第59話 入鹿の受難
「これから先は連絡事項です」
紅茶で喉を潤してから、刀自古は1枚の書類を御堂に示した。
「貴女が第2戦団に仮配属されて9ヶ月が過ぎました。3ヶ月後には正規の近衛兵となるわけですが……残り3ヶ月は、安全保障局の監理下におかれることが決定しました」
「え……あたしだけ、ですか?」
さっき嫌疑は晴れたって言ったじゃないか……と御堂の眼が訴えている。
「入鹿准尉も同様です。一樹教官の逮捕により、その指導を受けていた士官候補生は安全保障局の監視下におかれていました。今回の決定は、監視を解き、監理下におくことを正式に示したものです」
「あの……監視と監理の違いって何ですか?」
ここで刀自古が、双眸を細める。明らかに不快感を表に出している。思わず、御堂は失言をしたのかと脅えてしまう。刀自古の威圧感は、御堂にはトラウマになっていると言えた。
「監視が解かれた時点で、第2戦団で新たに指導官を定めるべきなのですが……月夜見様が『面倒だから、そのままでいい』と仰いました。安全保障局が、士官候補生を指導した前例はありませんし、そのような部門もありません。便宜的に『監理』と言わせて頂いております」
安全保障局が、月夜見の我侭に振り回されてる……らしい。
「第2戦団での任務には干渉致しません。ただし、任務遂行記録は共有させて頂きます。言うまでもないことですが、貴女の行動に叛逆行為があれば安全保障局は対処します」
それが『監視』です!……の言葉を、御堂は飲み込んだ。
御堂の前に置いた紅茶が、手を付けられていないのに気付く。
「ごめんなさい。珈琲の方がよかったかしら」
とは言え、この部屋には珈琲を煎れる機器がない。御堂が「大丈夫です」と言う前に、刀自古は食堂の厨房に電話を入れて珈琲を届けさせた。
御堂は、角砂糖を2個入れた珈琲を一口飲んだ。そして記憶が甦る。
「この珈琲に『毒が入れられてるかも』って、捨てたら……相楽行政官でも怒りますよね?」
御堂の問いかけの意味がわからない。
「そう言う人とは関わらないのが一番ですね」
刀自古は、無難な相槌を打って聞き流そうとする。
「そうかも知れませんけど、癪に障るじゃないですか。せめて『君の煎れる珈琲は美味しいね』くらい言わせてやりたいですよ。珈琲の煎れ方知らないけど……」
「……面倒くさい女」
心の中に生じた印象を、思わず声になって呟いてしまった。御堂の双眸には怒気がこもっている。御堂が執着する相手を、刀自古は知らなかった。




