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「俺も戦います」

 火竜は荒々しく羽ばたきながら俺たちがいる馬車に近寄って来る。


「バカなッ! どうしてこんな地域に火竜がいるんだ!?」


 と、狼狽えた声を上げたのはドゥリ教官だった。

 その辺の事情はよく知らないが、火竜の登場は予期せぬ出来事だったらしい。それは窓の外の伐士たちの様子からも察せられた。


 数人の伐士たちが馬車と火竜の間に入り込む。奴ウ力で牽制しようとしている。


「おいっ! 下に逃げるぞ!!」


 ドゥリ教官が咄嗟に叫ぶ。窓を押し開き、下の様子を眺めている。


「なんで? 魔族の攻撃に耐えられるんじゃないの、この馬車?」

「火竜のは無理だ。いいから飛び降りろッ!!」


 ソーユーの疑問に苛立たしげに答える教官。

 その様子から、ただ事ではないと悟った俺たちは次々に窓から下へと飛び降りた。


 俺が飛び降り、最後にドゥリ教官が窓から身を投げた時だった。それまで俺たちがいた階が一気に炎に包まれた。間一髪だった。


 風奴ウで風のクッションを創り出して着地する。

 その横に火傷を負ったらしい伐士たちが落ちて来た。先程馬車と火竜の間に割って入っていた伐士だ。彼らが火竜の炎を少し抑えてくれたおかげで逃げ出す時間ができたみたいだ。でなければ今頃俺たちは丸焦げになっていただろう。


 俺たちがいた部屋から火柱があがっている。黒煙がモクモクと沸き起こり、まるで狼煙を上げているようだ。

 馬車を見上げていると、ズシンと重たい音が響く。そして黒煙を突き抜けて火竜の首が飛び出した。ヤツは炎に包まれた馬車の上に降り立ったのだ。


 火竜はその鋭い眼光で俺たちを見下ろす。


「グオオオオォォ……」


 嘲るような唸り声を上げる。

 また、炎を吐き出すつもりかもしれない。


 口を大きく開ける火竜。しかし、伐士たちがそうはさせまいと一斉に光の槍を投げつけた。


 火竜は羽を大きく拡げて飛び立った。狙いを外した無数の光の槍が空の彼方へと飛んで行く。

 飛び上がった火竜は、さらに空高くへと飛翔して行った。態勢を立て直すつもりかもしれない。


「一体どうなっているのです!?」


 近くでヒステリックに叫ぶ声が聞こえた。見ればセブンス夫人がガタガタと震えている。彼女に寄り添うようにしてエヴァ嬢が立っている。不安そうではあるがパニックは起こしていない。強い娘だ。


「火竜です。正直あの種が襲って来るとは予想外でした」


 伐士の1人がセブンス夫人の元に駆け寄った。


「一旦、右手の森に退避しましょう。すぐに援軍は駆け付けます」


 馬車前方では相変わらず他の魔族との戦闘が繰り広げられている。その様子を覆い隠すように土奴ウで土壁を築き上げられた。これで戦闘からセブンス夫人たちを隔絶する事ができた。後は火竜の襲撃から逃れる為に森に駆け込むだけだ。


 しかし、さらなるアクシデントが発生した。


「後方からも来やがった!」


 馬車の後ろにいた伐士が叫ぶ声と共に魔族たちの咆哮が聞こえる。


 レギドラたちだ。


 恐竜のラプトルのような姿をした奴らは、森へと逃げ込もうとしている俺たちに狙いを定めているらしい。一斉に突進して来た。


「早くッ! 走って下さい!」


 伐士の怒声と共にセブンス家とその使用人たちは森へと駆け出した。


「お前たちも早く行けッ!」


 ドゥリ教官が立ち止まる。自分はここでレギドラを迎え討つつもりらしい。

 見ればレギドラたちはすぐそこまで迫っている。後方の守りは先程の火竜強襲で崩れてしまっていた。


 どうする?


 このまま従って森に駆け込むのか?

