第50話 サンダーバード
前哨基地の地下の重甲機兵用工廠。入鹿機と御堂機があった台座はどちらも空席となっている。
泣き腫らした眼で、呆然と空席となっている台座を御堂は眺めていた。
ようやく、御堂は軟禁を解かれた。そして愛機が破壊される様を見てきたのだ。
赤塵の丘で、新開発したレールガンの試射が行われた。その標的になったのが、半壊していたGS4である。
超々高速で打ち出される砲弾が、GS4に次々に孔を空ける。装甲板が弾け飛び、素体構造が砕け、右腕が、左腕が地表に落ちる。
ズタズタになってゆく愛機の姿に涙が止まらなかった。
重苦しい駆動音を響かせて、ヨチヨチ歩きのような足取りで一機の重甲機兵が工廠に入ってきた。
その機体は、まだパイロットとの同調が未調整のようだ。
(GS4!)
御堂は、自分の愛機が戻ってきたのかと思った。しかし、よく見ると違う。
装甲形状とシルエットはGS4に似ている。けれど、かなり古い機体だ。手入れはされているらしいが、装甲板は艶を失っていて傷も目立つ。
GS4に似た機体は、入鹿機が置かれるはずの台座に腰掛けた。
胸部装甲が開いて、コクピットが迫り出してくる。コクピット型式もGS4とは全く違う。ワイヤーで降りてきたのは入鹿だった。
「玲!」
反射的に、入鹿に向かって御堂は走り出していた。入鹿と直接顔を合わせて、言葉を交わしたのは2週間くらい前だ。
「ねえ、この機体……」
「これが本物の雷鳥です」
「え?」
「雷鳥は、13番機の実験機に与えられた暗号名だったんですよ。GS4は、この機体の量産型を目指したものでした」
「こんなの、どこから持ち出してきたの?」
「ラインゴルド領から、預かってきました」
御堂は、思わずその機体に見とれていた。
(これ、あたしの機体だ!)
一目惚れ……いや、運命の出会いだと思った。
「ねえ、これ。あたしに頂戴!」
「はい?」
「その代わり、ヤラせてあげるから!何発やってもいいから!」
いつの間にか御堂の右手は、入鹿の胸座を掴んでいた。その右手を引いて、入鹿の顔を引きつけようとする。そして、気付く。
「それ、ど……」
どうしたの?と尋ねようとしたが、込み上げてくる笑いに言葉を繋がらなくなってしまう。
入鹿の顔には、額から右頬までを三本の引っ掻き傷が走っている。明らかに人の手の爪痕だ。直感的に、これが女の手に違いないと思った。
笑いを抑えられず、御堂は思わずしゃがみ込んでしまった。膝に顔を埋めて蹲りながらも、その背中が痙攣するように震えてた。
-第三章 終わり-
※射流鹿の顔の引っ掻き傷……ラインゴルド領で何があったのかは,実は拙作『機兵戦記 -傭兵機団の姫と帝国の日嗣皇子-』で書いています。
こちらの「小説家になろう」サイトでは、まだ未公開ですが……折りを見て公開するつもりです。




