序章 -last-
ファンタジーだと思ったの? 残念、SFでした!
どうも、みなさん。三好明彦です。
今後に関しての注意事項を喚起させて頂きます。
俺は今、聖鍵を通して各兵器の情報を理解してしまっているため、自己完結して説明不足になる可能性があります。
もし何かわからないことがあったら、マザーシップにメールアドレスを設けておきますので、そちらまでお送りください。
説明の必要性を感じたら、後々フォローをさせて頂きます。
うむ。
俺は一体何をやっているんだろう。
さて。気を取り直して。
何から話していいものか。
そうだな、まずはマザーシップについて説明する必要があるだろう。
その名のとおり、マザーシップは母艦だ。
アースフィア衛星軌道――座標は、別に言わなくてもいいか。
とにかく大気圏を超えた先、宇宙に浮かんでいる。
衛星軌道ということは、当然、アースフィアは惑星である。
第19304宇宙惑星、エグザイル。
それがマザーシップに登録されていた、アースフィアの名称である。
マザーシップには、各種兵装が搭載されている。
主砲ホワイト・レイ1門、副砲122門、対空砲2416門。
周囲の隕石やデブリを取り込んで打ち出すマスドライバーカタパルト砲1門。
エネルギーシールド発生装置は万を超える。
搭載兵器。宇宙戦闘機160機、万能攻撃機32機、多脚バトルポッド16機、大気圏突入及び離脱能力を持つ戦略爆撃機8機、キャンプシップ4機。すべて無人有人操縦に対応。
現時点でこれがすべてだが、ペイロードには余裕があるため必要に応じて改造、改装は可能だ。
内部施設。
ブリッジには、艦長席があるのみ。ここの台座に聖鍵をセットすることでマザーシップを自分の手足のように扱える。ここからは、アースフィアの美しい球状を展望できる。広さは充分に確保されているので、ブリッジクルーを迎え入れることも可能になっている。
生産プラント。農業、工業などの各種生産施設。現在は稼働していない。これも拡張可能。
居住区画。各種船室もあるが、街をまるまる納められるようなスペースもある。これは必要に応じて建造する仕様だ。
動力部。各所に縮退炉が8基あり、通常稼働については2基を稼働させれば充分なエネルギーを賄える。
中枢部。巨大なミラーボール球体が浮かんでいる部屋。マザーシップの情報管制を一手に担う、唯一替えの効かない施設。ルナベースと時空オンライン直結しており、月で蓄積されたすべての情報は、ここを通してやりとりできる。ルナベース……については今度説明する。なんとなく伝わったとは思うけど。
これらの区画の移動はすべてテレポーターを使うが、聖鍵を持つ俺はこれを使わなくても施設内を自在に瞬間移動できる。
マザーシップには各種ボットが無数に配備されているが、有機生命体はただの一つも存在しない。俺がいるときを除いては。
まだ説明してない部分もあるけど、概略だけで充分だと思う。
もちろん、これらの兵装・施設はマスターキーを持つ俺だけが操作できる。ゲスト権限を与えれば他人にも一部解放できるが、今のところ必要ないだろう。
尚、これだけ規格外なマザーシップだが、聖鍵から起動できる最強の兵器というわけでは全然ない。あくまでアースフィアの一番近くにある橋頭堡という位置づけだ。
超宇宙文明とやらが、なんでこんなものをアースフィアに派遣しているのか、聖鍵のマニュアルにはなかった。
必要ないのか、ブラックボックス化されているのかは、まだ何とも言えない。
いったいどういう運命の導きで、聖鍵が俺の手に入り、俺だけに扱えるのか。
こんな当たり前の疑問についてすら、何の説明もない。
確実に言えるのは、これらはあくまで道具であり、兵器であるという点だ。
使い方次第で、俺は文字通り神として君臨することもできる。
気が向けば、アースフィアを完全に破壊してしまうことさえ朝飯前だ。
恐ろしい。核ミサイルのスイッチを、ポケットの中で口笛混じりに弄り回している状態と言っていい。
俺が命令しない限り、自動防衛システムの発動を除いて、兵器が暴走したりすることは、ほぼない。
すべての責任は、聖鍵を持つ俺に集約している。
決して、思いつきなどで、みだりに使ってはいけないモノだ。
今のところ、魔王を倒す以外の目的でアースフィアに干渉しようという気はないんだが。
正直、俺の気が変わらないことを願うばかりだ。
「アキヒコ様! アキヒコ様!」
む。艦内のマイクがリオミの声を拾ったようだ。
範囲転送先はデフォルトの設定で俺がブリッジ、他の有機生命体がだだっぴろいだけの倉庫区画となっている。
いかんいかん、すぐに行ってあげなくては。
「もう大丈夫だ、リオミ」
瞬間移動は便利だ。
護衛兵たちを驚かせてしまったが、リオミは俺の姿を認めると一目散に飛んできた。
……え?
