第60話 御堂の評価
御堂が司令官室を出たのは19時を過ぎ。それから刀自古は、入鹿から受け取ったGV3Xの戦闘記録を確認して報告書の下書きを作り始めた。
21時15分。下書きがある程度完成した頃に『朱雀』の司令官室に月夜見が戻って来た。
「お帰りなさいませ。ご飯にしますか? それともお風呂?」
重甲機兵の用兵において近衛軍最強と言われる月夜見だが、日常生活は不器用この上ない。電子レンジの設定、給湯器の温度変更すら一人では危うい。機械に弱いわけではなく、単純に興味がないだけだ。
刀自古の、嫌味がこもった出迎えに「機嫌が悪そうだ」と月夜見は察する。
「食事は済ませた。シャワーだけ浴びさせてくれ」
月夜見がシャワーを浴びている間に、刀自古は紅茶を用意する。
裸体にガウンを羽織っただけの姿で、紅茶の前の椅子に腰掛けて脚を組んだ。容姿もプロポーションも完璧な美を保ってる。50歳に届くとは思えない。
婚約者を寝取られた恨み……で「あの女より先に劣化したくない」との意地で肉体をメンテナンスしているらしい。
刀自古にとっては、地表で一番「面倒くさい女」である。
未完成の報告書とGV3Xの戦闘記録を再生する端末を、紅茶の横に並べた。
「また、命令違反です」
入鹿の指示に従わず、御堂は武器を捨てて州軍機に、GV3Xを接近させる。
『お願い。今だけ……あたしの自由にさせて』
やれやれ、と言う様子の刀自古。月夜見は端末を手に取って、その前後を何回も再生した。月夜見の口元が微かに上がり、表情が緩んだ。
「少しだけ進歩があったじゃないか」
「進歩ですか?」
刀自古には、意味がわからなかった。
『……もし、州軍機に不審な動きがあったらSユニットは爆破していいから……』
少し先の音声を示されたが、 月夜見の意図はまだ伝わらない。
「命令違反をするにしろ、命を賭ける覚悟はあったようだ。青臭い正義感を振りかざすだけのお花畑脳から幾分マシになったと思わないか?」
刀自古はため息をつく。
「大兄様とGV3Xを危険に晒してまで得るほどの、メリットとは思えません」
刀自古は、入鹿を大兄と呼ぶ。大兄とは第一帝位継承候補を指す。入鹿の本当の名は羅侯射流鹿であり、帝国の水蛭鹿帝の唯一の皇子である。
「もし御堂准尉が射流鹿の障害になるなら、安全保障局の自由にしていい」
刀自古の指摘が正しいのは、月夜見とて認めている。
「だが……その射流鹿が、今回は御堂准尉の自由を許した。もう少し、成長を見てやってくれ」




