表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

永遠に

作者: るしょう

新田 葉月さま発案の「君に捧ぐ愛の檻企画」参加作品です。

「さて、北柱くん。もう夏だけどそろそろ志望校は決まった?」

ショートカットの髪を暑そうに耳にかけて、担任は僕にそう笑いかけた。

廊下に一人一人呼び出しての二者面談。教室から漏れるざわめきに、少し迷惑そうに目をやりながら先生は僕の返事を待つ。

あぁ、めんどくさいな。

「そうですね、決まってますよ。決まってるはいるんですけど…ああ学校名ど忘れしました。ところで北橋夢美は志望校どこって言ってました?」

「北橋さん?彼女はたしか西高じゃなかったかしら」

「へぇ。あ、思い出しました思い出しました!僕も志望校は西高です」

そう言って僕はわざとらしく笑って見せる。

僕の笑みにつられて、先生もにっこりしてから急に真顔になって、

「西高だとあなたには学力的にもったいないんじゃないかしら」

「いえ、いいんです」

学力なんか関係ない。

僕の行く先は絶対夢美のいるところなんだから。



北橋夢美。

同じクラス。出席番号は僕のひとつ前。純粋無垢な天使みたいな子。

幼稚園。小学校。中学校。12年間同じクラス。席は絶対隣か前後。

こういうの世間一般に何て言うんだっけ。腐れ縁?

縁を腐らせてでも、僕は彼女のそばにいたいんだ。

ずっと、ずっと。

僕の世界には彼女だけでいい。

彼女の世界にも僕だけでいい。

檻を作ろう。鈍感な君が気がつかないくらい広い檻を。



もうちょっと真面目に考えてみてね、とかなんとか言う担任に適当に頭を下げて教室に戻る。

自分の席に戻ろうとして、ふと足が止まる。

あれ、誰か僕の席に座ってる。

それだけじゃない。それでずうずうしくも夢美と話している。

そいつが何か言うと夢美は笑顔で頷いた。そして今度は夢美が何か言って2人で笑う。

あいつ、名前なんて言ったっけ。

たしか…山田もみじ。同じクラスの女子だ。

僕はつかつかと自分の席に歩いて行って立ち止まった。自分の席を使われていることに、いかにも今気づきました風に軽く目を見開く。

山田はそんな僕に気づいて慌てて立ち上がった。

「あ、ごめん席借りてたー!じゃあ夢美ちゃん、またあとで話そうね!」

「うん!」

可愛く返事する夢美。愛おしい。

殺めたくなるほど愛らしい夢美に、僕は席に着きながら訪ねた。

「何か話してたの?」

「うん!ちょっと進路の話してたの。もみじちゃん、いっぱいおしゃべりしてくれて、すごくいい子だった!」

ふうん。

いい子、ね。

僕もあとで「もみじちゃん」とお話ししないといけないな。



放課後の校舎を僕はとん、とん、と一定のリズムで歩く。

1階へ向かうに従って暗くなる階段を下って、部活動をしているグランドの青春な雑音は無視して、僕はまっすぐ教材室に向かった。

教材室ってのは、画用紙とかテープとかが置いてある倉庫。ただでさえ狭いのに、物品を乱雑に詰め込んであるので余計狭く暗い。

教材室の扉は半分開いていた。

立ち止まって中を覗くと、山田もみじが何かを探している。こいつは確か広報委員だから、掲示物を作るのに画用紙か何かを選んでいるのだろう。

僕はできるだけ明るい声を作って

「やぁ」

と呼びかけた。山田は驚いたように顔を上げて僕を認めると、表情を緩めてどうしたのと尋ねた。

「ちょっと通りかかっただけさ。君は画用紙を探してるのかい?」

「うん。委員会の仕事。めんどくさいよねー」

山田の目がまた画用紙に向く。その隙に僕はさりげなく教材室に入ってドアを閉めた。

画用紙を選ぶ山田の隣に立って、手伝うようなふりをしながら、僕は本題に入る。

「さっき、夢美と話してたよね?」

「え?あぁ、さっきの時間の話か、話したよ?なんで?」

「それでどう思った?」

「え?」

山田が質問に驚いたようで手を止める。

「別にどうとも思わなかったよ?可愛くていい子だし、話してて楽しかったし…あ!もしかして北柱くん、夢美ちゃんがクラスに馴染めないのを気にしてるとか?それならこれからは夢美ちゃんの私が友達になるから大丈夫だよ!」

