第95話 日嗣皇子
戦艦『胡蝶』の主艦橋。
射流鹿を中心にして『胡蝶』の幹部将校が集まっていた。射流鹿の少し後ろに月夜見もいる。
「ルージュピーク制圧を放棄して、戦場を市街地に移します」
主艦橋の正面モニターに、ナーガオウ州の地図が表示される。次に州都が拡大され、更に州議会を行う議事堂が拡大表示された。
「ナーガオウ州議会の議事堂を、重甲機兵で包囲し制圧します。州議会が『3軍合同演習に関与した者』の引き渡しに応じなければ、都市を焼き払います」
幹部将校は、射流鹿の作戦にも特に驚かない。第3戦団とナーガオウ州軍叛逆者との二正面での戦いを、敵側のホームで待つよりマシなのは明らかだ。
3軍合同演習での『イルドラ軍の第2戦団への奇襲攻撃』事件に関して、共犯を疑われるナーガオウ州には、帝国の調査に協力しなければならない。
州議会が『3軍合同演習に関与した全ての兵員および議員の引き渡し』を承認するのと同時に、事件の首謀者たちは軍の一部を伴いルージュピーク演習場へ立て籠もった。
第2戦団の遠征部隊が、ルージュピーク演習場を制圧する直前に、第3戦団が唐突に介入してきたのである。
議会や市民を人質として、立て籠もる叛逆者に投降を呼びかけるのか?それとも、州軍正規部隊に叛逆者を掃討させるのか?
立て籠もる叛逆者を確保できれば、遠征軍の目的は果たされる。しかし……。
「ナーガオウ州軍、それと第3戦団が出てきますね」
幹部将校の1人が指摘する。
近衛軍は帝の命令のみで行動する。第3戦団は、その律を破り、同盟議会の議決を口実にして介入してきた。州議事堂を包囲して、第3戦団が出てこないはずはない。
「出てくれば叩きます」
第3戦団南部方面軍とナーガオウ州軍が稼動できる重甲機兵は、およそ30機。それに対して第2戦団の遠征軍は11機。動きやすい演習場が戦場である限り、数の不利を覆すのは難しい。
「敵は、議会と市民の保護を大義名分するでしょうから、当面は市街を巻き込む攻撃はできません。まあ、ある時点で大義名分をかなぐり捨てて、議会も市民も巻き込む反撃に転じるでしょうが……それまでは一方的に攻撃できます。そこで可能な限り、敵の機体を減らして下さい」
出てくれば叩く……と言ったが、射流鹿の主眼は『第3戦団への打撃』である。工廠施設で剣を交えた以上、第3戦団は日嗣皇子を亡き者にするしかなくなったはずだ。
言わば、第3戦団を引き出すための作戦だった。それは『胡蝶』の幹部将校も知っている。




