第9話 迎撃の始まり
前哨基地から打ち上げられた信号弾は、強襲を仕掛けたマルスたちにも見えた。A級ペルセウスの管制AIは、帝国固有の信号を『A級』『即時』『援軍』と解読する。
「A級ジークフリードを即時、援軍として送る……か?」
停止状態にある重甲機兵が、戦闘可能になるには1時間前後のウォーミングアップが必要だ。1時間あれば二機のB級ジークフリードを撃破し、新型機を回収できる。協定違反の自分たちの痕跡の消して撤退するにも十分だ。
しかし、既にウォーミングアップした機体を待機させていたなら、前哨基地から十数分で、この赤塵の丘に援軍は到着してしまう。
「仮面女の采配次第か」
二機のB級ペルセウスの後方から、マルスのA級が両機のランドセルに手をかけて接触回線を開いた。フォボスとディモスも互いの右手と左手の装甲を接触させる。
「時間的な猶予はない。手間取ったら第2戦団のA級が来るぞ」
「まさか? いくら何でも無理ですよ」
「ハッタリですよ。A級をハイそうですかと出せるはずがねえ」
フォボスとディモスは、マルスの意見を否定する。確かに『即時』はブラフの可能性もある。しかし……。
今回の仕事は「帝国の新型機と交戦した記録」だけで、高額に売り込める情報だった。それを「新型機の鹵獲」と欲張ってしまったのはマルス自身だ。
(第2戦団の支配地域で、仮面女を甘く見たか?)
自分も含めて、フォボスとディモスを生きて帰還させなければならない。
「第2戦団の増援が到着する前に、B級二機を撃破しパイロットごとコクピットを潰す、そして新型を回収して撤収だ! 十五分以内にケリをつける」
マルスの命令は変わらなかった。
「三機で包囲して、一気に決めるぞ!」
フォボスとディモスは頷くしかなかった。
入鹿は格闘戦に備え、周囲の地形をチェックしていた。
三機のペルセウスのいる地点は、瓦礫や崩壊した構造物が砂から突き出して足場が悪い。対して、こちらの赤塵の丘は、視界も開けて足場もいい。
「前哨基地からの返信を確認しました。およそ二十分で援軍が来ます」
三機のペルセウスに視点を移した。後方に立つA級ペルセウスが両腕を降ろすと、二機のB級ペルセウスが左右に弧を描いて移動を始めた。
「彼らの狙いは新型機の鹵獲でしょうからターゲットは貴女です。来襲する二機のB級を、ここで撃破して下さい。A級は僕が対処します」
「ええ?」
入鹿の重甲騎兵の操縦技量は、贔屓目に見ても「中」レベル。模擬戦では、御堂は入鹿に負けたことはなかった。
「あたしが戦う方がマシよ。あなたがB級を……」
「怖じ気づいている貴女には無理です」
御堂の発言を遮る入鹿の指摘は、図星を指していた。だが、図星を指されたからこそ、逆に反発心のスイッチが入った。
「怖じ気づいてても、マザコン男よりマシでしょ! 指揮権はあたしにあるんだから、黙って命令に従いなさい!」
「僕はマザコンでも結構ですから、今は聞き分けて下さい」
「あなたじゃ戦えないって言ってるの!」
「戦う必要はありません。時間を稼げばいいんです」
腕の差が歴然としていて、時間も稼ぎようがない……と言おうしたが、入鹿は御堂機からの音声入力を切断してしまった。御堂に入鹿の声は聞こえるが、入鹿に御堂の声は届かない。
「A級は僕が足止めしますので、二機のB級を撃破したら新型機で前哨基地へ帰還して下さい。新型機を敵に渡さないことが最優先です。それから敵機のパイロットは確実に殺すつもりで戦って下さい」
「勝手に通信を切って『逃げろ』は死亡フラグでしょうが!」
GS4のコクピットで大声を出したが、入鹿には届かない。
既に二騎のB級ペルセウスが、左右から回り込みながら接近している。入鹿機は、その二騎の中央を抜けて真っ直ぐA級ペルセウスへ向かう。
「……ったく、新型機じゃなくて『あなたが最優先です』くらい言えないかなぁ。そしたら童貞卒業を手伝っちゃうかも知れないのに」
とにかく、B級二機を撃破する!
それから考えることにしよう、と御堂は決めた。




