血染めの追憶
「私、探偵をしているものです。」
突如、親子の前に探偵が現れた。
最初は家に入れないはずだったが、探偵に15年前の事件について話がしたいと言われ、
キッチンで話をすることにした。
あの家は、事件があった後に売り払い、
今はマンションで二人暮らしをしている。
「露美、部屋に入ってなさい。」
「え?う、うん。」
娘が部屋に入ったのを確認するとテーブルにお茶を出した。
「ありがとうございます。」
探偵は、お茶を音も立てずに飲むと
あなたが犯人ではありませんね、と言った。
「どうしてそう思うんですか?」
「私のただの感ですよ。あの日の事件は当時高校生だった自分も見ていました。
その時から、母親の犯行ではない、誰かを庇っているのだと気付いていました。
まぁ、ただの感ですがね。
探偵が感と言うなどお恥ずかしい話ですが。」
母親は数秒沈黙すると、話し始めた。
「ある日、買い物から帰って来ると、信じられない光景が飛び込んで来ました。
3歳の娘が昼寝をしていた父親の胸元をハサミで刺し続けていたんです。
無邪気に笑いながら"くちゃいくちゃい、ないない、"と言いながら。
娘の手も足も顔も血だらけでした。
娘はタバコを吸う夫の匂いを酷く嫌っていました。
私自身、喘息で悩まされていましたから。
娘も咳き込むようになり、辞めるよう言いましたがダメでした。
結婚したら変わるなんて甘い考えは捨てるべきでした。
まさか、まだ幼い娘があんなことを・・・。」
「それで、あなたが殺したと供述した。」
「そうです。あの子は幸い、殺した記憶はありませんでした。
父親が何故いなくなったのか分からない様子でしたし。」
「あなたは、肺炎か肺癌になりかけていたのではないですか?」
「え?ええ。このままでは肺癌になると医師に言われました。でも、どうしてそれを?」
「これも感です。娘さんは、幼心に気付いていたと思いますよ。
単純に自分が嫌だっただけではなく、
父親がタバコを吸うとあなたがゲホゲホとむせる、それは次第に増えていった。
お母さんを苦しめている存在を私がなんとかしなければ、と必死で考えたのでしょう。」
「そんなまさか・・・まだ3歳ですよ?」
「どこの世界にも天才はいるものです。」
探偵がお茶を飲む。
その時、ガチャっと娘の部屋の扉が開いた。
「探偵さんが言ってるのは本当だよ」
「露美・・・聞いていたの?」
「扉に耳をくっつけてたら僅かに聞こえたの。」
「そう・・・。」
「私、自分があいつを殺したって分かってた。」
「え?なら、どうして・・・ずっと隠していたの?」
「娘さんは、自分の身代わりになって逮捕されたあなたの気持ちを守ろうとした。
自分がやったと言っても、誰も信じてはくれない。
3歳とは思えないほど頭のキレる娘さんだ。」
「ママが苦しんでるの見てられなかったの。」
「探偵さん」
「分かっています。このことはこの場だけの秘密にしておきましょう。
第一、15年も前の話だ。今更どうにもならない。
これからは、親子で幸せな時間を沢山作って下さい。」
「ありがとうございます、ありがとうございます・・・。」
「ママ、あの日、私を庇ってくれてありがとう。」
「露美、それはわたしのせりふよ。母さんを守ってくれてありがとう。」
二人は強く抱き合った。
「探偵さん、あなたがいなければ、娘の気持ちを知らないままでした。」
「真相を解き明かすのが探偵ですが、
逮捕に協力するだけが探偵ではありませんから。」
そう言って、
探偵は黒いハット帽のつばを目ぶかに被り直すと静かに去っていった。




