第12話 Sランクボスと、逃がさない距離
ダンジョンの奥。
空気が、変わる。
さっきまでの“危険”とは違う。
これは――
圧倒的な存在感。
「……来る」
アリアの声が低くなる。
その瞬間。
闇の中から現れた。
黒い巨体。
四足。
全身が影のように揺らぐ。
赤い目。
⸻
シャドウベヒーモス。
⸻
Sランクボス。
コメント欄はすでに騒然としていた。
「ガチボス」
「Sランク最上位」
「普通は討伐隊案件」
俺は無意識に息を飲む。
すると。
トン、と軽く肩を叩かれた。
振り向く。
アリア。
距離。
また近い。
近すぎる。
「顔、固い」
彼女は少しだけ首を傾げる。
青い瞳が、まっすぐこっちを見る。
「怖い?」
またその質問。
だが今度は少し違う。
試すような、甘い声。
俺は正直に答える。
「……強そうだなって」
アリアは満足そうに笑った。
「いいわね」
そして。
一歩、踏み込んでくる。
完全にパーソナルスペースに入ってくる距離。
「じゃあ」
「ちゃんと見てなさい」
そう言った瞬間。
彼女は俺の手を取った。
「え?」
ぐいっ。
引き寄せられる。
ドン。
バランスを崩す。
気づいた時には――
密着。
胸元に顔が近い。
というか、当たってる。
柔らかい感触。
一瞬で理解する。
「っ……!」
コメント欄。
「」
「」
「密着きた」
アリアは全く動じていない。
むしろ。
俺の耳元で囁く。
「ほら」
「逃げ場ないでしょ?」
完全に遊ばれてる。
俺は慌てる。
「いや、これ戦闘前なんですけど」
アリアはくすっと笑う。
「だからよ」
そして。
そのまま片手で剣を構える。
もう片方の手は――
俺の腕を掴んだまま。
「離さない」
ボソッと呟く。
コメント欄。
「甘サド限界突破」
その瞬間。
シャドウベヒーモスが動いた。
ドゴォン!!
地面が砕ける。
突進。
速い。
だが。
アリアは俺を引いたまま回避。
その動きでさらに体が密着する。
「近い!」
「静かに」
耳元。
吐息。
完全に集中できない。
アリアの剣が閃く。
ザンッ!!
ベヒーモスの脚に傷。
だが浅い。
「硬いわね」
彼女は舌打ちする。
そのまま。
さらに距離を詰める。
そして。
なぜか俺の背後に回る。
「え?」
次の瞬間。
後ろから抱き込まれる。
腕が胸の前で交差する。
完全にホールド。
「動かないで」
囁き。
その体勢のまま。
彼女は一歩踏み込む。
ザシュッ!!
ベヒーモスに連撃。
コメント欄。
「戦いながら抱きついてる」
「意味わからん」
俺は完全にパニックだ。
「これ必要です!?」
アリアは即答する。
「必要」
間髪入れずに。
「あなた逃げるから」
「逃げませんよ!」
アリアはくすっと笑う。
「じゃあいいでしょ」
さらに力が強くなる。
完全に拘束。
だが。
安心感もある。
背中越しに伝わる体温。
鼓動。
おかしい。
戦闘中なのに。
別の意味で心臓がうるさい。
「……集中しなさい」
少しだけ優しい声。
その瞬間。
ベヒーモスが咆哮。
「グオオオオ!!」
衝撃波。
アリアが離れる。
一気に距離が空く。
その瞬間。
妙な感覚。
「……」
なんか、軽い。
さっきまであったものがなくなったみたいな。
アリアが振り向く。
「今よ」
「トドメ」
俺は剣を握る。
踏み込む。
「はあああ!!」
ザンッ!!
斬撃が走る。
ベヒーモスの体が裂ける。
崩れる。
討伐。
その瞬間。
⸻
ポン
ポン
ポン
ポン
ポン
ポン
ポン
ポン
ポン
ポン
ポン
ポン
ポン
ポン
⸻
コメント欄。
「14個」
「Sランクでも爆発」
その中。
ひときわ強い光。
白金色。
俺は拾う。
鑑定。
⸻
ユニークスキル
「絶対ドロップ領域」
効果
周囲の味方にもドロップ率∞を付与
レア度
EX
⸻
コメント欄。
「」
「」
「壊れた」
アリアも固まる。
「……は?」
珍しく本気で驚いている。
そして。
ゆっくり俺を見る。
数秒。
沈黙。
次の瞬間。
ぐいっ。
引き寄せられる。
また密着。
今度は前から。
「ちょっ」
アリアが言う。
「ねえ」
低い声。
だがどこか楽しそう。
「これ」
「本当に人間?」
コメント欄。
「人外認定」
俺は苦笑する。
「一応」
アリアは近づく。
さらに近い。
鼻先が触れそうな距離。
「ふーん」
そして。
小さく笑う。
「面白いわ」
そのまま。
耳元で。
「もっと」
「見せなさい」
コメント欄。
「支配されてる」
そのとき。
ダンジョン奥が光る。
さらに深層。
まだ先がある。
アリアが振り向く。
そして。
手を差し出す。
「行くわよ」
俺はその手を取る。
アリアが微笑む。
「逃げたら」
少し間。
「今度は本気で捕まえる」
コメント欄。
「怖い」
だが。
少しだけ。
その言葉が嬉しいと思ってしまった。
⸻
第12話 完




