第70話 施設攻防戦、報告
戦艦『朱雀』は、中央管制塔の陸上軍港に停泊している。中央管制塔と工廠施設の距離は、直線距離でおよそ20キロメートル。空中移送機の発着路を利用すれば数十分で行き来できる。
「一階の中央警備室で、相楽行政官がお待ちだよ」
工廠施設を稼動させている施設班・責任者の新藤良太郎少佐は、入鹿を見つけると刀自古の来訪を伝えた。
入鹿は、新藤少佐に敬礼して中央警備室へ向かう。
GV3Xの戦闘記録を保存した記録メディアを刀自古に渡し、いくつかの留意点を口頭で伝えた。刀自古は入鹿の報告を一通り携帯端末に入力し終えると、持参したポットを取り出す。
「どうぞ」
ポットから紙コップに紅茶を注ぎ、入鹿に勧める。
「……」
僅かに入鹿の口元が開きかけるが、言葉を飲み込んだ。
「また、御堂准尉ですか?」
刀自古の問いに入鹿が頷こうする刹那、中央警備室の扉が開いた。
「あたしが、どうしたって?」
「御堂准尉、どうしてここに?」
御堂は、扉を閉じると入鹿の隣に椅子を置いてそこに座る。入鹿の前に差し出された紙コップを勝手に取って、紅茶を一気に飲み干した。
「施設班の新藤少佐に言われて来たんです。もしかして。あたしは来ちゃいけなかったんですか?」
刀自古は、入鹿だけを呼び出したつもりだったが……新藤少佐は「同じ士官候補生だから」と御堂にも声をかけたようだ。
「では、僕の報告は終わりましたので……次は、御堂准尉の番です」
入鹿はそそくさと立ち上がって警備室を出てしまう。何となく、御堂を引き留める役を押しつけられたのを刀自古は察した。
「本日の戦闘で、何か報告はありますか?」
報告を受ける体裁で、少しの時間だけでも御堂を足止めしよう……それを、入鹿=大兄様が期待してるらしい。
「質問はあります」
「……どうぞ」
「記録だけなら通信回線で送信できます。わざわざ来訪したのは何故ですか?」
「敵対勢力のインフラ上で、重要機密を送信するのは危険と判断しました」
ふーん……と御堂は頷いたが、まだ納得していないようだ。
「相楽行政官はおいくつですか?」
「28歳ですが……それが何か?」
「玲より6歳上なんですね」
「はい」
「玲とは幼なじみで、お母さん同士が友達とか?」
「いえ。違いますが……」
刀自古がわざわざ入鹿に会いに来たのを、実は『入鹿の幼なじみの婚約者』かも知れないと疑ったのだ。
「じゃあ、OKです」
そう言って御堂も警備室を出て行った。残された刀自古には、全く意味がわからなかった。




