笑いかけた。


「やったな、アンルチ!」


 ルシアンも笑顔を浮かべながら手を挙げようとした、が、彼の表情は一瞬で強張った。みるみる内に目を見開きそして、


「アル!逃げろッ!!」


 ルシアンが後ろを示しながら叫び声を上げた。俺は振り向いた。


「グオオオオッ!」


 巨大な赤い塊が俺に向けて飛んできていた。

 火竜は低く水平飛行しながら俺に向けて口を開けている。炎で俺を焼き殺す気だ。


「早く逃げろッ!」


 ドゥリ教官も叫ぶ。

 火竜の大きく開いた口の中で炎が踊っている。その炎が突如、膨張し、ヤツの口から溢れ出してきた。


 危ないッ!


 俺は跳んだ。と、同時に横合いから2つの銀色の塊が飛んできて、火竜の前脚付け根辺りに直撃したのが見えた。そいつらは人型を模した殺戮マシーン、シルバーゴーレムだった。そういや、馬車に積み込んでいやがったな。


 火竜は炎を吐き出す代わりに悲鳴を発した。が、俺に向けて突進して来る勢いは変わらない。

 そして、火竜の尖った爪が俺の肩を掠める。ジャケットの肩の部分が切り裂かれた。それで終わりなはずだった。しかし、


「うわっ!?」


 空中で急にグイッと引っ張られる感覚。

 肩口を見れば、確かにジャケットは切り裂かれている。だが、その下の黒い布は破かれずに火竜の爪を食い込ませたままだった。


 巫女忍者服……。

 サキュバス少女リリアンナ特製の俺の衣装だ。念の為に着込んでいたんだよね。


 『この布は非常に頑丈なのですよぉ。エッヘン!』


 あぁ、リリアンナ、

 その頑丈さが仇になったよ。


 さて、この一瞬の間に昇天する準備はできた。来るなら来いや……。


「うっわああああああぁぁぁ!!!!」


 爪に引っかかった俺は火竜と共に物凄い速さでお空へと上昇して行く。


「ア、アルー!!」


 ルシアンたちの叫び声が微かに響いたが、それも一瞬だ。


 《火竜の羽ばたき》


 頭の中に魔鬼理の名が響いた。

 そういや、この火竜が羽ばたく度にその翼から熱を発しているようだ。干からびちまいそうだぜ。


 眼下の馬車、人間、魔族がどんどん小さくなって行く。

 熱が収まったかと思ったら、今度は湿った空気が容赦なく俺に吹きつける。厚い雲の中に入り込んだのだ。

 視界がボヤける。平衡感覚が狂って、吐きそうだ。


 厚い雲を突き抜けると、一転爽やかな風が頬を撫でた。

 背後には沈みゆく太陽の残照。


 今だ。


 《出ろ》!!


 両肩から魔手羅を突き出し、火竜の前脚に一撃を入れる。その衝撃で爪から巫女忍者服を外す事ができた。


「さいならー!」


 俺は手を振りながら再び雲の海へと落ちていった。


 《翼竜の羽ばたき》!!


 厚い雲の中、魔手羅を翼の形状へと変化させる。

 さて、安全な所まで一旦逃げよう。

 俺は厚い雲の中を泳ぐように進んだ。これだったら火竜にも見つかるまい。


 しかし、熱気の狩者はそう簡単に逃してはくれなかった。


 背後の雲の中から、突如炎の塊が突進してくるではないか!

 それは火炎放射ではない。炎には翼がある、牙がある、そして黄色い目玉がある。

 その炎は火竜そのものだった。ってか、火竜が炎を纏って突進しているのだ。

 尋常ならざる熱気が迫る、迫る、迫る、迫る……あっちぃ!!


 俺は堪らず雲海から上へと飛び出した。

 再び爽やかな風が体に吹きつける。その下の雲海を赤い塊が物凄いスピードで通り過ぎた。


 と、


 雲を四方に飛び散らせながら、赤い巨体が飛び出してきた。まるで海面から飛び上がったクジラみたいだ。迫力は断然コッチが上だけどね。


 どうやら、簡単には逃してくれないようだ。

 あの炎に包まれた状態だと飛ぶスピードが明らかに速くなってやがる。身体能力を向上させる効果がありそうだな。


 雲海の上でお互いに翼を羽ばたかせ対峙する俺たち。

 火竜の体を覆っていた炎はしだいに鎮火されていく。しかし、その黄色い目は獲物である俺に向けられたままだ。


「なぁ!見ての通り俺は人間じゃない。あんたの敵じゃないぜ?」


 俺はそう叫びつつ、火竜の体を注意深く眺めた。

 注目すべきは右前脚の付け根の辺りに赤黒い傷痕がある事だ。あれは援軍に来た伐士たちの光槍や先程のシルバーゴーレムによるモノだ。

 そこをなぜ狙ったかと言えば、その場所に火竜の発炎器官である火袋があるからだ。

 その火袋という臓器に魔力が流し込まれる事によって炎が生成されるんだって。だから、そこさえ潰せば脅威的な炎攻撃を封じる事ができるのだよ。


 あともう一、二撃で潰せるはずだ。

 理由はわからないがコイツは明らかに俺の事も狙ってやがるからな。逃げるより倒しちまった方がいい。そして誰の指示で動いているのか聞き出してやるぜ!


