第83話 罪と罰
「ここで何してたの?」
入鹿は答えない。御堂と視線を合わせないよう、わざと横を向く。入鹿の胸座から御堂の右手が離れた。その右手は入鹿の股間へ伸びて、その部分を鷲掴みにする。
完全に不意をつかれて、入鹿も動揺を顔を出す。
「ったく!ホントにここについてんの? ウジウジすんな!」
砂塵の混じる風の中で、入鹿と御堂はGV3Xの脚下に並んで腰を下ろした。
(この雰囲気、赤塵の丘で新型機の慣熟運転やった時以来かな)
入鹿は喋らないし、目を合わせない。しかし、それも「拗ねている」のであって「怒っていない」のが御堂にはわかる。
「勝手に喋るから聞こえちゃうかも知れないけど、あくまで独り言ね」
「みんなには申し訳ないんだけどさ。あれで良かったんじゃないか、って思ってるの。第3戦団も第2戦団も、死者を出さないで済んだんだから」
「……」
「第3戦団が『勝手な議決』を持ち出して、第2戦団に割り込んできたのは悪いと思うよ。でもさ、第3戦団にもきっと理由があるはずだから。その理由を話し合ってからでも、戦うのは遅くないと思う」
「近衛軍は、帝の命令によってのみ行動します。それが近衛軍の秩序です。その秩序に反した者には、相応の罰が下されなければなりません」
口を利かないはずの入鹿が応じた。御堂は、思わずほくそ笑む。
「万が一よ? 3軍合同演習での襲撃事件の真相がさ、何万人とか何十万人を巻き込む悲劇に繋がるなら……究明しない選択肢もあるんじゃないかな」
「それは、何十万人の命や財産を盾に取った脅迫に屈することを意味します」
「……そうかも知れないけど」
「帝は脅迫には屈しません」
「でも……第3戦団は何十万人を捨てられなかったのかも……」
「腐敗した人間は、罪に伴う罰を逃れるとそれを特権と思い込むんですよ。『自分は、罪を犯しても許される人間だ』と増長します。真に、何十万人を救うのは『罪に対する厳粛なる罰』です」
轟音とともに少し高温の気流がアスファルト上を流れる。足下から吹き上げる風圧が、入鹿の長髪を巻き上げる。
第2戦団の空中移送機が、目の前に着陸した。
「何よ、また1人で『朱雀』帰るつもりだったの? あたしも一緒に行く!」
「個人的な用事ができたんです。ついでにGV3Xを運んでおきますから、貴女は後から来て下さい」
御堂をそこに留めて、入鹿は1人でGV3Xのコクピットへ向かう。巻き上げられるワイヤーに掴まって登っていく入鹿の背中を、御堂は見送った。
その軍服姿の背中が、御堂が入鹿を見た最後となった。




