第93話 11番機
第2戦団のルージュピーク遠征部隊は、ナーガオウ州軍の反逆者が立て籠もる演習場の5つの管制施設のうち2箇所を制圧していた。
最東部に位置する中央管制塔を旗艦『朱雀』と6機の重甲機兵、南部管制塔を戦艦『胡蝶』と4機の重甲機兵で制圧し、北東部の工廠施設は破壊してある。
残る拠点は2つ。立て籠もる反逆側の戦力は、重甲機兵10機を割り込んでいる。部隊の練度と補給線を考えれば、第2戦団は圧倒的に優位にあるはずだった。
帝国の首都・不死鳥京からルージュピークへ戻った月夜見は、旗艦『朱雀』に戻らずに南部管制塔を制圧している戦艦『胡蝶』と合流した。
戦艦『胡蝶』の艦央部工廠では、5機目の機体であるA級ジークフリードの整備が急遽始められている。
「11番機を出すことになるとはな」
11番機。帝の嫡子である日嗣皇子の専用機であり、この程度の小競り合いに参戦させるつもりはなかった機体である。
「穏便にコトを納めるつもりはないのだな?」
月夜見は振り返って、後ろにいる白い軍服の男に確認を求める。帝国の日嗣皇子たる羅侯射流鹿……ここではもう「入鹿玲」を名乗る必要はない。
「放っておいても第3戦団は、帝直轄の第1戦団に駆逐されます。けれど……剣を向けられて黙っていられるほど、僕は人間ができてはいませんから」
工廠施設にて、第3戦団・南部方面軍の大崎中佐と名乗る士官と対峙した。御堂によって空中移送機の突撃が妨害された際に、大崎中佐は機体に戻るより射流鹿に斬りかかる方を優先した。
「帝の手を患わせる前に、第3戦団南部方面軍だけでも叩いておきます」
工廠施設での衝突で、大崎中佐が「射流鹿と承知して斬りかかった」可能性は高い。射流鹿は、自らを囮として第3戦団を揺さぶるつもりでいる。
「全く。これまでお前を匿ってきた私の苦労を台無しにしてくれる」
そう言いつつも、射流鹿の判断を月夜見も否定しない。日嗣皇子暗殺を画策する反帝派から射流鹿を隠すのは、これ以上はもう無理だろう。
とは言え、状況は容易くはない。
射流鹿の計画では、空中移送機を生身のパイロットにぶつけ爆破することで、工廠施設へ現れた6機のB級ジークフリードを撃破するつもりだった。
しかし……結果は6機のB級ジークフリードは第3戦団へ帰還し、第2戦団だけが空中移送機を失って機動力を損ねてしまう。
その上での、第3戦団とナーガオウ州軍叛逆者との二正面での戦い。
一機でも多くの機体を投入するために、11番機の投入はやむを得ない状況だった。




