第79話 巨人の降臨
入鹿は、空中移送機の操縦士との通信回線を開き、5分後に空中移送機を第3戦団の前衛3機の足下へ突っ込ませる指示を出した。
「なに、それ?」
「これから下へ降りて第3戦団と交渉します。5分以内に第3戦団が撤退しない場合、地表に降りているパイロットに空中移送機をぶつけます。パイロットがいなければ、前衛3機は鉄の塊、後衛3機は対重甲機兵の装備ではありませんから容易に撃破できます」
御堂は言葉を失う。生身のパイロットを狙うなんて納得できない。
入鹿は、空中移送機の操縦士に脱出するタイミングと方向を確認し、御堂にはビーム狙撃を攪乱する手順を指示する。
「第3戦団は、同盟議会での『ルージュピーク侵攻部隊の指揮権を第3戦団に委ねる』議決を根拠として部隊の指揮権を要求してるはずです。指揮権の委譲はなくとも、施設の中に入れれば『議決への同意』を既成事実にするでしょう。一歩たりとも建物に踏み入れさせない……トイレを貸すことも拒否する必要があります」
「トイレくらい大丈夫よ」
トイレの件は、入鹿の冗談だと思って突っ込んだつもりだ。
「同盟議会の決議を尊重したから、第2戦団と第3戦団は同じトイレを共有した……と主張されたとき、貴女の力で否定できますか?」
「他人の口に蓋はできないわよ!」
「できないのなら勝手な判断でハードルを下げないことです」
入鹿は冗談を言ってるつもりはないらしい。御堂は口を噤む。
空中移送機の上で、GV3Xは戦闘モードへ移行する。
光粒子を纏いながら、主推進機関を点火させて空に翔ぶ。
全身の姿勢制御用の推進機関も稼動させて、空中で体勢を整えながら山本機と新藤機の後方へ舞い降りる。
甲高いジェット音を響かせ、推進機関が吹き上げた赤い砂塵の中に17メートルの巨体が立ち上がる。
薄れる赤塵の向こうに、アンバーホワイトの機体が浮かび上がった。その装甲の上を光粒子が流れる。
GV3Xの機械眼球が、第3戦団の緑の軍服を着る3人に焦点を絞った。そのうちの一人、軍刀を腰に下げた将校の視線が入鹿と交錯する。
「僕が一人で降ります。不測の事態に備えてCユニットに機体の制御を許可しておくので貴女は残って下さい」
「あたしが交渉する! 玲が残りなさいよ」
「貴女が盾になっても空中移送機の体当たりは止めませんよ。万が一、第3戦団を受け入れる兆候があったら、味方もろとも工廠施設を爆破します」
「……」
御堂の考えは、入鹿には見抜かれていた。そして口にした以上、入鹿は必ず実行する。
「ごめん。あたしが残ります」