「ぐっはあ!」
リオミは俺に抱きついて、そのまま床に押し倒した。
「よかった……! アキヒコ様、よくご無事で!!」
いててて。こんなことなら重力装置は切っておくんだった。
役得の筈なんだけど、リオミはちょっと激しすぎる。
ひとしきり感動の再会を済ませた後、みんなをブリッジに集める。
「これが聖鍵のちからだ」
説明を求めるリオミたちに、一言で用件を済ませる。
ファンタジー世界の住人である彼らに、聖鍵の機能を理解できるとは思えなかったからだ。
クレーター付近で「逃げおったな!」とか叫んでいる巨人の映像を見せて、ヤツから逃げおおせた事も端的に伝えた。
「それにしても、窓の外の光景は一体なんなのですか? 夜空の中にひとつだけ、大きくて蒼い……とてもきれい。あれは……」
「アースフィアだよ。キミたちが住まう大地だ」
「大地が丸い!? 馬鹿な……有り得ん! それでは我々はどのように立っているというのだ!!」
護衛兵が叫ぶ。アースフィアは天動説のほうを信じているのか。ガリレオはまだ現れていないんだな。
まあ、信じるかどうかは各個人に任せよう。
リオミあたりは俺の言葉っていうだけで、無条件で信じてくれちゃってるし。
将来、悪い男に騙されないか心配だ。
「わたしたちは帰れるのですか?」
「うん。聖鍵を使えばいつでもお城に帰れるよ。安心していい」
「なんというか、わたし……もう、言葉がうまくでてきません。アキヒコ様、凄すぎます」
「凄いのは聖鍵であって俺じゃないのが悲しいところだけど」
「いえいえ、そんなことありません! 聖鍵をこんなふうに使いこなしてるんですから。それで……これから、どうするのですか?」
「うーん」
アイツから逃げる事だけ考えてたからな。
どうするかとか、まだ全然考えてなかった。
俺の役目からすると、この兵器を使って魔王を倒しにいくべきなんだろうけど。
多分、赤子の手を捻るより簡単だよな。
魔王軍にどれだけの戦力があっても、聖鍵が用意できる無尽蔵の兵器群を相手にできるとは到底考えられない。
無限の戦力をもち、疲れを知らない機械相手だ。魔王軍に限らず、アースフィアのいかなる国家であっても勝てるわけがない。勝負にもならないだろう。
……いや、魔王を倒すだけなら、そこまでしなくても簡単な方法があるんだ。
このマザーシップの主砲……ホワイト・レイは、魔王城を含む周辺地域をまるごと地上から消し去るだけのスペックがある。
ちょっとした小島ぐらいなら、地図から削除する程度、造作も無い。
クレーターの時には遠隔起動でクロ○ダイン枠に発射することを考えた。
聖鍵経由でシミュレーション映像が脳内に流されたのだが、まあ察しろ。
ふーむ。ここはリオミの好きなアレで占ってみるか?
「リオミ、予言詩を唄ってくれないか?」
もちろん笑顔で唄ってくれた。
歌声に聞き惚れる。方針が決まった。
「魔王城の付近に、人間が住んでいる場所があったり、人質にとられている人とかはいないか?」
「あの地は闇の瘴気が濃くて、人間が入り込んだら五秒ともちません。誰も決して近づかないよう厳命してあります」
「よし……だったら今から魔王城を消し飛ばす!」
「「「「「ええええええええええ!?」」」」」
俺は艦長席のスリットに聖鍵をぶっ刺した。
――聖鍵、起動。
「主砲チャージ開始。目標、魔王城!」
「何が始まるんです!?」
「大惨事大戦だ!」
――エネルギー充填完了。縮退炉、正常に稼働中。いつでもいける!
「『蒼き星よりきたるもの。闇よりいでし魔王を消し去る。魔を極めし王女が導き現れる。その名をアキヒコ。天からの贈り物、聖なる鍵で光を降らす』」
正しき意味に置き換えて、予言詩を反芻する。
予言詩が口伝ゆえに、俺は聖剣なんぞに期待してしまったのだ。
唯一、未達成の一節に従う。
「三好明彦の名の下、今ここに! 聖なる鍵で光を降らす! ホワイト・レイ――発射!」
マザーシップの下部、主砲発射口から宇宙の漆黒を開闢する一閃が奔り、アースフィアに向けて吸い込まれていく。
ホワイト・レイの白き輝きは大気圏で減衰する事なく、魔王城に降り注いだ。
34秒間のレーザー照射。後に聞くと、アースフィア各地で光の柱が観測されたという。
こうして。
アースフィアを支配せんとする魔王軍に対し、聖鍵指揮下にあるSF兵器を駆使した俺の戦いとやらは、始まってから15分で終結。
魔王は城と周辺半径3kmの大地もろとも、世界から姿を消した。