第64話 施設攻防戦、夜(2)
「お母さんの友達のお嬢さんだった? それなら幼なじみじゃん」
「年上なの? うん、玲には年上がいいよ。へえ、六歳離れてるんだ」
好奇心からか、御堂のテンションはかなり高い。身体に巻いたタオルがはだけても全く気にせず、入鹿を問い質すのに熱中している。タオルの隙間から、御堂の素肌がチラチラと露出するせいで、入鹿の方が一方的に混乱させられる。
御堂の方は、どこが露出しても全く気付いてない。
「でさ、プロポーズの台詞は?」
「普通に『お嫁さんになって欲しい』ですけど……」
「で、彼女の返事は何て?」
「えーと……『大人になったらね』です」
「はい???」
ここで少し御堂も冷静さを取り戻して、一旦背を向けてタオルを巻きなおす。露出しないように、ベッドの上で正座して入鹿に向き直る。
「プロポースしたのって……何時なの?」
「16年前……ですけど」
「……16年前……ね」
御堂は大きくため息をついた。
(6歳の男の子が、12歳の少女に結婚を申し込んだのね)
「その彼女とは、結婚のことは具体的にどう話し合ってるの?」
「最近は会ってませんから、話をしてません」
「どのくらい?」
「最後に会ったのは、士官大学校に入る直前です」
「メールとか電話とかあるじゃん?」
「事情があって、一切連絡は取っていません」
「……」
今度は御堂の方が、言葉を失う。何と説明したらいいのか、少し混乱する。
「あのね。辛いかも知れないけど、玲のためを思って敢えて言うね。『大人になったらね』って言うのはOKじゃないの。子供相手だからお手柔らかにNOって言われたの。仮にその時OKと思っても、色々と経験や出会いがあるから気持ちも変わるの。あたしの姉さんだって、高校から付き合ってた彼氏よりも20代後半で知り合った男性と結婚したし」
諭すように言う御堂だが、言われている入鹿は不機嫌になる。
「そう言う、尻軽女と彼女を一緒にしないで下さい」
「何よ! あたしの姉さんを尻軽女って言うわけ?」
御堂の右手が、入鹿の胸座を素早く掴んだ。右腕の動きに弾かれてタオルがはだけたが、御堂は気にしない。
「辛いかも知れないけど、事実を言っただけです」
御堂の右手を振り払って、入鹿はベッドに入らず椅子へ移動した。
「もう、貴女とは口を利きたくありません」
それきり口を閉ざして、いつの間にか入鹿は眠ったようだ。
ため息を吐きつつも、御堂は満足していた。御堂の右手を振り払う時に、痛くさせよう気遣いがあったからだ。
御堂も、その日は眠りにつくことにする。




