序章4
俺は王道的な展開で異世界に召喚され、聖剣を抜く勇者としてアースフィアに降り立った。
おっかなびっくり聖剣を抜いて、それでもって隠された力か何かに覚醒して、この世界を救う展開になるのだと思っていた。
結論から言う。それは間違いだった。
まず、予言では聖剣と呼ばれているこの剣だが……いや、剣と呼ぶにはちょっと問題があるか。
確かに形は剣だ。
だが、刃がない。
最初からこの剣は、何かを斬るために造られたものではない。
形状も異様だ。刃に相当する部分は鋼やらオリハルコンではなく……こう、なんていうんだ。メタリックな機械みたいと言えばいいのだろうか。ところどころに細長い溝があり、溝によって色が違う。
流石に空から落下しても破損ひとつないだけあって、とても頑丈な素材が使われているようだ。何で造られているかというのも、実はもうわかっているのだが。今は省こう。
重要なのはそこじゃない。
今大事なのは、ク○コダイン枠を戦闘で圧倒できるような超絶なパゥワーの有無だ。
可能であれば、勇者に相応しいだけの力を与えてくれる超常的な……そう、魔法的なアーティファクトが必要だったんだ。
だが、期待は裏切られた。
聖剣そのものに、武器としての特別な力はない。
これは武器ではないのだ。
これでは、この聖剣では、戦えないのだ……。
「どうした、勇者。構えよ」
いつまでも呆けている俺に、訝しげな視線を送ってくる。
いや、あいつも気づいたのか? 明らかに斬れるようには見えないもんな。
すぐに掛かっては来ないだろうが、このまま構えないでいても、痺れを切らして戟を振りかざしてくるだろう。先ほどとは状況が違う。こちらはもう、聖剣を手にとってしまっている。
どうする。どうするよ俺。
「……アキヒコ様」
リオミだ。
彼女は祈るように手を合わせてくれている。
俺が状況を打開できると、信じている。
「……!」
そうだ。呆けている場合じゃないぞ、三好明彦!
聖剣で戦えない。これは武器じゃない。
俺をパワーアップさせてくれるようなアイテムではない。
だからといって、方法はないのか?
いや……ある。
これは武器ではないが……兵器だ。
「大丈夫だ、リオミ」
先ほど聖剣に触れたとき、膨大な情報が俺の脳に入力された。
様々な情報があったが、要するにあれは聖剣のマニュアルだ。
この聖剣がどのような機能をもつのか、どんな事ができるか。
そういった使い方が遺伝子レベルで俺にインプットされた。
その気になれば、今すぐヤツをケシズミにできる。
だが、それはまずいのだ。
リオミやクレーターの上で状況を見守るしか無い護衛兵たち、そして……王都の人々すべてを、巻き込んでしまう。
だから、その方法はダメだ。
「待たせたな」
俺は聖剣を構えた。時代劇の将軍様の見よう見まねだ。
クロ○ダイン枠も、それに応えるように戟を構える。
やはり冷静なままだ。すぐに打ちかかっては来ない。ヤツも、未知の聖剣を多少なりとも警戒している。
武人だからこそ。戦士なればこそ。
剣の機能を持たない聖剣を、侮らない。
考えるんだ。
この状況を打開する方法を。
さっきとは違う。聖剣の使い方はわかっている。
リオミたちを殺させず、俺も殺されない方法。
ヤツに勝つ方法ではない。
この場を犠牲なく乗り切る策だ。
「俺がこの聖剣の刃を返す時……お前が俺を見る、最後の瞬間となる」
ヤツが俺の言葉に目を見張る。
よし、これで俺がタイミングを主導できる。
この方法しかない、というわけじゃないが……現時点で思いつく限りでは、これが最良のように思えた。
ここにいる全員が攻撃にさらされる事なく、逃げ切る方法。
「…………」
選択した。
もう、迷いはない。
俺は刃を返した。
「随分と囀ってくれるものだな、小僧……!」
来た。
巨人は一瞬で間合いを詰めてきた。
奴の体躯を考えれば距離などあってないようなもの。
だが、俺に焦りはない。余裕で間に合う。
――起動。
聖剣の溝が各々に発色し、輝きを増す。
「あばよ、クロコダイ○!」
ヤツは驚愕の叫びをあげたようだが、それが最後まで聞こえる事はない!
範囲はクレーターの周辺を含めた半径50m圏内。
対象はクロコ○イン枠を除いた生命体すべて。リオミと護衛兵士たち。あとついでに馬車!
範囲指定、瞬間転送……!!
転送先――アースフィア衛星軌道――マザーシップ……!
「こいつは……この聖剣の正体はッ!
アースフィア宙域周辺に遺された超宇宙文明の兵器の数々を統制する……マスターキー!
俺の武器は聖剣そのものではなくッ!
《聖鍵》によって操作・指揮・管制する兵器群に他ならないッ!!
ファンタジーの異世界召喚だと思いきや、とんだ番狂わせだぜ」
転送先のマザーシップのブリッジで、俺は不敵に笑った。
そう、ここから本当の意味で始まるのだ。
アースフィアを支配せんとする魔王軍に対し。
俺の……聖鍵指揮下にあるSF兵器を駆使した戦いが。
ようやくここでスタート地点といった感じです。




