Vol.13
俺は、聖鍵の調査能力を過信していたかもしれない。
ディーラちゃんをレッドドラゴンと間違えていたこと。
白閃峰剣の特性を知らずにアラムと戦ってしまったこと。
いずれも、俺がもっとよく調べていれば事前に対策を立てられたはずだ。
要するに、現代のインターネットと同じなのだ。
興味のある情報しか調べられない。
複数のソースで確認しなければ、見落としに気づけない。
俺は、衛星写真で確認した影がドラゴンだとわかったとき「赤い ドラゴン」と検索してしまった。検索トップに躍り出たのはルビードラゴンではなく、レッドドラゴン。その時点で、俺はディーラちゃんがレッドドラゴンだと決めつけてしまったのである。
それはまだ、大した間違いじゃないから良かった。
だけど、アラムの白閃峰剣の見落としはまずい。
俺がシミュレーションで戦っていたアラムは、バトルアライメントチップに使われていたデータだ。戦闘経験の蓄積であるチップには、本物が所有している武器のことまでは含まれない。
俺はこの時点で、アラムが特殊な武器を所持している可能性を失念した。
剣聖アラムに代々伝えられる剣であるなら、事前に調べる機会もあったし、一度俺は白閃峰剣をこの目で見ておきながら、検索を面倒がってスルーしてしまっている。ドラゴンと戦う前なら、アラム本人やリオミに聞いておくだけでも知る機会はあったのだ。
ルナベースのデータは極めて正確だが、俺が使いこなせるかどうかは別。それが浮き彫りになった。
あらゆるデータを検索して知ることができるのは強みだが、わかったつもりになるのは危険だ。図書館を背負って歩いても、自分の頭がよくなるわけじゃない。
「結局、まるでダメって話だな」
そんなことは今更確認するまでもないので、ショックはない。
だけど、改善点を放置するのは論外だ。この件に関しては、ルナベースにも状況を報告し、プランを練ってもらう。無論、自分でも対策を考えたり、検索癖をつけたりと注意しよう。
「ごめんなリオミ。また心配かけて」
「いえ……今回のことは仕方ないかなと思いますし」
「そう言ってもらえると、心が楽になるよ」
「ゃぅ……」
しばらくアラムの意識が戻るまで、時間がある。
今のうちに、ディーラちゃんの処遇を決めてしまおう。
「ディーラちゃん。アラムのやつにはきつく言っておく。キミたちの安全は俺が保証するから、安心してほしい」
「あ、ありがとうございます」
「アースフィアで暮らすには、まだ人々の理解を得づらいと思う。しばらくは、ここでほとぼりを冷ますんだ」
「あ、あの~。ここ、どこですか?」
「俺の家……みたいなもんかな。ちょうどいいから、リオミにもちゃんと案内するよ」
「アキヒコ様の家……あ。はい、おねがいしますね」
「で、でもお姉ちゃんが……」
ああ、そういえば。
ディーラちゃんは、あの子を隠したままだった。
「お姉ちゃんは、ちゃんとしたところで休ませてあげよう。そうしたほうが、早く目を覚ますかもしれないし」
「う」
「……まだ信じてもらえない?」
「ううん、お兄ちゃんはいいひとかもって思う。ちょっとコワイけど……」
お兄ちゃんキター!
ドラゴンの女の子が妹になったようです。
「ごめんね、お兄ちゃんが時々ひどいっていうのは、わたしに対してだけですから」
それは全然フォローになってない。
リオミも言うようになってきた。
「そういえば、ディーラちゃんもお姉ちゃんみたいに人間の姿になれる?」
「えっと、うん」
ディーラちゃんの宝石のような鱗が輝いたかと思うと、一瞬で巨大なドラゴンが人の姿をとった。
真紅の長い髪に、赤い瞳。見た目は14歳ぐらいの女の子。綺麗なルージュカラーのワンピースを着ている。美人ではあるけど、どっちかというと可愛らしい印象だ。
変身でよくある「生まれたままの姿」ってパターンではなかった。リオミがいるし、ラッキースケベイベントは地雷でしかない。
「お姉ちゃんより年上に見えるね」
「むー、でも、お姉ちゃんなの!」
そんなやりとりをかわしつつ、医務室にディーラちゃんのお姉ちゃんを横たえた。必要なら、後でもっと高度な医療施設に移送しなくては。
ん、そういえば。
「お姉ちゃんの名前はなんていうの?」
「ザー……あ、えっと。ラ、ラディです」
ふむ?
