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機械仕掛けの聖剣使い  作者: epina
Episode01 Sword Saint Aram
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Vol.05

「うーん」


 マザーシップに帰還した俺は、提示されたプランを前に腕組みして考え込んでいた。

 いや、考えていたんじゃなくて、悩んでいただけだ。あんまりにあんまり過ぎて、検討にも値しない。


全身義体アーティフィシャルボディ……」


 義体とは、機械の腕や足、肉体のことだ。義足や義手のように失った部位を補完するのではない。純粋に人の限界を超えた力を発揮するため、より効率的かつ強靭な部位に置き換えるモノのことをいう。

 それが全身。つまり、生身の肉体を捨てて機械に置き換えてサイボーグになれということだ。さすがに、両親から授けられた身体を捨てるのはどうかと思う。宇宙を走る列車に相乗りする勇気はあるかい?

 俺にはない。


 だが、他に有効な方法が提示されないのは事実だ。

 超宇宙文明においては、当たり前の価値観だったのかもしれない。

 それゆえに、俺は自分自身で代替え案を考えて、プランとして提出しなければならないのだ。

 かれこれ数時間、頭を抱えているのだが。

 妙案が浮かばない。


「やっぱり、チップのランクを妥協するしかないのかな」


 俺でもついていけるレベルとなると選択肢が限られてくる。武器が強くても、当たらなければ意味がない。


 武器。

 そういえば、自分の装備装備と考えておきながら肝心なことを見落としていた。

 防具だ。


 防具がないと、それこそ貧弱な坊やに過ぎない俺は、あっさりやられてしまう。さっきなんて、裸一貫で魔物と対峙していたも同然だったのだ。今更ながらに恐怖を覚える。

 チップは後回しにして、防具のことを考えよう。


 どんなものがあるだろうか。

 む、これは……。

 提示された中に気になるものを見つけた。

 

「……これは、いいかもしれない」


 思わず呟いた俺は、さぞ気持ちの悪い笑みを浮かべていただろう。

 注目したのはプランのひとつとして表示された防具。パワードスーツだ。

 名前だけ聞くと、宇宙の怪物映画に出てきたような外骨格なのかと思ったのだが、違った。

 体にぴったりとフィットする、ライダースーツのようなデザインだ。人工筋肉による肉体の補強ができる。どれだけの性能なのかと詳細を求めたところ、素手でドロイドトルーパーを一撃で粉砕するシミュレーション映像が見られた。

 これで中身の人間の負担はほとんどなく、むしろ電極マッサージによって常に血行を保ち、乳酸を分解するクエン酸やビタミンB1などを投与して、疲れもほとんどなくなるのだという。

 あまりにも俺にとって都合が良すぎる一品だった。 


 先ほどは、自分自身の肉体を強化する方法というプランの提示を指示していた。

 パワードスーツは本来あくまで補助であり、求めたプランには一致しないとして扱われたらしい。無理もない。何しろ全身義体にすれば、素手で破壊できる装甲がセントリーボットを通り越してメタルノイドになるのである。その差は歴然だ。

 だけど俺にとって必要なのは、あくまで剣聖アラムのバトルアライメントチップに耐えられる肉体だ。攻撃力は、ホワイト・レイ・ソードユニットで充分に補えるのだから、何も問題はない。


 俺はパワードスーツを造らせた。デザインはライダースーツではなく、アースフィアの鎧を採用する。それほど凝ったデザインのものではなく、できるだけ標準的なレザーアーマーを選ぶ。

 派手に着飾る趣味はないし、下手に特徴的なデザインにしては、予言の聖鍵使いだと特定されやすくなってしまう。できれば、あまり目立ちたくない。


 パワードスーツの素材については、量産の難しい最高のものを選んだ。

 俺専用なのだから、ワンオフ品で問題ない。


 さらに防具につけられるオプション装備が選択できるようだ。

 考えた末に選んだのは絶対魔法防御。魔法の対象にならなくなるという、チート極まりない能力だ。味方がかける回復魔法はデフォルトで効く設定だが、その気になればこれもシャットアウトできる。逆に、一部の魔法が効くようにもできる。更にどんな魔法の対象になったのかを逐一報告してくれるため、自分にとって恩恵のある魔法であれば、そのときだけ効くよう再設定可能。

 オプションはもうひとつ選べたので、動体視力強化を選択した。これで体が動きについていけるけど、俺自身は何が起きてるかわからないということはなくなる。考え得る限り、最強の鎧だ。文句のつけどころがない。


