第49話 御堂の処遇
「一樹少佐の口車に騙された面もある。もう一度、チャンスを与えても良かろう」
「もう一度……ですか」
月夜見の言葉を、射流鹿は抑揚のない声で繰り返した。
敢えて「どうしたいのか?」とは月夜見も訊かない……訊けば、刀自古と同じことを言うのがわかっているからだ。
射流鹿の幼少時から、月夜見が様々なことを教えてきた。その上で確信している。射流鹿の軍事的な才覚は、水蛭鹿帝以上に帝国を強大にするだろう……と。
しかし、成長するに従って猜疑心と不寛容な気質がより強くなったのを気がかりに思う。
14年間の「帝国の悪夢」の後。水蛭鹿が軍事蜂起し、反帝派を駆逐して帝位につくまでの戦いは、後に「白菊の変」と呼ばれる。
赤椿の変の後に「反帝派が擁帝派を粛正した」ように、白菊の変の後では「擁帝派による反帝派への粛正」が行われた。
そして、それを主導したのは水蛭鹿帝ではなく太后となったあの女だ。
……いや。
あの当時の不寛容と冷酷は、ある意味では時代に求められた資質だったかも知れない。武人然とした水蛭鹿帝ができない決断を、太后が代わりに果たしたとも言える。
「あの女の腹から生まれたとしても、いちいちあの女に似る必要はない」
月夜見が射流鹿に向かって『あの女に似る』と言うのは、射流鹿の『不寛容や冷酷さ』を批難する時である。
「賢者に示す寛容は感謝を返してくれますが、愚者に示す寛容は増長させるだけですよ。増長した愚者は、害悪以外の何者でもありません」
赤塵の丘でのA級ペルセウス戦と3軍合同演習での狙撃を経験した射流鹿にすれば、もっともな主張ではある。だが、母親を否定されたくない本音が月夜見には透けて見えた。
なるほど。御堂が「マザコン」と受け取ったのも致し方なし、と月夜見も思った。
「もう一度チャンスを与えることで、御堂准尉が増長すると思うか?」
笑いながら問いかける月夜見に、射流鹿は返事をしなかった。
戦艦『胡蝶』が、前哨基地を発って7日が過ぎた。一樹少佐の身柄は、首都・不死鳥京の安全保障局本部へ送還され尋問を受けている。
前哨基地の刀自古の元へも、ある程度の調査報告が届いていた。取り敢えず「日嗣皇子暗殺への御堂准尉の関与」は一応否定された。
後は、星間協定に反する奇襲攻撃に際して報告義務を怠ったことだが、それは安全保障局の管轄ではない。
「公務執行妨害でもデッチ上げて、本部へ送還してやろうかしら」
本気とも冗談とも知れない呟きが、刀自古の口から漏れた。




