第98話 機甲路
帝国は都市国家の連合体である。
その都市国家を結ぶ連絡線が、機甲路と呼ばれる。もともとは遠征する軍団と根拠地を結ぶ兵站路として整備されたもので、陸上戦艦が円滑に移動できるように100メートル以上の幅と段差を抑えた緩やかな傾斜勾配となるように整地がなされている。
機甲路は軍用以外に、民間にも条件付きで開放されており、交易や流通の経済基盤を支える要となっている。
重甲機兵を主戦力とする地表世界では、稼動する重甲機兵が発生させる特殊な電磁波により無線やレーダーは混乱させてしまう。無線通信やレーダーが安定しない環境は、空路よりも陸路の方が有利だった。
帝国の連絡線の要を支配することで、帝と皇城府は帝国に対して影響力を有しているとも言えた。
ルージュピーク演習場を放棄した『朱雀』と『胡蝶』の2艦は、機甲路へ入ってナーガオウ州の州都へ向かっている。州都の市街地道路は、陸上戦艦が移動できる幅はないため、陸上戦艦は機甲路の中継基地に待機させることになる。
戦艦『胡蝶』の主艦橋。射流鹿と幹部将校の作戦会議は、休憩を挟んだ後はかなり砕けた雰囲気になっていた。
主艦橋の後方に設置された司令官席には、月夜見が腰掛けてパウチ容器に封入された紅茶で口を湿られている。
「州都に最も近いN16中継基地から、州議事堂までの直線距離は約40キロメートル。空中移送機で重甲機兵を輸送するのには30分から40分は必要ですね」
「そうすると『朱雀』と『胡蝶』から9機を、2機の空中移送機で輸送するには5回の往復が必要……2時間半程度は想定おかなければならないか」
重甲機兵の総数11機だが、『朱雀』と『胡蝶』にそれぞれ1機づつを非常時に備えて待機させる。議事堂包囲に向かうのは当面は9機の予定である。
「2番機と11番機のA級機体を最初に輸送します。11番機が出て行けば、第3戦団は大急ぎで出てくるでしょうから」
第3戦団が根拠としたののは同盟議会の決議だった。しかし、その決議のために「議会を私物化した」として議長のみならず全議員が逮捕されている。
違法な決議を根拠に軍事行動を起こした……その責は、最低でも第3戦団南部方面軍の幹部の首を差し出さなければ収まらない。
……何らかの取引を持ちかけるか?
……日嗣皇子の謀殺を仕掛けるか?
いずれにしても直ぐさま11番機のもとへ駆けつけるだろうと予想できる。
「結局のところ、第3戦団を誘き出すのが本当の目的だな」
射流鹿には、ナーガオウ州そのものが眼中にはない。




