第71話 和泉御前
一言で『帝国』と呼称しているが、正しくは小規模な都市国家の集合である。首都とされる不死鳥京を中心に、いくつかの都市国家が同盟関係で繋がっており、元老院と呼ばれる議会が最高機関として存在している。
しかし、帝の存在は元老院の外にある。
元老院の議会を行う、元老院議事堂は、不死鳥京のほぼ中央に位置する。その北側に皇城府があった。皇城府は、帝の詔を執行する機関であり、帝の私兵たる近衛軍そして安全保障局の上位組織でもある。
皇城府・会議棟の北対にある庭園に、月夜見はいた。円形テーブルを挟んだ向かい側に、白小袖に緋袴を纏った女性もいる。
解放された天井部からは直射日光が差し込んでいた。
「いきなりお腹が空いたから……と、来られても困りますよ」
食事を終えて、当たり前のように紅茶を飲んでいる月夜見に呆れるような視線を向ける。今の月夜見は素顔で、仮面をつけていない。
「刀自古を『朱雀』に残してきたからな。家に帰っても主人しかいないし、誰も食事を作ってくれないんだ」
「その御主人の食事は、誰が用意するんです?」
「主人は自分の分は自分で用意できる。あまり美味しくはないが」
「……まったく」
大きくため息を漏らす白小袖を纏った女性は、和泉御前。帝の妻として太后の地位にある。
「それに、ここならば誰も邪魔をできない。食事も考え事も、ゆっくりできる」
この庭園は、太后により男子禁制と定められている。ナーガオウ州へ進軍した月夜見に対して面会を求める内外の議員も、ここには立ち入れない。
「では、不死鳥京にいる間は、彼女を付けてあげましょうか? 料理の腕は保障しますよ」
太后は、少し離れたところに座っている振袖姿の女性に目を向けた。
「やめてくれ。何時、後ろから撃たれるかわからん」
刀自古と同年代の女性。しかし行政官ではなく、太后の護衛を任された警務官だ。あの、振袖の中には銃器が隠してあるし、それを扱う技量もずば抜けている。
もっともそれ以前に……太后に護衛が必要なのか?とも思う。
白小袖や緋袴と言う身体の線が出ない衣装は、内側に隠し持つ銃火器のカムフラージュのようなものだ。今、もし敵意を持った者がこの庭園に侵入しても、数秒で蜂の巣どころか肉塊にされるだろう。
「何か?」
自らの顔を凝視されていることに気付いた太后は、月夜見に問う。
「刀自古がな。射流鹿が、お前にそっくりになったと言っていたよ」
刀自古が……とは言ったが、月夜見自身がそう思う。とは言え、それを認めるのは少々悔しい気がした。




