第78話 射流鹿の譲歩
GV3Xを乗せた空中移送機は、着陸できずに上空を旋回しながら眼下を伺う。
「せめてさ、最初は話し合いから……とか」
「先手を取る必要があります」
第3戦団のB級ジークフリードは6機、第2戦団は3機。明らかに不利だ。
「第3戦団も同じ近衛軍だよ。本来は同じ志で戦うんだから、わかってくれると思う。早まらないで話し合おう?」
GV3Xの『着陸要請』に第3戦団は応じない。工廠施設や第2戦団の機体からも指示がない。
「後方3機が装備している火器はライフル型のビーム砲ですね」
重甲機兵の装甲は、レーザーやビームの光学兵器を拡散する性質がある。対重甲機兵の戦闘で致命の損傷を与えるなら物理的兵器の方が有効なため、接近戦なら剣や戦斧で戦い、遠距離戦なら実弾の銃火器を用いる。
「後方3機は、重甲機兵戦ではなく、対人対物を想定しています。おそらく工廠施設を攻撃すると脅迫して、第2戦団に譲歩を迫っているのでしょう」
それを第2戦団が受け入れない状態……脳天気な方の御堂にも、両者の関係が緊迫しているのはわかる。
「でもさ、どうして第3戦団がそんなに強硬なんだろ?」
「3軍合同演習の襲撃事件を、真相究明されたくないからでしょう」
「え?」
「首謀者に名を連ねていたか……それとも、イルドラ公国やナーガオウ州から事件の幕引きを依頼させての行動なのかは不明ですが」
3軍合同演習の襲撃事件……御堂にとってはトラウマである。愛機はスクラップとなり、御堂自身も囚人扱いで2週間を過ごした。
しかし、御堂が知らないことがある。
安全保障局の刀自古が言う「入鹿准尉の暗殺」未遂……その真の意味が「日嗣皇子の暗殺」未遂であったこと。
入鹿玲の戸籍は、日嗣皇子(帝位継承者)である羅侯射流鹿を反帝派勢力から隠すために月夜見が安全保障局を通して用意したものだ。
月夜見は『3軍合同演習・襲撃事件』を、単に「新型機の強奪」を目的としたものとは考えていない。もっと深遠に「日嗣皇子暗殺」が動いていた可能性を疑っている。
月夜見が、敢えて前線を離れて首都・不死鳥京へ赴いたのは、皇城府に徹底的な真相究明を確約するためである。
そして、それを牽制するかのように同盟議会の不法な決議が採択された。
「第3戦団だって、真相究明したい気持ちは一緒だと思う。きっとやり方が異なるだけで、話せばわかってくれるよ」
射流鹿と御堂では、前提とする情報が異なる。
情報から導かれる結論も異なるのは当然かも知れない。
「5分だけ、話し合いをします」
入鹿は、5分だけ譲歩した。




