第46話 射流鹿
前哨基地に陸上戦艦『胡蝶』が停泊していた。
戦艦『胡蝶』の乗艦口には、第1戦団の戦団章を付けた警備兵が立っている。そこに自分の身長ほどの大きなトランクケースを持った入鹿が現れた。
「有馬司令に、荷物を届けに参りました」
警備兵は入鹿の軍籍票を確認し、電話をしてから乗艦許可証を手渡してくれた。
「そのまま、お待ち下さい」
警備兵の指示に従い、その場で待っていると相楽刀自古秘書官が迎えに降りてきた。
戦艦『胡蝶』は、帝の使節をラインゴルド領へ送り届ける任務を受けている。第2戦団司令官の月夜見も、その使節の一人に選ばれていた。
刀自古に先導され『胡蝶』の居住区へ向かう。居住区には使節用の客室が用意されており、月夜見の客室へ入鹿は案内された。
「大兄様をお連れしました」
部屋の中にいた月夜見は仮面を外している。その素顔は、50歳に届くはずだが美貌は全く衰えていない。20代の刀自古と並んでも姉妹で通るだろう。
「その荷物は、お前の着替えだ。直ぐに着替えろ」
月夜見の客室と隣の客室は、中央部の扉で繋がっている。入鹿はトランクケースを持って、隣の客室へ移動する。
トランクケースの中には、白い軍服と一振りの太刀が入っていた。
入鹿玲の名は偽装された戸籍であり、本当の名は羅侯射流鹿。帝国の水蛭鹿帝の唯一の皇子である。
白い軍服は射流鹿の身体の寸法に合わせてあった。背には、金で縁取りされた黒い不死鳥の紋章が描かれている。
太刀を左手に握って、月夜見と刀自古の待つ客室へ戻る。
「様になっているな」
白い軍服を着た射流鹿の姿を見て月夜見が感心した。身長だけは、父である水蛭鹿帝を越えたのではないだろうか。
「この太刀を、持ってきてくれたんですね」
射流鹿が16歳の時に、父である水蛭鹿帝から贈られたものだ。最強の剣技を持つとされる水蛭鹿帝が認めた刀匠の手による業物である。
「ラインゴルドへ帝の名代として訪問するのだ。正装で行くべきだろう」
刀自古が紅茶を用意してくれた。部屋の中央のテーブルに紅茶を並べて、月夜見と射流鹿を席に促した。
「本当に、太后様にそっくりになられました」
思わず口にしてから、刀自古は月夜見の視線に気付く。刀自古の言葉に、月夜見は露骨に不快感を顔に出した。
「私にとっては拷問だ。眼の中に入れても痛くないほど可愛がっているのに、その見目形がいちいちあの女に似てくるのだからな」
見目形だけではない。成長するに従って、その気質も似てきたように感じられる。




