第96話 面倒くさい女
ルージュピーク演習場の放棄そしてナーガオウ州議事堂の包囲への方針変更は、戦艦『朱雀』に伝えられる。八須賀大佐は、重甲機兵の装備変更を整備班に指示した。
戦艦『朱雀』のジークフリードは、左腰の打刀はそのままで右手にロケット砲、左手に凧型盾を装備した。凧型盾の内側にはロケット砲のカートリッジを装着する。
人型である重甲機兵は、遠距離攻撃をしながら距離を詰めて、盾とロケット砲を捨てれば、剣を抜いて近距離戦へそのまま移行できる。
GV3Xも、他のジークフリードと同様の装備に変更される。珍しく刀自古が中央デッキに降りてきて、御堂と青柳に対してヒアリングをしていた。
「お二人で上手くやっていけそうかしら?」
「はい! 大丈夫ですぅ」
「はい……多分」
元気に即答する青柳に対して、御堂は少し煮え切らない。
青柳の習得力と適応力の高さには、整備班も模擬戦の相手をしていた2番機パイロットも驚嘆していた。青柳自身は、GV3Xを気に入ったようで色々なことに意欲的とは聞いている。
「何か、気になることはありますか?」
「何にもないですぅ!」
「……」
元気一杯な青柳に気圧されて言葉を出せない御堂。刀自古には、何となく御堂の考えていることが想像できた。
……面倒くさい女。御堂に対する印象が甦ってくる。
「御堂准尉が体調不良のようですから、GV3Xは戦闘には参加しなくて結構です。パイロットは、トイレ掃除を担当していて下さい」
「ええぇ?」
「……はあ?」
「艦の乗員には作戦行動に専念して欲しいですからね。トイレ掃除の当番を肩代わりしてくれる者がいたら、皆さんから喜ばれると思いますよ」
「ええぇ!」
「ちょ……待って下さい!」
「八須賀大佐には、妾の方から伝えておきます。青柳少尉の分も、御堂准尉が引き受けることでよろしいですね?」
「それならいいですぅ!」
「待て! こらアァァァ!」
戦艦『朱雀』の中央デッキに、御堂の怒声が響き渡った。
猫のような素早さで青柳は、刀自古の背中に隠れていた。背中で震えている青柳をチラリと見て、刀自古は御堂を窘める。
「御堂准尉、上官を虐めては駄目ですよ」
御堂よりも年上で階級も上である青柳は、小柄で童顔。知らない者なら、10代の少女と疑わない見た目である。
「虐めてないじゃないですか!」
刀自古への抗議の声が、思わずまた大きくなる。
「うわぁ、ごめんなさいぃですぅ」
半泣きになって脅える青柳の頭を刀自古が撫でている。それを見て、御堂の胸には絶望に近い不安が過る。




