第84話 議会の原則
帝国の首都、不死鳥京の皇城府の安全保障局本部。
その一室で、同盟議会の議長・錦城ジンは数日ぶりに手足の拘束を解かれた。
尋問室である。シングルの客室程度の広さで、入口は一つ。その入口の近くに一脚の椅子があるが、錦城議長は部屋の中央に立たされている。
入口から振袖の女性と白小袖に緋袴を纏った女性が入ってくる。白小袖の女性が椅子に座り、振袖の女性はその脇に立った。
「さて。同盟議会の議長さまに、お願いがあります」
錦城議長は、返事をせずに目を背けた。
「貴男は同盟議会を私物化し、『ルージュピーク侵攻部隊の指揮権を第3戦団に委ねる』との議決を通しました」
「私物化などしていません! 議会の、帝国市民の意思です!」
錦城議長は強い口調で否定した。しかし、白小袖の女性は全く意に介さずに言葉を続ける。
「その時の評決は反対51、賛成58、棄権41だったそうですが……賛成を投じた議員は、貴男と同じく反逆罪です。安全保障局の逮捕の対象ですので、その投票データを渡して頂きたいのです」
何を今更……と思う。同盟議会のサーバー上のデータは、全て安全保障局に押収されている。議長の同意など必要なく解析されているはずだ。
「貴男が投票データを提供してくれないと、賛成した者を特定できません。そうすると同盟議会の全議員を逮捕しないといけません」
全ての議員を逮捕する等できるはずがない!……と思った。だが、錦城議長は考え直す。安全保障局ならやりかねない、と!
「貴男の都合も理解しているつもりです。貴男の派閥議員は皆が『賛成』に投じたと思いますので、派閥の力関係に影響がでるかも知れませんね。再選挙で新しい議員が選出されることになっても、貴男の派閥はかなり減少するでしょうね」
それなら全議員が逮捕され、全議席で再選挙の方が派閥的には影響が小さい。
「でも正しい投票した議員が、巻き添えになるのは理不尽だと思います」
錦城議長は理解した。今、自分が試されているのだと。
派閥が多数派を維持するために、議会の匿名性の原則を口実にできる。無辜の議員を巻き添えにして。
無辜の議員を巻き込まないために、議会の匿名性の原則を捻じ曲げて、更に自らの派閥を衰退させるか。
「どうでしょう、協力して頂けますか?」
錦城議長は『議会の匿名性の原則』を選んだ。
再び手枷と足枷を嵌められ、錦城議長は審問室から連れ出される。
「ほらね。利権にしがみついてる人間は、我が身が滅んでも利権を手放そうとしないものなのよ」
白小袖に身を包んだ太后はクスクスと笑った。




