はじまり
初投稿、デビュー作です。
拙い作品ではありますが、もしよろしければご一読くださいませ。
序章4まで読み終わらないと、多分ただの王道召喚ファンタジー。
序章lastまではなんとかお願いします。
//////
書籍化しました!
2018/12/7に講談社レジェンドノベルス様よりタイトルを変えて全国書店で発売中!
日々を漫然と楽しく生きる。
それが人生の秘訣だと、俺……三好明彦は思っている。
今年で大学三年生になる俺は、就職活動真っ最中だ。なんとか単位は問題なく取れているものの、この就職活動というのが実に厄介なのだ。
自己PR。三好明彦です! 働くのは負けだと思っています!
志望動機。ねーよ、んなもん。
これでは青筋を浮かべた面接官に「お引取りください」と追い出されてしまう。
だが実際問題、ありもしない社会奉仕精神を奮起して、どこかしらの会社に入って奴隷のように働き、ドMに目覚めてワーカーホリックになるのって……どうにも実感できない。そうなる自分が考えられない。きっと俺の想像力が足りないだけだろう。
ほとんどの人はそうやって自分にある程度の見切りをつけて、建前上は会社のために頑張りますって吹聴して、本音ではオマンマのために頑張るわけだ。
働かざるもの食うべからず。
本来この言葉って「働かないなら死んで当然」って意味じゃなかったと思う。まあ、言葉の意味なんて時代に応じて変わるものだろう。
「いやホント、どーすっかな」
俺は今、講義が終わって帰路についているところだ。今日はサークルもないし、家に帰ってレンタルしたDVDでも観ようと思っている。
現時点、俺は社会人になる実感が持てなかった。
日々楽しみにしてるアニメを観たり、サークルでTRPG遊んだりして、遊戯の世界に篭っているからかな。
どこまでもアリじゃなくて、キリギリスな俺。最後はアリに喰われるのかな。
まあ、それも一興だろう。
今を楽しんだ分、将来ツケを支払うか。今を犠牲にして未来の老後をとるか。俺は迷いなく前者を選べる。
年金は払ってるけどね。親が。
お父さんお母さん、ごめんなさい。生まれてきて、ごめんなさい。
そんなふうに益体もなく、いつもの様に思考の迷宮をうろうろしながら愉しんでいると、
「……ん?」
思わず目を留めてしまった先には、一人の女の子がいた。
……なんだろう。うん、物凄い美少女だ。
これまで21年間生きてきた中で、間違いなくトップクラスである。
16~17歳ぐらいかな? まあ年下ではあると思う。
気になってしまった理由として、容姿はもちろんの事だが、彼女の時代錯誤な服装のせいもあった。
ナントカ王国の王女様といった風情のドレスを身に纏い、しかもそれを自然に着こなしている。コスプレの、着てみた感がない。さらに彼女は日本人ではない。金色の髪は染めているわけではないだろうし、薄緑色の瞳もカラコンではあるまい。
俺が見惚れている事に気づいたのか、少女は俺の方を見て近づいてくる。
ジロジロ見るのは不躾だったよな、と。咄嗟に謝罪の言葉が口から出そうになったのだが……。
「え?」
少女の顔には非礼を窘めるような気配がなく、むしろ喜色を浮かべていた。
え、何。俺を見て喜んでる、のか?
「お待ちしていました」
「え、あ、はい。すいません」
俺を待っていたという少女に、思わず謝ってしまう。
声も想像してたとおりの美しい声色だ。音楽として聞き惚れるレベル。人を魅了してやまぬ、流れるような旋律。それにしても外国人なのに、なんて見事な日本語のイントネーションだろう。
なんだ、このシチュエーション。これが……恋?
いやいやいや。っていうか、そもそも俺を待ってたってどういうことだ?
「えーと」
「アキヒコ様、ですよね?」
逡巡している俺に上目遣い、しかも小首を傾げるように尋ねてくる少女。
やばい、これはやばい。あざとすぎる。破壊力が段違いだ。
負ける。この俺が負ける。馬鹿な。中学時代から最強の朴念仁の名をほしいままにした、この俺が!
この俺が!
「あ、はい。三好明彦です」
「やっぱり! よかった、予言のとおりです」
少女の満面の笑みに、100年の恋が冷める感覚を覚えた。
予言? 前世系? ナニコレ、転生系ヤンデレは最も触れてはならないヒロインじゃないか。
危険だ。この少女に深入りするのは危険過ぎる。名前も知られてる。
なのに、どういうことだ! 動け、動け、俺の身体! 何故動かん!
「アキヒコ様。申し訳ありませんが、こちらの世界で事情をお話している時間があまりありません。そろそろ滞在時間が切れてしまいますので……」
「はい?」
俺の身体が動かないのは、チャームの魔法にでもかかってしまったからなのか。
少女が伸ばしてくる手を取ってしまう。思わず守りたくなような華奢で綺麗な手。そして、やわらかい。
少女は何かを言おうとしたようだが、二の句を告げないといった様子だ。
何を言おうとしたのだろう。表情からすると謝罪……いや、願い、だろうか。
俺が思考している間にも、少女と俺の周囲には光が満ち始めていた。
「え、これは……いったい」
もっと気の利いたセリフはなかったものか。
己が身に起こった怪現象に、さしたるリアクションもできず、少女を見つめてしまった。
俺の目に映った少女は決意を秘め、こう呟いた。
「お許し下さい。でも、どうか……」
俺は光に包まれる中で、なんとなく思った。
どんな酷いことをされても許してあげられるな、と。