第94話 急変
11番機の整備の進行を確認してから、月夜見は『胡蝶』から『朱雀』へのホットラインを開いた。月夜見の『胡蝶』への合流は、極秘裏で行われたため、ホットラインを受けた刀自古もそれには驚く。
「ルージュピーク遠征部隊の司令艦は『朱雀』から『胡蝶』へ変更される。これ以降の軍事行動は、『胡蝶』の日嗣皇子が総指揮を取る」
「大兄様の名で軍を動かすのですか?」
「そうだ。私は11番機のSVに入るため『朱雀』の運用指揮は取れなくなる。『朱雀』と搭載された重甲機兵6機の運用は、引き続き八須賀大佐に任せる」
「承知しました」
ある程度の事態の急変は予測していたが、この時点で射流鹿が最前線に出てくるのは想像していなかった。それは、射流鹿の仮の姿であった「入鹿玲」の存在が消滅したことを意味している。
「そちらに変化はあったか?」
「GV3XのSVとして、青柳礼子少尉を第2戦団本部から召喚しました」
「青柳礼子を呼び寄せたのか?」
青柳は、月夜見がSVとしての才能を見出した兵士である。月夜見の命令で、第2戦団本部にて特別訓練を行っていたはずだった。
「はい。GV3XのSVを務められる者は他にいないとの八須賀大佐の判断です」
第3戦団とナーガオウ州軍叛逆者との二正面での戦いとなった以上、1機でも多くの重甲機兵が必要となる。特殊な機体であるGV3Xの機構制御を、短期間で習得できる者は極めて限られる。
八須賀大佐の判断は間違ってはいない、と月夜見も納得する。
「御堂准尉に、何か伝えることはありますか?」
「いや、八須賀大佐の判断は的確だ。任せる」
「……」
パートナーであった入鹿が急にいなくなったことを、御堂准尉が不安に感じています……と伝えようとしたが止めた。御堂に伝えられることはなにもない。
そして……月夜見は、既に御堂を切り捨てている。何も伝えない方が、御堂の身の安全になると思えた。
刀自古が何も言わないので、月夜見はホットラインを切断した。
戦艦『胡蝶』は、正式には第1戦団に所属する『朱雀』の同型艦である。第2戦団のルージュピーク遠征に際して、月夜見が第1戦団から借り受けて遠征軍に参加させたもので、装備も乗艦している兵士も全て第1戦団に所属している。
帝直轄の第1戦団であれば、帝の嫡子である射流鹿にも忠実である。まして、今は近衛軍ナンバー2の月夜見が、その補佐についている。
「図らずも日嗣皇子としての初陣になるとはな」
艦央工廠棟で11番機を見上げている射流鹿の背中に、月夜見は呟いた。




