第85話 祟り神
入鹿がGV3Xで工廠施設を発った後、御堂を含めた制圧部隊は夕方に『朱雀』へ移動することになる。
山本中尉と新藤中尉は、迎えに来た空中移送機で重甲機兵と共に『朱雀』へ向かい、他の兵員は5台の装甲車に分乗して帰艦する。
500メートルくらい離れた辺りで、建物各所に設置した時限爆弾が爆発した。
「ちょっと寂しいよね」
装甲車から見える煙と壊れてゆく建物に、御堂は寂寥を覚える。同乗している他の兵員も、御堂の言葉に頷いてくれた。
戦艦『朱雀』の中央デッキ下部の台座にGV3Xはあった。胸部が分解されて、コクピット部分が丸ごと取り出されている。大がかりな整備をするらしい。
入鹿の姿を探したが見つからない。興田主任は、若い女性兵と話をしていて声をかけられなかった。
帰還した制圧部隊は、食堂の半分を貸し切ってミーティングを行う。ミーティングと言うが、実際は打ち上げパーティなのだろう。アルコール類以外は、無料で飲食自由と言う。ここにも入鹿はいない。
「うわーマジかよ?」
「いや、ザマァーって思っちゃってるよ。オレ」
食堂の大型スクリーンに、ニュースが流れている。ハードウェアによる不正アクセス防止機能のある環境に来て、久しぶりにローカル報道に触れられた。
「同盟議会の議員全員逮捕って……マジ?」
「逮捕に抵抗した者はその場で射殺だってさ。逮捕108人って、3分の1は射殺されたってことか」
「再選挙になるんだろうけど……選挙に立候補する人いるの?」
警察による逮捕ではなく、安全保障局による逮捕である。逮捕の時点で有罪が決定している。司法の外にある安全保障局に逮捕されたら、通常の裁判を受ける権利はない。
御堂の背中を、新藤中尉が軽く叩いた。
安全保障局の監視対象にされて、今もこうして任務に就いていられた御堂は極めて珍しいと言えた。
『近衛軍は帝の私兵です。帝国民の兵ではありません』
入鹿の言葉が脳裏をよぎる。
帝国の外郭都市であるナーガオウ州へ侵攻した第2戦団。
同盟議会を蹂躙した安全保障局。
いずれも帝国民のために行動している訳ではないのは明らか。
「帝って……一体何なんなのですか?」
帝国の行政は、選挙で選ばれた議員(元老院)による議会制である。帝には執政権はないとされている。
「祟り神だよ」
「……祟り神?」
「暴れ出したら面倒だから、崇め奉っておとなしくしていて貰う。その代わり、その凶暴な力を外へ向けられれば、帝国を他勢力から守ることができる」
新藤中尉の言葉の意味は、御堂には理解しがたい。




