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機械仕掛けの聖剣使い  作者: epina
Episode01 Sword Saint Aram
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Vol.14

 逃げるように出てきてしまったが、アラムに会いに行くと思うと、ちょっと気が重い。アラムの意識が戻るルナベースの予測時間は、少し過ぎてしまっている。まさか暴れたりはしていないと思うが。


 アラムにはひととおりの治療を受けさせ、ベッドに寝かせてある。その際に鎧や衣服を脱がせる必要があったが、もちろんメディカルボットにやらせた。断じて、覗いたりといった変態的行為には及んでいない。俺にはアリバイがある。俺はずっと、リオミとディーラちゃんと一緒にいた。監視カメラと聖鍵を同期して、珠のお肌を観察するなんてことはしてない。筋肉はしっかりついてるのに、綺麗で靭やかそうだなんて、思ったりもしてない。鎧で着痩せしてたけど、結構胸が大きいんだななんて、考えたこともない。


 いや。

 違うんだ。

 事故だったんだ。

 たまたま定時報告のタイミングが悪かっただけなんだ。


 わざとじゃないんだ。

 俺はやってない。

 それでも俺はやってない。


「アラム、入るぞ」


 一応一声かけてから、メディカルルームへ入室する。

 俺を認証した自動扉が開くとアラムが襲いかかってくる……なんてことはもちろんなく。

 彼女はベッドの上で半身を起こして、ぼーっとしていた。患者用の白服を羽織っている。


「やはりアキヒコ……か」


 俺の姿を認めたアラムは、俺を見るでもなく言った。


「やはりって?」

「歩いてくる気配を感じた。歩幅と足音から、間違いないだろうと思って起きた」


 ひえー。

 やっぱりアラムは只者じゃない。今更驚いたりはしないが。


「少しは頭が冷えたか?」

「ああ……すまなかった」


 アラムは素直に頭を下げた。

 そして、噛み締めるように呟いた。


「私は、負けたのだな」


 かける言葉が見つからない。

 俺がアラムに勝てたのは、所詮は装備の力。独力ではない。しかも、アラム本人のバトルアライメントチップありきだ。

 そういった意味で「剣聖アラムが敗北した」とは言えない気がする。だからといって、彼女にかけるべき正しい言葉とも思えなかった。

 だから、


「ああ、お前の負けだ」


 と、彼女の言葉を肯定した。


「あれが魔王を倒した勇者の力、か。

 一日と待たずに魔王を討伐したと聞いたときは耳を疑ったが、いろいろと納得できた」

「そうか」

「…………」

「…………」


 む、会話が途切れてしまった。

 俺から振ったほうがいいか。聞きたかったこともある。


「なあ、アラム。今度こそ、教えてもらってもいいよな? お前が、俺を憎んでいた理由を」


 もちろん、だいたい察しはついてる。だけど、アラムの意志で俺に言うことが大事だと思う。


「……わかった」


 アラムも、ここに来て言い淀んだりはしなかった。


「私の両親は、冒険者だった。

 有名なパーティで、私は祖母の家に預けられていたが、一ヶ月に一度は必ず帰ってきてくれた。

 優しく、強く。私にとって父と母は憧れだった。だが……」


 アラムが言葉を詰まらせる。


「無理しなくていいんだぞ」

「いや、貴方には聞いて欲しい」

「……続けてくれ」

「……15年前。魔王の侵攻により、諸国が最も危機に瀕していた時期のことだ。

 父ディアスは、新しく在位した王の命でタート=ロードニア王国に招聘され、魔王討伐の任を帯びた」


 15年前ということは、リオミがまだ2歳の頃。王様も、その時期に今の地位についたのか。

 それにしても……。


「魔王討伐って……予言はどうなるんだよ」

「もちろん伝わっていたが、あの頃は聖剣教団の力もそれほど強くなかった。

 なにより、予言の成就が何年先になるのかもわからないのに、ただやられっぱなしというわけにはいかないだろう」


 言われてみれば、もっともな話だ。魔王は約100年前から存在し、未だに予言の勇者は現れない。

 むしろ、15年前の討伐令以前にも、何かしら試みられていても不思議ではない。


「とにかく、父と母はともに魔王討伐に向かい……そして、帰って来なかった。

 そのときの生き残りが、オーキンスさんだ」


 あのギルド長にも、そんな過去が。人は見かけによらないっていうか、ギルド長やってるだけあって本当に凄い人だったのか。


「父と母が死んだ後、祖母も亡くなった。

 私はオーキンスさんの世話になって天涯孤独とはならなかったが、両親の仇を取りたい気持ちはどんどん強くなっていった」

「それで剣聖……か」