「だからさ、炎吐くの止めて言葉でコミュニケーション取ろうや、な?あ、炎を吐くのがコミュニケーションとかいらねぇからな?」


 どうやって火袋を潰そうか……。


「さぁ、まずはお互いに頭を冷やすところから始めよう……!?」


 火竜はニヤリと邪悪な笑みを浮かべたかと思えば、いきなり口を大きく開けて炎を吐き出した。

 俺は咄嗟に後方に下がって避けた。


 やっぱり話し合う気はないようだ。それは俺もだが。


 再び俺と火竜とのドッグファイトが始まった。

 小回りは俺の方が効く、が、俺たちは羽虫とコウモリみたいなモンだ。今は逃げ回れても、飛ぶのに不慣れな俺はいずれ体力が尽きちまう。


 沈みゆく太陽に手を向ける。

 奴力を両手に流し込み、光エネルギーを掻き集める。

 集めた光の塊は、細長い槍へと形成されて行く。

 狙いを後方の火竜に定め、


 《光槍(カンデ・ランス)》!!


 光の槍を火竜に向けて投げつけた。

 しかし、ヤツの炎がすぐに焼き尽くす。


「ちっ!」


 今度は数本の光槍を連続で投げつけた。

 火竜の全身から炎が吹き出し包み込む。光槍はヤツの皮膚に届く前に焼き尽くされた。


 ダメだな。火力が足りない。

 俺の場合、近接なら威力のある魔奴ウも使えるが、あの火竜には容易に近付けん。

 さっき爪に引っ掛かってた時にやるべきだったな。が、後悔先に立たず。仕方ない。今できる事をやろうではないかい。


 俺は前方に視線を戻した。

 見渡す限りの雲の海。


 雲か……。


 俺は高度を落とし、雲の上スレスレを飛行する。

 両腕を雲の中に突っ込み奴力を流し込む。

 雲がどんどん俺の両手に集まり、しだいに大きな水の玉を形成した。


 火には水ってな!


 《水煉》!!


 水の玉を火竜に投げつける。しかし、すぐに蒸発させられちまった。まさに焼け石に水ってな。

 それでも蒸気でヤツの目をくらます事ができた。

 俺は一気に上昇した。

 上へ、上へ、上へ……。


 火竜の熱気から解放されはしたが、今度は凍てつく程寒い。だがこれでいい。


 遥か上空で俺は停止した。

 こんな環境で平然としてられるのも魔人の体のお陰だわな。

 下に目を向ければ、火竜がぐいぐいと上昇してきていた。


 戦いにおいては、下より上に位置取った方が有利らしいが、果たしてな?


 魔鬼理《水刃》!!


 魔手羅の翼が水の膜を帯びていく。見た目よりも多量な水を含んでいるんだぜ。ま、翼の役目は果たしてないけど。

 したがって、俺は物凄いスピードで落ちていく、火竜に向かってな。


 奴ウ力《風牙》!!


 高高度の凍てつく風を身に纏わせ、狙いを下の火竜に定める。

 ヤツは全身に炎を纏わせ突進してくる。


 喰らえや、火トカゲ。


 魔奴ウ《斬り裂き屠る霜巨人(ユミル・ザ・リッパー)》!!


 翼から大量の水の刃を飛ばし、それと同時に凍てつく風の牙も飛ばす。

 水の刃は凍える風によって氷の刃へと変化し、火竜へと襲いかかる。


「グオオオオォォォッ!!??」


 氷の刃に切り裂かれ、悲鳴を上げる火竜。しかし、まだ倒れない。

 それでもこの好機は逃せない。


 俺は火竜へと向かう。

 ヤツは炎を吐こうとする。


 そうはさせるか。


 《異心伝侵》!!


 覚えたてのカルードの魔鬼理だぜ!


 火竜の黄色い目が虚ろになる。

 意識が内側に向いたようだ。


 魔奴ウ《螺旋槍閃突》!!


 翼からドリル状に変化させ、火竜の前脚付け根を狙う。

 しかし、


「グオオオオ!!」


 火竜の目に光が戻る。

 意識が戻ったのだ。まだまだ使いこなせていないのだ。

 って、反省している場合じゃねぇ。


「おりゃあ!」


 螺旋槍を突き付けるも、その前に火竜の炎が右側の魔手羅を焼き尽くした。

 

 《火竜炎射》


 熱いなんてものじゃない。

 これと比べると、ゴブリンの火の玉なんざママごとみたいなもんだ。


 だが!


 まだだぜ。


 《粘水捕縛》!!

 

 残った魔手羅をスライム状に変化させて火竜の前脚に絡み付ける。

 伐士帯から短剣を引き抜く。

 光エネルギーを刀身に集め、長い光の剣を創り上げる。まるでラ○トセ○バーだ。


 《光剣》!!


 剣をヤツの傷痕へと突き刺す。

 火竜は凄まじい雄叫びを上げた。


 俺を振り落とそうと大空を暴れ回る。

 振り落とされまいと必死に粘る俺は、さらに光剣を深く突き刺した。


 火竜はまともに飛ぶ方法も忘れてしまったようだ。

 その高度をどんどん下げていく。


 《レベル奪取》!!


 苦しみ喘ぐ火竜の体から青い数字が大量に流れ込んで来た。

 体に力が溢れてくるのがわかる。


 しかし、喜んでもいられない。

 俺たちは雲の海を突き破り、下へ下へと墜落して行った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