表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
機械仕掛けの聖剣使い  作者: epina
チュートリアル編
2/184

序章1

 光を抜けると、そこは見知らぬ風景だった。

 

 俺のよく知る路地は跡形もなく消え、現れたのは石レンガに囲まれた広い部屋。俺は戸惑うばかりだ。

 驚くギャラリーたちは、ゆったりとしたローブのようなものを羽織っていて、ファンタジーの映画で見た魔法使いみたいだなと呑気に思ってしまった。


「やったぞ、成功だ!」

「姫様、おかえりなさいませ! 大事はございませんか!」

「おお、その方がアキヒコ様ですか!」


 ローブの人たちは歓声を挙げていたが、俺と少女に近づいてくる様子はない。

 姫様、というのは間違いなく少女のことだろう。

 だが、どうして俺を知っている?

 少女の言っていた予言という言葉を思い出す。


「皆様、ありがとう。しかし喜ぶには尚早です。アキヒコ様に事情を説明しなければなりません。部屋の用意は?」

「はい、こちらです」


 部屋の入口に立っていた侍女が……うほ、いいメイド服。

 コホン。メイドさんが扉を開ける。


「アキヒコ様、こちらへ」


 少女が繋いだままだった手を優しく引いてくれる。

 やらかい。ありがたや。

 俺は特に抵抗するわけでもなく少女に続いて部屋を出た。

 ふと通路に出るときに、部屋の床が見えた……あれは、魔法陣だろうか?


「だんだんと、何が起きてるかわかってきた」


 俺のつたないヲタ知識によると……これは異世界召喚に間違いない。

 そう囁くのだ、俺のゴーストが。少佐もそう言っている。

 となると、このあと少女からお願いされるであろう内容も察しが付く。

 うーん、意外と冷静だな俺。

 もっと混乱してもいいシチュエーションだと思うが、これも日々の妄想訓練のおかげだろうか。


 少女が俺を通してくれた部屋は意外にも謁見の間ではなく、普通の応接間だった。

 こういうとき、王様が偉そうにふんぞり返って「勇者よ、待っていたぞ」とか言うものだと思っていたが。

 

「まずは、アキヒコ様。突然承諾もなく連れてくるような真似をした事をお詫び致します」


 席に座った俺に、立ったまま、ふかぶかと頭を下げる少女。

 なりません姫、その角度はいけませんぞ。胸チラです。殿中でござる。


「いや、きっと何か事情があったんでしょう。頭を上げてください、困ります」


 主に目のやり場に。

 これだけの前金をもらっておいて更なる謝罪と倍賞を求める程、俺は厚顔無恥ではない。


「ありがとうございます、アキヒコ様。さぞ混乱しておいでかと思いましたが、さすがは予言の方……」

「えーと。まずは、その……予言というのを聞かせてもらえますか」


 ずっと引っかかっていたキーワードでもある。

 会話のイニシアチブを握ることも兼ねて、ここは俺のほうからどんどん突っ込んでいったほうがいいだろう。


「はい。ですが、まずは自己紹介をさせて頂きます。わたしはタート=ロードニア王国の第一王女リオミ=ルド=ロードニアと申します」

「ご丁寧にどうも」


 俺も自己紹介しようと立ち上がりかけて、やめる。そういえばもう名乗ってるし、そもそも相手は俺のことを知ってるんだった。

 そして案の定、国のお姫様なわけね。


「予言ですが……アキヒコ様の名はこの世界……アースフィアに伝わる『魔王を消し去るもの』として予言詩が伝わっているのです」

「……予言の詳細を聞かせていただいても?」

「はい」


 リオミ王女は嫌な顔ひとつせず、予言を暗唱……もとい唄い始めた。


「『蒼き星よりきたるもの。闇よりいでし魔王を消し去る。魔を極めし王女が導き現れる。その名をアキヒコ。天からの贈り物、聖なる剣で光を降らす』」


 うっとりしながら、リオミ王女は唄い終わった。

 ああ……うん。やっぱり唄っても芸術だな、リオミ王女の声は。

 よかったよかった。予言とか聞いて、最初は嫌な予感してたんだけど。

 リオミ王女はヤンデレではなかったんや。


「わたしは、この予言を子守唄代わりにして育ちました。とても、大好きな詩なのです」

「つまり、俺が聖なる剣でもって魔王を倒すと」

「はい。アースフィアには昔から、強大な魔王が存在するのです。どこからやってきたのかはわかりませんが、アースフィアの魔物を支配し、人の地を荒らし始めました。元から軍勢を率いていたという説もありますが……」

