第55話 軍規違反
「あたしが奢ったホットココアを捨てたじゃない!」
「わかりました。弁償します」
「そーゆー問題じゃなーーーい!」
御堂の声に目眩を感じて、入鹿はSユニットで眼を閉じた。
3軍合同演習中のイルドラ軍による近衛軍への襲撃事件。ナーガオウ州軍は、それを黙認する形でイルドラ軍に加担した。
ナーガオウ州議会は帝国への恭順を示し、3軍合同演習に関与した者の引き渡しを約束する。しかし、州軍の一部が州議会に反発してルージュピーク演習場を占拠してしまう。
ナーガオウ州の内乱あるいは内部分裂である。ナーガオウ州議会も帝国に対して「軍部を説得し、しかるべく対処する」との申し入れを行った。
しかし……。
第2戦団司令官の月夜見は、ナーガオウ州議会を無視して軍事介入を強行した。ルージュピーク演習場へ第2戦団を投入したのである。
速やかに、ルージュピーク演習場に潜伏する敵対戦力を殲滅する……それが入鹿たちに課せられた任務のはずなのだ。
「あたしね、あの事件の後ずっと軟禁されてたの。入鹿准尉暗殺未遂の共犯の容疑で。安全保障局に!」
あの事件とは、3軍合同演習フラッグ戦での襲撃事件のこと。入鹿機の自爆に巻き込まれて意識不明となっていた日数も加えれば、2週間程度を個室病室で拘束されていた。
「あなたがGV3Xを前哨基地へ運び込んだ日の朝に、やっと解放されたの。安全保障局が無実を認めてくれたのよ。わかった?」
同意を求められたが、敢えて入鹿は返事をしない。
「だから……あたしは、あなたに渡すホットココアに毒なんて入れないの!それを、あなたは捨てたのよ。傷つくわよ。謝りなさいよ!」
「貴女は、謝ることはないのですか?」
「何で、わたしが!」
「イルドラ兵の襲撃を『朱雀』へ報告義務しなかったのは、軍規違反です」
「……」
「軍規を守れない人間として、貴女が信用を失っただけです。自分の無責任を僕のせいにされるのは迷惑です」
「……ごめん」
数分後。GV3Xの側で待機していた興田主任に、接触通信回線で御堂の声が届いた。
「Cユニット神経接続完了しました。バッテリー、お願いします」
御堂の声は、元気のない弱々しいものだった。
「お、おう。大丈夫か?」
「はい、大丈夫です」
仲直りは失敗したらしい。入鹿の方が大人の対応で、御堂の機嫌を取るかと思っていたが違ったようだ。
仕方がない……バッテリー接続の回路をオンにするしかない。
バッテリー接続のチェック灯がレッドからグリーンに変わった。