ディーラちゃんの逆読みか。
「じゃあ、ラディお姉ちゃんはここにいるから、また後で戻ってこようね」
ディーラちゃんはちょっと名残惜しそうにしてたけど、素直に言うことを聞いてくれた。
そんなわけで、マザーシップツアーが始まった。
今回は聖鍵の転移で区画移動というわけにはいかないので、きちんと設置型のテレポーターを使った。
ふたりとも驚きっぱなしで、俺は質問攻めにあった。
「あれは何ですか、アキヒコ様」
「工廠だよ。あそこで、俺のしもべを量産しているんだ」
「お兄ちゃん、あれはなーに?」
「あれはね、お菓子を作っているんだよ。そうだ、ふたりにちょっと味見してもらおうかな」
「じゃあ、このきのこを」
「たけのこがいい!」
お菓子は大変好評だった。
特にリオミは甘いものに目がなかったらしく、「アキヒコ様、本当に持って帰ってもいいんですか!?」と何度も確認した後、大量にバックに放り込んでいた。
やっぱり今度、祭りか何かのときには戦略爆撃機で配ろう。
「あと、重要な区画には俺の許可がないと入れないようになってるから、光ってないテレポーターは使えないからね」
「そうなんですか」
「まあ、用があるとも思えないけど」
マザーシップのルールを説明しつつ、様々な区画を見て回った。
それにしたって、マザーシップは歩いてみると広い。とてつもなく広い。案内は丸一日使っても足りない。今度、案内用のボットでも造らせるかな。
そんなこんなで休憩も兼ねて、食堂で夕食を摂る。ふたりとも、勝手に料理が出てくる装置に目を輝かせていた。
「とてもおいしいです、アキヒコ様」
「おいしーい!」
ふたりとも気に入ってくれたみたいだ。ディーラちゃんはおかわり自由だと知ると、もりもり食ってた。まあ、ドラゴンだしな。
「これも聖鍵の御力なのですね……」
リオミは食後に祈りを捧げていた。
それを見たディーラちゃんも、見よう見まねで祈っている。
「そういえば、アースフィアでは聖剣の信仰があるんだっけ」
「はい。聖剣教団といいまして、予言詩の管理をし、広めた組織です。今では町人や農民にも信仰されています」
本当は聖鍵なんですよね、とリオミは笑った。まあ、俺が強硬に呼び名を改めさせる必要もないだろう。
食事が終わったあと、ディーラちゃんとはすっかり打ち解けた。やっぱり、美味いモノは女の子の心を掴むのに効果的だ。リオミはお菓子、ディーラちゃんはご飯だな。
覚えたぞ!
「じゃあ、そろそろ戻ろうか」
ラディちゃんを寝かせた部屋に戻る。
「お姉ちゃん……」
一緒に寝ると言い出したディーラちゃんは、そのまま姉の眠るベッドで寝てしまった。
「ふぅ」
思わず、一息ついてしまう。まだギルドへの報告などが残っているが、ようやく仕事が一段落した。
仕事……か。
この俺がね。
「疲れていたのですね。きっと」
「ラディちゃんを守ろうと、寝ている時も気を張っていただろうしな」
リオミの手がディーラちゃんの頭に触れた。ちょっとだけピクンと反応したが、紅の髪の少女はそのまま眠り続けている。くすりと笑い、リオミはディーラちゃんを撫で始めた。
「ほんとうにドラゴンも手懐けてしまうのですね、聖鍵のちからは」
「え? いや、これは……」
くすくす、と。リオミは面白そうに笑った。
「冗談です。これは他でもない、アキヒコ様のお力です」
「そ、それもどうだろう」
「そうなんですってば」
「うーん。でも俺なんてどうせただの……」
「めっ。そうやって、自分を卑下しないでください」
怒られてしまった。
「今のわたしが信じているのは、予言でも聖鍵でもなく、アキヒコ様ご自身です。それをお忘れなく」
そんな風に言われてしまっては、俺だって何も言えなくなるじゃないか。
くぅ、今どんな顔しちゃってるんだろう。
リオミが楽しそうに見てくる。
「ち、ちょっとアラムの様子見てくるよ。リオミはふたりを頼むっ!」
逃げるように部屋を出た。
ああ、俺のヘタレ……。