「いかにも魔王って感じだな」


 大方、魔界からでもやってきたんだろうな。


「魔王の目的は、人間の支配だと言われています。もし世界を滅ぼすのが目的であるなら、三日で達成するだろうと言われるほど、強力な力を持った存在なのです」

「それは……」


 おいおい。余裕で大魔王を超えておられるぞ、ホントなら。

 バ○ン様ですら黒○核晶を使って成し遂げようとした大事業を、三日て。


「アースフィアになんのゆかりもないアキヒコ様を頼るのは、王族として責任放棄に等しいと自覚しています。ですが……わたしは魔術に関してなら多少の才もございますが、魔王の持つ強大な魔力には到底太刀打ちできません。いえ、わたしだけのことならいいのです。魔王の配下に苦しめられる民の声を聞くのは、もう……耐えられません」


 それなりの人生経験しか積んでない俺だが、年下の王女の告白は……充分、胸にクるものがあった。

 彼女は自分だけのことならいいと言った。自分以外の人が傷つくのが耐えられないと。揺れる薄緑の瞳には、裏打ちされた事実に基づく説得力があるような気がした。

 彼女の属性はニュートラルグッドに違いない。


「恥を忍んでお願い致します。どうか、アキヒコ様。魔王を倒してください」

「はい、いいですよ」

「……え?」


 リオミ王女は信じられないとでもいうような驚きの表情を浮かべて、俺を見た。

 ん、あれ、聞こえなかったのかな?


「あの、アキヒコ様……」

「え、ああ。魔王なら倒すよ。ごめん」

「ほん、とうに? こんなふうに連れて来られて、お怒りにならないのですか……?」

「いやまあ、ちょっと戸惑いはしたけども。でも、予言で俺の名前が残ってたんでしょう? なら俺にできる事かもしれない。正直、自信はあんまりないんだけど」


 リオミ王女は予言の詩を子守唄代わりにしていると言っていた。

 予言の詩が大好きだとも。

 俺の名前を聴きながら育ち、健やかな心を持って育った王女。

 そんな彼女の心からの願いを、どうして無碍にできようか。


「あ……っ」


 と、声を漏らしたかと思うと。

 王女は糸の切れた人形のようにへたり込んでしまった。


「だ、大丈夫ですか」

「は、はい……。安心、してしまいました。あはは」


 駆け寄る俺に、力なく、しかし喜びを湛えた笑い声。

 何故か、その声が彼女の素なのではないかな、と思った。

 部屋に控えていたメイドさん(さっきの人だ)が、リオミ王女を助け起こす。


「本当によろしいのですね、アキヒコ様……」

「うん。えーっと、でも俺には何の力もないと思う。なんかこっちの世界に来て、力が目覚めてるとかじゃなければ」


 あとは、重力がこっちのほうが軽くて、地球ではヘナチョコな坊やだった俺が、アースフィアなら無敵の超人! とかでもなければ。


「よかったです。本当に、ありがとうございます」


 またまた頭を下げてくれるリオミ王女。今度は俺も立ってるから胸チラは回避された。正直、今見えちゃったら罪悪感ぱない。良かった。

 それにしても、俺ってこんなに善人だったっけかな。もっと斜に構えて世の中見てるつもりだったんだけど。

 

「それでアキヒコ様。おそらくアキヒコ様は、聖剣を抜くことで大いなる力を得られるのではないかと思われます」

「聖剣。ああ、予言の」

「アキヒコ様には承諾を頂けましたので、これから聖剣のある地へと向かいます。来て頂けますか?」


 無言で頷いた。

 そうだな、その聖剣とやらを抜くと、俺の超絶パゥワーが覚醒して魔王もビックリな勇者になるに違いない。予言もそう言っているのだし。

 うーん、そういえば帰る方法とか聞いてないけど、魔王を倒すって言っちゃった以上、長期滞在は覚悟しないといけないかな。

 ヘンにホームシックにかかっても不味いから、今は聞かないでおこう。折を見てリオミ王女から話してくれるに違いない。


 俺はリオミ王女とともに護衛に率いられて、聖剣のあるという地へ向かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