「世界で一番強くなれば、魔王を倒せる。そんな子供じみた夢を、今まで見てきたんだ。笑ってくれ」


 笑えない。

 そんなの、全然笑えない。


「先代の剣聖アラムから修行を積めるようになるまでもいろいろあったが、絶対にやり遂げると決めていた。

 私はほどなく先代のもとで修行を積み……免許皆伝となった。

 そして、剣聖アラムの、称号を、継ぐために。

 先代を、斬ったんだ」


 一言一言、噛み締めるように。

 その意味を自分の中で反芻するように。

 まるで、懺悔。


「……そうか」

「すぐに魔王の元へは向かわなかった。

 その頃にはリオミ王女が予言成就のための宣言をし、聖剣教団の指導のもと、魔王討伐の動きは各国はもちろん個人にも戒められていたからな。

 私は、予言の日を待った。

 そして貴方が召喚される当日。

 オーキンスさんのギルド支部で、勇者が仲間を求めてやってくるのを、待ったんだ」

「だけど、俺は現れなかった」

「……ああ」


 恨まれても仕方ない。

 15年の努力のすべてを水泡に帰されたのだ。

 星の巡り合わせが悪かったとしかいいようがない。


 だけど。

 俺は素朴な疑問を抱いて、それをアラムにぶつけた。


「なあ、アラム」

「何だ?」

「どうして、勇者が召喚される日までわかっていたのに……召喚の場で待たなかったんだ?」

「…………」

「剣聖アラムの称号さえあれば、リオミにあらかじめ頼んで、俺に同行するのは全然問題なかったはずだ」

「…………」

「もし、それがダメだったとしても、俺が『聖剣』を抜きに行くことはわかっていたはずだ。

 『聖剣』の落ちた地で待っていれば……」


 俺も、八鬼侯相手にいらぬ知恵を絞らずとも良かった。

 剣聖アラムは颯爽と勇者の危機を救う。

 そういうシーンになったはずだ。


「……意地だ」

「え?」

「私の意地だ。ロードニアに頭を下げるのだけは……嫌だと。そんなくだらない理由だよ」


 ……そうか。

 15年前に両親に魔王討伐の命令を出したタート=ロードニア。リオミは関係ないと頭ではわかっていても、彼女の矜持が最善の行動を禁じたわけか。それが彼女の運命を変えてしまった。

 どこまでも皮肉な話だ。


「……やっぱり、アラムは俺と似てるところがあるな」

「は?」

「俺も、そういうところがあるからさ」


 聖鍵の力を全開にすることを、俺は心のどこかで恐れている。自分の力で頑張れる部分は頑張るんだと、制限をかけている。

 もちろん、それだけじゃない。


「俺は全力を尽くしたり、努力を継続したりして積み上げた連中を……どこか胡乱な目で見ちゃうんだよ。

 俺自身、何も積み上げてないからな。

 勇者だなんて言われてるけど、全部聖鍵の力のおかげなんだよ」


 求めて、失って、努力が足りないと認められない。

 全力を尽くしていないことを、他人に責任転嫁する。

 自分は悪くないと、運が悪かったからだと己を騙し続ける。


「その点、アラムやリオミは立派だよ。本当に、そう思う。聖鍵におんぶにだっこの俺とは……違う」


 リオミは努力して、やり遂げて。本当にすごいと思う。いつ見ても眩しい。

 リオミが両親と再会するとき俺が逃げ出してしまったのも、自分の惨めさから目を背けるためだった。


 アラムは……もちろん、努力が中途半端だった俺とは違うだろう。

 似ていると言ったが、彼女は彼女なりの全力を尽くしている。

 だが、俺と同じような喪失や空回りを経験している。


「未熟が故の我が身の不徳、どうか許してくれ」


 そう言って顔を上げたアラムを見た時、鏡を見ている気分になった。


 剣聖と呼ばれた女性と自分を同一視するなんて、どうかしてるとは思うが。

 アラムはリオミより、俺に近い。そう感じる。

 彼女にとっては、迷惑な話だろうが……。


「……私は貴方ではなく、聖鍵に負けたにすぎないと?」

「え?」

「ふむ。その顔、どうやら本気で言っているようだな」


 はあ、と。呆れた顔で嘆息するアラム。


「……まあいい。道具に使われているうちは、そんな風に考えることもあるだろう」


 それきり、アラムはこの話を打ち切った。


「ともあれ、貴方は私に勝った。黒星がついた以上、私はもはや剣聖アラムを名乗れない。

 以後は、貴方が6代目剣聖アラムを名乗るといい。アキヒコ」

「えーっと……」

「伝統に則り、白閃峰剣を授けるところだが……」

「あ」


 そうだ。

 あのときは夢中でアラムの武器を原子分解してしまったが、あの武器は初代から受け継がれる剣聖アラムの佩剣だったのだ。まずったなあ。

 だが、アラムは剣は大した問題ではないとばかりに首を振る。


「なくなってしまったものは、仕方がない。

 貴方には聖鍵があるのだし、その武器でも私の命を断つことはできるだろう」


 ん?