 他のオプションも結構大概だったけどな。

 例えば、魔法の使えない俺がすべての魔法を使えるようになる魔法習得オプションがあった。

 習得という名称を使っているが、コレは俺が魔法を習得するわけではなく、魔術師が魔法を発動するメカニズムを機械がそのまま代理で行うというものだ。魔術師をひとり装備していると思えばいい。

 しかも使える魔法がかなり中二っぽく、隕石を降らせる程度なら朝飯前だ。

 例えばここに、虹色の壁を創り出す魔法がある。この壁を見た者は失明する。壁を通過してしまったものには各色に応じたバッドステータスやダメージが与えられ、その色の中には当たり前のように即死効果をもつものがある。この壁をディスペルするには、各色の壁を1枚ずつ対象にする必要がある。

 唱えると、相手が凍りづけになって死ぬ魔法もあった。


 残念ながら、魔法習得オプションは相性の問題で断念した。性質上、絶対魔法防御のオプションと一緒くたにつけることができないのだ。隕石ぐらいなら、マザーシップのマスドライバーカタパルト砲で代用できるし、問題はないだろう。


 ついでに、アースフィアの魔法についてもググってみた。

 大別すると血統によって左右される声紋魔法と、知識として学ぶことで習得可能な呪言魔法に分けられる。

 性能はぶっちぎりで声紋魔法のほうが上で、魔法習得オプションも声紋魔法が使えるようになるものだ。才能に秀でた血筋でなければならないのは大前提で、さらに魔法の発動には完璧な発音、声量が不可欠。ついでに美声であればあるほどいい。

 リオミなどはまさに声紋魔法の使い手としては最高の逸材だ。そんな彼女が10年死ぬ気で努力したというのなら、予言の「魔を極めし王女」になれたことにも納得できる。

 呪言魔法は逆に才能に一切左右されず、正しい知識、正しい呪文さえ唱えれば魔法を発動できるようになる。とはいえ、アースフィアの世界構造、物理法則などを正しく理解している必要があるため、高い教養が必要だ。学ぶには、とにかく金がかかる。

 王様の声を拡大した魔術師や、俺を召喚したときのローブ姿たちは、呪言魔法の使い手だ。


「これで、ようやくだな」


 今度こそ大丈夫だろう。

 テスト結果は良好だった。適当にレッドキャップを細切れにする作業を繰り返したが、バックファイアに悩まされることはなかった。

 準備は整ったのだ。俺は個人戦闘力においても、勇者と呼ばれるに相応しい力を調達できた。

 それが装備の力に過ぎないことは、置いておくにせよ。


 これでやるべきことは、ひとまず終わった。

 終わってしまった。

 没頭していた作業がなくなった途端、俺はある人物のことを思い出していた。

 無性に会いたくなってくる。


「リオミ……」


 あんな形で別れてしまった手前、会いに行くのは憚られる気もする。

 いや、別れるにせよ、もっとマイルドなやり方はいくらでもあったはずだ。

 あんな方法をとってしまったのは、俺の当時の精神状態のせいもある。

 だけど、そんなの彼女にとっては言い訳にもならないだろう。


 どうして俺は……いつも、あんなやり方を選択してしまうのか。


 きっと、怒っているだろう。恨まれていても仕方がない。

 予言の救世主に裏切られた事実は、いかばかりか。

 さすがの俺だって、彼女の好意がただの憧れでないと気づいていたのに。

 丁重に、差し障りの無いよう、壊れ物を扱うかのように、彼女の心を踏みにじった。


「謝りに行こう」


 それで許されるとは思っていない。ただの自己満足だ。

 いつでも会えると言っておいたのは、自分に対する言い訳をするための保険だった。会いに行くと言っておいたから会いに行くという、理由のための理由。さらに言えば、次の俺の計画を実行するために、彼女のコネを利用する腹積もりもあるのだ。

 

 そうだ。ここまで最低な自分なら、彼女の好意を受けるに値しない人間なのだと自覚できる。

 それでいい。今までどおり自惚れていればいい。不幸な人間を気取るのだ。漫然とした人生を送るならば、自分が社会に認められないはぐれ者だと思っておいた方が都合がいい。


 これなら会える。

 どの面下げて会いに来たのだと言われても、笑っていられる。


 ――聖鍵、起動。


 俺はちっぽけな想いを胸に、うわっつらの覚悟を決めて、タート=ロードニアへ転移した。

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