途中で勝手に納得して話を勧めてくれているが、まったく検討外れにもほどがある。

山田と向き合って、僕は一歩前に歩み出た。それに反応して奴は一歩退く。狭い教材室では追い詰めるのは簡単だ。

笑顔だった山田も、さすがに僕の表情に気がついたのか、真顔で僕を見上げた。

「北柱くん?」

「別に怖がらせる気はないよ。けど、忠告しておこうと思って」

笑顔笑顔。僕は笑顔を取り繕って言う。


「もう夢美と関わらないでくれる?」


「な、んで…?」

恐る恐るといった様子で山田が尋ねる。

なんでってそりゃ、夢美には僕以外必要ないからに決まってんだろ。けど多分言っただけじゃわかってもらえない。

僕は手を学ランのポケットに入れて、中を探った。そして、太めのカッターを取り出して、カチカチカチと弄びながら答えた。

「理由はそんなに必要?それで僕も君も平和に過ごせるなら、これくらい簡単なことじゃない?」

山田が怯えたように一歩下がろうとするが、背後はもう壁だ。逃れられない。

僕は重ねて言う。

「いい?もう夢美に関わらないでね?」

山田はカッターと僕の表情を見比べて、ガクガクと頷いた。

念のため、もう一押ししておくか。

僕は山田の右腕を壁に押し付けて、所謂壁ドンの形に持って行って、カッターの刃を出す。

恐怖心からか身動きすらしない山田の右手首にすっと刃を滑らせた。

ミミズ腫れが一筋残る。

「いい?絶対関わっちゃだめだし、このことを夢美や他の人に言ってもだめだからね?言ったら…こんな皮1枚切るだけじゃすまないから」

目を見開いたまま、山田の喉がコクッと動く。そして、大きく頷いた。

これでおっけー。

僕は、山田を解放してカッターをポケットにしまうと、軽く手を振った。

「じゃあね。邪魔してごめんね。委員会がんばって!」

怯えた表情で立ちすくむ彼女を残して、僕は4階へと急ぐ。




第3音楽室の向こうの、校舎の一番隅の階段の4階踊り場。

人が通らないこの場所は、夢美のお気に入りだ。

ほら、今日もやっぱりいるじゃないか。

階段の一番上に腰掛けて、正面の窓から外の部活を眺めている。華奢なセーラー服の背中に、僕の心が落ち着きなくおどる。

ちなみに、僕と夢美は部活をやっていない。

僕はめんどくさいからだし、夢美は彼女曰く「私が部活に入ると、みんな辞めていくの」らしい。その理由については悪しからず。

そんなこんなで、夢美はよくここから羨ましそうに部活を眺めているのだ。

その横には必ず僕がいる。


「夢美」

後ろから声をかけると、夢美は可愛いツインテールの髪を揺らして、嬉しそうに振り返った。

「きぃくん遅いよー!来ないかと思った」

「ごめんごめん。ちょっと山田さんと話してて」

「もみじちゃん?」

その名前に、夢美は予想以上に食いついた。

「ねぇきぃくん。もしかしたら、ほんとにほんとにもしかしたら、私、もみじちゃんとお友達になれるかもしれないの」

「ふうん」

はしゃぐ夢美は可愛いけど、山田と友達にするわけにはいかないんだ。

夢美には、僕以外必要ないはずなんだ。

「けど、彼女、今夢美の悪口言ってたよ?話しても楽しくないし、2度と話したくないって」

しれっとデマカセを言うと、夢美は簡単に信じた。大きな瞳をもっと見開いて、泣きそうに僕をみる。

「ほんとに?!なんで?!私にはそんなこと言わなかったのに!」

「心の底ではひどいこと考えてたんだよ。嫌な女だね」

「うん…。そっか…やっぱり私には友達はできないんだなぁ…」

がっくりと肩を落とした夢美の隣に座って、僕は彼女の頭をなでた。

そのまま、肩を抱いて耳元にささやく。

「大丈夫、僕がいるよ」

「ありがとう。きぃくんは優しいね」

夢美が悲しそうに笑う。

そして、不安そうに僕の学ランの胸を握りしめて目をふせた。

「ねぇきぃくん。きぃくんは、私を裏切らないでね」

「裏切らないよ、約束する」

「離れないでね」

「約束する。僕は絶対夢美のそばにいるよ」

絶対。僕だけは夢美のそばにいる。

否、僕だけが夢美のそばにいる。


永遠にね。


「あ、もみじちゃん!」

音楽室の方に目をやった夢美が、小さく叫ぶ。音楽室の向こうを、山田が木琴を押して通るのが見えた。

あぁしまった。山田もみじは吹奏楽部だったか。ほんと邪魔ばっかりしてくる女だ。

「夢美、そんなことよりさ」

興味を削ごうと、肩を抱き直して夢美に優しく話しかける。

が、夢美は僕の腕の中からしなやかに抜け出して、立ち上がった。

「これが最後のチャンスな気がするの!私が何かしてもみじちゃんに嫌われたなら謝って許してもらいたいし、そうでないなら誤解を解いて仲良くしてもらいたい。きぃくん、私行ってくるね!」

「夢美、話す必要なんかないよ。無理にあの子と仲良くしなくてもいいじゃないか。僕がいるだろ?」

腕をのばして、夢美の手をつかむ。

夢美は、残酷なほど可愛く幸せそうに笑った。


「きぃくんじゃだめなの。私、やっぱり女の子の友達がほしいよ」


そして、僕の腕を払って廊下を駆け出した。

宙をつかんだ僕の手は虚しく落ちる。

振りほどかれた手。

夢美に選ばれなかったこんな手、必要ないや。

学ランのポケットから出したカッターを振り上げて、勢いよく手のこうに突き立てる。

そして、そのままの格好で立ち上がって夢美が駆けて行った方を見やった。


もしも夢美が僕以外を望むなら、その時は夢美自身を…。

そうだ、最初からそうすればよかったんだ。

周りを排除したって、無邪気で好奇心旺盛な可愛い夢美は、どうしても周囲に興味を持ってしまう。

なら、僕と夢美しかいない世界に2人で行けばいい。


手からカッターを引き抜いて、ぎゅっと握りしめた。

待っててね、夢美。

もうすぐ幸せにしてあげる。


僕は絶対君から離れないよ。



「僕」の描写が異常なまでに少ないのは、お好みの少年でヤンデレを楽しんでもらおうと思ったからです。

楽しんでいただけると嬉しいです。

ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ご参加下さり、ありがとうございます! 》僕は山田の右腕を壁に押し付けて、所謂壁ドンの形に持って行って、 こ、こんな壁ドンは嫌ですね…(汗) 逃げてえええ! 夢美ちゃん、逃げてっ! 思わず…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