 ……今、なんて言った?


 アラムは決意を秘めた瞳で、俺を射抜いた。


「私を斬れ、アキヒコ。それでお前は剣聖だ」


 何を……言ってる?

 アラムは、何を言っているんだ?


 絶句する俺に構わず、アラムはさらに続けた。


「剣聖アラムが決闘に賭けるものは、己が命と称号。一切の例外はない。

 剣聖の名を引き継ぐということは、先代の屍を踏み越えるということだ」


 アラムがわけのわからない言葉を口にしている。

 俺には意味不明だ。かーっと、頭に血が上ってくるのを感じる。


「そんなのは駄目だ!」


 口からついて出た言葉は、半ば条件反射。

 アラムは目を細め、即刻反論してくる。


「では、私を延命すると? それは私に対してはこの上無い侮辱だ。

 決闘で負けた以上、自決さえ許されない。恥を偲んで、目的もなく生きろと、貴方は言うのか?」

「うるさい! 言ったはずだぞ。『俺』が勝ったら俺に従うと。あの約束、違えるつもりか?」

「約束に是と応えた覚えはない!」

「ふざけるな! それなら俺だって、剣聖の伝統なんてものを後から聞かされて、従えるかっていうんだ!

 俺は剣聖の称号が欲しくて、お前との勝負を受けたんじゃない!!」


 睨み合う。

 これは、ここだけは譲る訳にはいかない。

 アラムがこんな形で死ぬなんて、俺に殺されるなんて結末があっていいはずない!


「白閃峰剣だって、もうない! 剣聖の称号を受け継ぐメリットなんて、もうないはずだろ。

 そんなものをもらうために、アラムの命を奪うなんて全然、釣り合っちゃいないじゃないか!」

「何……!? 白閃峰剣がなければメリットがない、だと……!

 貴様、言うに事欠いて! 剣聖アラムという名の重みが何一つわかっちゃいない!」

「当たり前だ! 俺はこの世界に来て、まだ一週間も経ってないんだぞ!

 女の子ひとり殺してわけの分からない称号を継がされるなんて、絶対にゴメンだ!」

「これだけ言ってもか……!」

「ああ、俺は絶対に剣聖アラムの称号を継がない。アラムのことも殺さない。

 もしそれがお前にとって侮辱だって言うなら……俺を恨め!

 お前を地べたに這いつくばらせた勇者を、生き恥を晒させたアキヒコという男を、骨の髄まで恨み尽くせ!

 俺はどれだけ憎まれたって構わない。それで、お前の命が助かるっていうならな!」


 アラムは驚愕に目を見開き、言葉を失っていた。

 俺の言葉は止まらない。


「だいたい、お前がちゃんとしてれば俺だって魔王を速攻で倒そうなんて思わなかった!

 城でもクレーターでもいい、俺が最初に聖鍵の力を使う前にお前が登場していたら! お前の話を聞いていたら! お前といっしょに、魔王城に乗り込んでやったさ! 冒険者ギルドで待ってただ? ふざけんな! これまで努力してきた癖に、最後の最後で手を抜きやがって! そういうところをな、ちゃんと神様は見てるんだよ! チャンスが目の前に来てる時、ちょっと躊躇っただけで、同じような機会は一生訪れないことだってあるんだ! 人生ってよ、そういうもんなんだよ。俺には、俺にはそれが……」


 体から力が抜けていく。立っているのが辛い。

 この話は、絶対にしないって決めてあった。


 その誓いを、破る。


 アラムの甘さを、気を抜いた迂闊さを、糾弾する。


「俺にはそれが、許せない。

 中途半端なヤツが辿りつけないのは当たり前だ。そんなのは自業自得だからな。だけど、お前みたいに頑張ってきた奴が……最後に報われるのがハッピーエンドってもんじゃないのかよ。なのに怒りに任せて俺に意味のない決闘を吹っ掛けて、その挙句に負けたから死ぬだと? そんなバッドエンド、俺は認めないぞ! お前は絶対にこの後に報われて、もっといい人生が待ってなきゃ、嘘なんだよ!

 だから、歯ぁ食いしばって生きろ! キリギリスと違うってところを俺に見せろよ!」


 最後のほうは自分でも何を言っているのかわからない。支離滅裂だった。

 アラムは黙って俺の罵倒を聞いていたが、言葉の嵐が収まったところで一言だけ。

 

「どうして、貴方は、そこまで……」


 俺は最後まで聞くことなく、部屋から出て行った。

 怒りのあまり、思考が働かない。

 こういうときは、頭を冷やさないとまずい。


 俺はわけがわからなくなると、()()

 

 ――聖鍵、起動。


 マザーシップ中枢区に跳んだところで、俺は意識を失った。

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