 否、後方の伐士たちは怪我している者が多い。このままじゃ押し切られちまう。だったら一緒に戦った方がいい、援軍が来るまで。


「俺も戦います」

「あたしも」


 立ち止まったのは俺だけではなかった。ジーンキララも、そして驚いたことに、他のヤツらも俺たちの元に駆け寄ってきた。


「けっ! お前らだけいい格好させっかよ」


 ソーユーが伐士帯に手を掛けながら言った。


「アホッ! ここにいる連中は危険な種ばかりだし、なにより火竜もいるんだぞ!」


 予想通り顔を真っ赤にして怒鳴るドゥリ教官。

 まぁ、同情しますわ。まさか、ジーンキララだけでなく他のヤツらも戦うだなんてな。


「まぁ、手遅れですよ。ほら、来ます」


 教官は頭を抱えて唸った。


「はぁ、ギュロッセのヤツにドヤされちまうな……いいかお前ら、レギドラの毒には特に気をつけろ」


 それは心得ている。

 軍隊竜(レギドラ)はその名の通り連携した攻撃方法を得意とする。

 役割分担が3つあり、それに応じた体の特徴がある。


 敵への切り込みを行うタイプは、細長い鉤形の爪が特徴。

 敵を薙ぎ倒すタイプは、尻尾が太く、無数の棘が生えているのが特徴。

 そして中距離から援護するタイプは、エリマキトカゲのような薄い膜を顎の辺りに持ち、口のなかの毒腺と繋がっている。

 この毒腺から身体を麻痺させる毒を発射させるのだ。


 さて、一瞬でレギドラの生態のおさらいもしたところで、戦闘開始と行きますか!


 まずはドゥリ教官と数人の伐士たちが土奴ウで攻撃を仕掛ける。

 何体かのレギドラたちが土に覆い尽くされる。

 それでも土壁を乗り越えて来るヤツらがいた。切り込みタイプの鉤爪野郎だ。


 俺は一体に狙いを定めると、一気に間合いを詰めた。

 ご自慢の長い鉤爪も懐に入っちまえば使えまい。


 レギドラはすぐにその牙で嚙みつこうとしてきた。

 もちろんそんな事はさせない。

 軽く握り拳を作り、振り上げる。


 《打・衝》!!


 俺の拳がヤツの下顎にめり込む。


「グエッ」


 ヤツは呻き声と共にその場に崩れ落ちた。と、同時に俺はすぐに身構える。別のレギドラが迫っていた。今度のは薙ぎ倒すタイプだ。


 ソイツはすぐにそのトゲトゲとした尻尾を振るってきた。

 辛うじて避けるも、左肩を掠った。


 《レギドラ・テール》


 魔鬼理名が頭に響く。


 俺はすぐに態勢を立て直すと、短剣を引き抜き、ヤツの首を掻き切った。

 尻尾振った後に隙ができてるんだな、気をつけるべきだよ。もう死んでるけど。


 倒れゆく仲間の陰に隠れて迫っていたヤツがいた。

 ソイツはすぐさま俺に飛び掛って来たが、横合いから雷銃の先端が飛んで来て、ヤツの首に突き刺さる。衝撃で痙攣したあと倒れ伏した。


「大丈夫、アルゴン?」


 ジーンキララが腰の雷銃に手を当てながら側に寄って来た。さっき、助けてくれたのは彼女らしい。ま、1人で対処できたけどー。


「助かったよ、ジーンちゃん。もう、大好きっ!」

「うん、知ってる」


 平然と返された。


「雷銃が使えないのは不便だよねぇ」


 と、カウンターパンチ。

 まったく、嫌らしい魔人娘だ。


「これは、俺が電気アレルギーなだけだし。雷銃に触れると、蕁麻疹ができちゃうんだよ」


 決して電気が怖いわけじゃない……本当だよ?


 まぁ、戦闘中にそんか無駄話をしていていいわけがないよね。気がつけば、土壁の上に数体のレギドラの姿が、アレは援護タイプの毒吐き野郎だ。


 ソイツらは顎の辺りを震わせたかと思うと、無色透明の液体を俺たちに向けて吐き出した。

 毒だ。避けないと。

 しかし、その必要はなかった。


 後方から飛んで来た無数の光の槍が、毒液ごとレギドラを焼き払った。


「バカ野郎!いきなり接近戦を挑んでどうすんだ!?」


 ドゥリ教官の怒声が響く。


 あ、それは確かにそうだな。

 俺もジーンキララもつい近接で戦いを挑んでしまう。これは魔人の性かな。


「あっ!」


 誰かが短い叫びを上げた。

 そのすぐ後上空から轟音が響く。


 見上げれば真っ赤な巨体が降下して来ている。

 火竜だ。


 地上の俺たちに向けて炎を吐き出そうとしている。


 しかし、


「グオオオオッ!?」


 横合いから飛んで来た光の槍が火竜の胸辺りに直撃した。

 ヤツは再び飛翔していった。


 光の槍が飛んで来た方に目を向けると、大勢の伐士たちが空を飛んで来ていた。

 援軍の街道伐士隊が到着したのだ。

















 

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